エネルギーコンサルタント・越智文雄の「持論・時論・自論」+ 蛍光管製造禁止に関わる諸問題(2)
エネルギー基本計画と省エネ
このような大変な事態にもかかわらず、昨年1年間、政府は照明危機に対して何の広報周知も行わなかった。今年の経済界の新年会で商工会議所会頭も銀行頭取も「2027年問題」を知らず、「なぜこんな大事なことが我々に知らされていないのだ」と驚いていた。
答えは原子力の再稼働であると私は考えている。蛍光管の製造禁止は23年12月にはスイスの国際会議で決定していながら、石破内閣になって閣議決定されるまで1年が経過した。これはなぜか。
中国が仕掛けた資源戦争とは別に、国内では3年ぶりのエネルギー基本計画の改訂で原子力の再稼働という大きなシナリオをオーソライズしようとしていたのである。「AIの進展や半導体工場の稼働により莫大な電力量が必要となり、原子力の再稼働が必要となる」。このような電力爆増シナリオの前に、「日本中の照明がLED化されると発電所が10基いらなくなる。空調の冷媒ガスを自然冷媒に変えると20基分の省エネが実現する」といった事実は邪魔だったのである。
状況証拠であるが、24年12月17日に第7次エネルギー基本計画は発表され、その翌週の12月24日に27年蛍光管製造禁止が閣議決定された。今回の日本のエネルギー計画には、省エネという当然あるべき章立てではない。
この日本だけの原子力再稼働事情のため、世界から2年は遅れてしまった。トランプがウクライナとシビアな交渉をしている間も、蛍光管が無くなってしまうことを日本の経済界にも国民にも知らされていなかった。このせいで日本の社会経済の基本機能である「あかり」が脅かされているのである。
利権と不正
これほどの危機感を持って全国に警鐘を鳴らしているが、これを地域の危機として考えずに自分の利権を守ろうとだけ考えている団体もある。日本の「あかり」を守るのだから、メーカー団体の照明工業会とLED化工事を進める電気工事業界がその主役となるはずなのだが、彼らの中には今までの利権や自社利益を守ることに主眼を置き、この国難とも言える非常事態への対応を考えようとしていない勢力もある。
いくつかの自治体のLED化入札では明らかな独占禁止法3条違反の入札妨害や自治体を巻き込んだ談合と疑われるような利権誘導が散見されるようになっている。ある建設系の大手リース会社はこの巨大なビジネスチャンスに、地元の電気工事業組合を囲いこんでほかの競合リース社には工事協力しないように入札妨害をするのが常套手段になっている。官製談合を疑われるような不公正な入札条件を設定したり、担当職員以外は持っているはずのない落札参考金額を入手していた例もある。
都道府県や政府調達では90年分とは言わないが、10年分、20年分のボリュームのLED化発注が2年、3年で必要になるのだから、今までのような地域にお金をばらまく公共工事ではこの国難は乗り切れない。10年分20年分の仕事を2年半で成し遂げねばならないことを真剣に考えて、解決策を研究して欲しい。地域の「あかり」を守るのには本来誰が主役になるべきなのか。知事も市長も町長、村長も議会も経済団体も真剣に考えないと、もう時間は残されていない。(次回は、4月14日配信予定)