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鼎談 能登半島地震、災害廃棄物処理や復興の現状と今後 経験等を広く情報発信し、人々の意識啓発につなげることが重要

【出席者】

家村商店代表取締役社長 古山 幸一 氏
大阪環境カウンセラー協会BCP部門部門長理事 花村 美保 氏
エンタープライズ山要代表取締役 山口 玉緒 氏

(司会)環境新聞編集部 黒岩 修

鼎談 能登半島地震、災害廃棄物処理や復興の現状と今後 経験等を広く情報発信し、人々の意識啓発につなげることが重要_家村商店 代表取締役社長 古山 幸一 氏
家村商店 代表取締役社長 古山 幸一 氏
鼎談 能登半島地震、災害廃棄物処理や復興の現状と今後 経験等を広く情報発信し、人々の意識啓発につなげることが重要_大阪環境カウンセラー協会 BCP部門部門長 理事 花村 美保 氏
大阪環境カウンセラー協会 BCP部門部門長 理事 花村 美保 氏
鼎談 能登半島地震、災害廃棄物処理や復興の現状と今後 経験等を広く情報発信し、人々の意識啓発につなげることが重要_エンタープライズ山要 代表取締役 山口 玉緒 氏
エンタープライズ山要 代表取締役 山口 玉緒 氏

2024年1月の能登半島地震から間もなく1年半が経とうとしている。現在被災地では倒壊建物の公費解体、それに伴い発生する災害廃棄物の処理が進められている。そんな能登の被災現場や災害廃棄物処理の状況について、東日本大震災で被災経験を持ち、大阪環境カウンセラー協会でBCP(事業継続計画)を担当し企業へのコンサルなども行う花村美保氏、大阪で廃棄物処理業を行い産業廃棄物、一般廃棄物両部門でレジリエンス(国土強靭化貢献団体)認証第1号となったエンタープライズ山要代表取締役の山口玉緒氏が、石川県七尾市で現在災害廃棄物処理に取り組む家村商店代表取締役社長の古山幸一氏とともに4月20日から22日にかけて視察した。視察を終えた22日、3氏に災害廃棄物処理や復興の現状を見て感じたこと、今後来るべき災害に備えて行うべきことなどについて語り合ってもらった。

――能登半島地震発生からの災害廃棄物処理への関わりや苦労したことは。

古山 石川県産業資源循環協会が被災した各市町村から業務委託を受け、協会が市町村ごとにリーダーを決めて災害廃棄物処理に当たってきた。私は七尾市を担当しているが、最初は片付けごみから始まり、倒壊建物の公費解体が始まってからはそちらの処理にシフトしていっている。当初住民からの片付けごみ受け入れの際には、市町村が仮置き場に持ち込む際のルールを示したが、被災して皆ピリピリしていることもあり、なかなかルール通りに持ってきてもらえず苦労することもあった。また、災害廃棄物ということで無料で受け入れているが、住民のふりをして業者が持ち込むようなケースもあった。

――公費解体は進んで来たか。

古山 七尾市では現在公費解体の申請が5400件ほど出ていて、最終的には6千件程度になるのではないかと言われているが、その半数程度の解体が進んでいる。現在月400~500件の解体が行われており、10月までの終了に向けてスピードが上がってきているところだ。ただ、まだ引っ越しが決まっていなかったり、空き家で連絡が取れないといった事情で手が付けられない物件も多くある上、建築業の人手不足の問題もある。そうした課題をどうクリアしていくかだ。これは七尾市だけでなく、被災した各市町村共通の課題となっている。

――今回の視察の目的や感じたことは。

花村 私は前職の時に東日本大震災で会社が被災した経験があり、その時も震災後何度か現地に足を運んで調査を行った。政府やNPOからの委託を受けて社会貢献として被災地支援活動を行う中で、会社でBCPに着手したのが、現在の活動のスタートとなった。やはり現場に行かなければ見えない課題や気づきなどが多いので、能登半島地震が起きた際にも現地に行きたいと思っていて、今回の視察に至った。東日本大震災と比較すると、東日本の時は津波被害が大きく建物が全て流されて基礎だけしか残っていないというところが多かったのに対し、今回の能登では地震で倒壊した家屋がまだ多く残っているのが目についた。また、山の崩落や海岸の隆起なども目立っていて、地震のあと9月に起きた大雨の被害も大きく、同じ被災地でも地形の差などで全く違う現象が起きているという印象を受けた。

山口 私は一般廃棄物、産業廃棄物の仕事をしていて、災害廃棄物は一般廃棄物なのでどういうスキームでどのような点に注意して処理が進められるのかを知っておくのが責務だと感じていた。七尾市で災害廃棄物処理に取り組んでいる古山社長とは産業廃棄物処理事業振興財団が行っている産廃経営塾の同期だったことから、協力をお願いして今回の現地視察が実現した。土砂災害、地震、津波といった現場を視察したが、これまでは写真や映像でしか見ていなかったのが実際現場を見ると生々しさを実感し、また起こり得るという危機感を持った。環境カウンセラーとして地球温暖化に対する意識を強くしたし、土砂災害を防ぐ取り組みの重要性なども改めて感じた。

――復興は進んでいるか。

古山 復興は徐々に進んで来たと思うが、今後はどれだけ人が戻ってきてくれるかだろう。もともと高齢化が進んでいたが、震災後は若い人の中にはもう住みたくないという人も多く、このままでは残るのは長く住んでいた高齢の人たちばかりになってしまう。また、七尾は和倉温泉を中心とする観光の街だったので、和倉温泉が復興しなければ七尾市、ひいては能登半島全体に活気が戻ってこない。こうしたところにもう少し国の支援があっても良いのではないかと思う。当社の事業としても今は災害廃棄物の処理で忙しくしているが、これが終わった後を考えると不安に感じることもある。今後新たな経営の方向性を考えていく必要性も感じている。

