環境システム 代表取締役 鮎川 和泰 氏 データの質が評価され「水質計測のサブスク」好調 AIを使いこなし、研究を「実用化」へ
――昨年のビジネスはいかがだったか。
従来の販売部門は横ばいだが、2021年夏季から始めた水質計測機器の「サブスクリプションサービス(サブスク)」が非常に好調で、全体的として大きく伸長した。コロナ禍の影響で、政府の水環境関連予算が40%削減された国もあると聞く。水質計測の場合は、機器の購入費以外にメンテナンスや修理等の費用がかかるため、予算が絞られると飲み水以外の分野はつい後まわしにされがちだ。だが、サブスクであれば料金以外の費用は一切かからず、「予算は減ったがデータは欲しい」の声に応えられる。単なる機材レンタルと異なるのはデータのクオリティに責任を持っている点で、顧客が取得中のデータをAIが監視し、センサーが汚れてデータの質に劣化が見られた時には、すぐに交換機を送付して取り変えてもらうといった取り組みを実施。その結果、質の高いデータが顧客へ提供できている。特に短期間の観測では、「機器を低価格に抑えたい」との考えから安価なセンサーを選んでしまい、そのために正しい結果が得られないといったケースも少なくなかったが、サブスクでは目的に応じた最適なセットを弊社が用意する。試しに3カ月でも利用していただくと、費用は抑えつつ確実な結果が得られることが分かってもらえる。高い顧客満足が提供でき、自ずとリピーター率が上がっている状況だ。

――顧客にはありがたいサブスクだが、貴社の負担が大きいのでは。
始める前は多くの人から「成り立たない」と忠告を受けたが、実際はウィンウィンだ。いつも顧客の機器点検や修理を行うとき、「今この部品を取り換えておくだけで、全体が長持ちするのに」と思うことが度々あったが、あくまで経験則なので理由説明が困難な費用が発生するので提案できずにいた。サブスクでは、当社の判断によって部品交換をするので器材の重大な破損がほとんどない。26期水質観測機器を専門として来た結果、機器異常が生じる前に出来る「保守対策技術の向上」が成功理由だと思う。顧客にも非常に喜ばれており、当初20件程度の契約が今では100件以上に増加。顧客は、費用対効果を認めて計測場所を増やす傾向にある。弊社は水質計自動昇降ロボットによる「水質ビックデータ」の取得やデータの可視化、水質の遠隔監視技術開発を進める上でいつもAIの活用を意識してきたこと、業界内では前例のないサブスクへのいち早い挑戦が奏功し、予算が厳しいとされる中でコアな顧客をしっかりと獲得できている。来期の注文が早期に決まるので、事業計画が立てやすくなったことも当社には大きなメリットだ。
――新たに挑戦したいことは。
気候変動の影響なのか、各地で局地的豪雨が頻発していることから、洪水を防ぐためにダムや湖、調整池などの水位をあらかじめ下げておく「低水位運用」が各所で行われている。15年来、島根大学の研究員としてダムの水質研究に携わり、アオコによる悪臭問題などに取り組んでいるが、調査対象のダムでは水位の低下と気温上昇による水質悪化が顕著に表れてきている。アオコは水が淀むと繁殖する。水をかき混ぜれば繁殖を抑制できるのだが、ダムの水をかき混ぜることは簡単ではない。一般的には下方から泡を発生させて下部の冷たい水を押し上げ、その水が再び沈む作用で混ぜるが、低水位運用と気温上昇によって下部の水温が上がって上部との温度差が小さくなると、押し上げられた水が上部にとどまって下りないため、うまく混ざらない。この大問題に対し、「効率的に混ぜる方法」を研究している。ダムの形や水源の質など各種の条件によって方法は変わるが、AIを活用した裏付けとともに水環境学会で発表する段階にある。次は、研究をもとに実際の運用に挑戦したい。
――貴社にとって「AI」とは。
近年ではサブスクもダムの運用も「AI」なしには成り立たない。観測技術の進歩と共に昼夜問わず情報が得られる中、その監視を人の手で行うのは困難。現時点で「AIに水門を開閉判断させる」のは無理だが、過去例(データベース)を充実させていけば、例題を提示し人間の判断材料に貢献できる。同技術は防災にも使えるだろう。ただし、そこで大切なのは「データの受け渡し方」だ。翻訳ソフトを使いこなすためには英語に変換しやすい日本語を入力するように、受け渡す水質データもAIと親和性の高いデータ変換が重要。これまでの経験で実用化に向けたコツをつかんだので、今後はさらにそれを発展させて、実りある結果につなげていきたい。