――東日本と比べて復興の進捗で感じることは。

花村 メディアを含めた復興に関する情報発信量が、東日本に比べ能登は少ないと感じた。例えば東日本では仮設住宅を建てる際に複数のハウスメーカーが参入してそれぞれ心地良さを感じてもらったり、建築家が機能性をアピールしたりして、仮設住宅を出た後に家を建てるときに採用してもらうための取り組みを行っているといった情報が多く入ってきた。今回珠洲市などを視察して能登でも良い仮設住宅などができているのを知ったが、離れたところにいるとそうした情報がほとんど入ってこない。情報が出てこないイコール復興が遅れていると感じてしまうので、もう少し情報を発信していくべきだ。観光で潤っていた街をもう一度人々に「行きたい」「住みたい」と思ってもらうには、自治体や企業、地域が一体となって外に向けてアピールしていくことが必要だと思う。

――災害発生時の企業の危機管理対応も重要になるが。

山口 当社では全社員が土砂災害にあっても帰れるようハザードマップを全車両に載せているほか、地震の際の対応、収集の仕方などの机上訓練を定期的に行っている。長くいる社員は理解しているが新しく入った社員は対応できないので、関連資料を社内で共有できるようにしている。ただ、自治体との合同訓練などはできていないし、仮置き場の場所も公表されていない。行政とのすり合わせができていないことには不安を感じている。一緒に訓練しましょう、BCPを作りましょうといった提案を自治体に行うこともあるが、自治体は数年で担当者が変わってしまったりと難しい面がある。また。市町村は首長の取り組み姿勢によっても大きく違ってくる。都道府県と市町村でも連携が取れていないことが多く、われわれ事業者としては災害時にどこに声をかけて良いのかわからず、待つしかできない。そうなると今回の能登のように産業資源循環協会が間に入るのが有効だろう。私としては非常時には地域のお役に立ちたいし社員も守りたいという思いから、BCPには力を入れている。

――今回自治体との連携はスムーズに進んだか。

古山 能登については協会が先頭に立って各市町村との連携を進めたので、ある程度うまくいったと感じている。しかし、やはり課題も多かった。最初に大変だったのは仮置き場の確保だ。珠洲市や輪島市は比較的広いスペースがあったが、七尾市にはそうした場所がなかったので仮置き場の確保には苦労した。協会が各市町村と災害協定を結んで、事前に仮置き場を決めておくといったこともやはり必要だろう。

花村 私は防災連絡協議会のような、廃棄物だけでなく解体等も含めた関連する業界団体が自治体と緩やかなコンソーシアムを作って、定期的に顔を合わせるような方法が有効ではないかと思っている。そうすれは各団体に属する企業が災害時にどう行動すべきかが明確になる。災害時には復興が優先されて各企業の事業継続は後回しにされがちだが、緩やかなコンソーシアムで多様な人たちが参加して、どこまで地元企業に依頼するか、どう役割分担するかといったシミュレーションをしておけば、各社が自社も守りながら地域の復興に貢献できるようになるのではないか。

古山 今回の災害廃棄物処理は、石川県産業資源循環協会が頭となって処理に当り、石川県構造物解体協会と連携をとり、分別解体をしっかり行い仮置き場へ持ち込みしてもらった。今回の方式は良かったと思う。石川モデルと呼ばれているが、他地域でも災害が起きた際には参考にしてもらいたい。

山口 南海トラフ地震などの広域災害が起こった際には各地でプラント設備も足りなくなるので、石川モデルを参考にして協会が各市町村等と連携できる体制を構築しておくことが必要だ。私たちは経営塾等で一緒に勉強して、その中で災害廃棄物を実際に処理した人たちの話も聞いてある程度は学んでいるが、災害が起きた際にどうすれば良いのか、どんなことが困るのかといったことを多くの処理業者は理解していないだろう。自治体と協会等が連携して、平時から定期的な訓練なども行っていくべきだと思う。

花村 日頃から災害時を意識した分別や、家庭内の粗大ごみ等を整理しておくことを住民に啓発していくことも必要ではないかと感じている。

――今回の視察を受けて、今後取り組みたいことは。

山口 訓練などを定期的に行って、企業としてレジリエンス体制をさらに強化していきたい。また、災害廃棄物だけでなく行政との関係を良好に保っていくことが重要だと改めて感じたので、今後はより密に連絡を取っていこうと思っている。

花村 私は企業の経営支援、コンサルティングなどを行っているので、そうした場で今回見聞きしたことをしっかり伝えて、各組織の方々に事業継続についてもっと意識してもらえるよう啓発していきたい。また、さまざまな媒体やネットワークなどを活用して広く発信していければと考えている。そして、今後も能登の復興状況を定期的に見ていきたいと思う。

――1年半近く災害廃棄物処理に携わって改めて思うこと、今後行いたいことは。

古山 震災が起きて以降業務に追われて、他県の方々との交流などもあまりできないまま日々を過ごしてきた。しかし、発災から1年以上が経過し、今回改めて他地域の方と被災地を巡って、やはりこれからは発信していくことが大事だと感じた。今後はさまざまな機会をとらえて自分たちの経験を多くの人に伝えることで、災害に対する人々の認識が高まっていけば良いと考えている。

鼎談 能登半島地震、災害廃棄物処理や復興の現状と今後 経験等を広く情報発信し、人々の意識啓発につなげることが重要_来年3月末の終了を目指し、災害廃棄物の処理が進められている(4月22日撮影)
来年3月末の終了を目指し、災害廃棄物の処理が進められている(4月22日撮影)