強靱で持続可能な下水道へ 日本下水道事業団(JS)における「水の官民連携」への支援 日本下水道事業団 外園明成
日本下水道事業団ソリューション推進部調査役 外園明成
1 はじめに
日本下水道事業団(JS)は、2022年度からの5年間を期間とする第6次中期経営計画において、「ソリューションパートナー、イノベーター、プラットフォーマー」を果たすべき3つの役割と位置付け、さまざまな取り組みを展開しています。ここでは、イノベーターとしての取り組みの「水の官民連携(ウォーターPPP)」への支援について紹介します。
2 JSに求められる役割
JSは、先進的に下水道事業を行ってきた地方公共団体の技術者等をプールし、下水道の普及を図ろうとする地方公共団体を支援・代行する組織として、1972年に設立されました。以降、専門技術者や下水道のノウハウ、各種基準類が不足する地方公共団体における下水道事業を支援・代行する組織として、50年以上にわたり、わが国の下水道の普及に寄与してきました。
その間、社会要請の変化に応じて、浸水対策や耐震化の促進、脱炭素化の取り組みなど、地方公共団体における下水道政策の推進に寄与すべく、先進事例の支援を通じてノウハウを蓄積し、常に官側に立って、「新たな取り組み」を進める地方公共団体を支援してきました。
このような「公共性に基づく高い信頼性」「自治体と同じ立場」「長年培った技術力」を基に、「水の官民連携」の導入可能性検討、契約手続き、モニタリングなど多くの地方公共団体にとって初めての経験となる業務への支援こそが、「JSに求められる役割」だと考えています(図1参照)。
3 「水の官民連携」に関する支援の方向性
2023年6月、政府の民間資金等活用事業推進会議で示された「PPP/PFI推進アクションプラン(令和5年度改定版)」の中で、コンセッション方式と、これに準じた新たな官民連携手法である管理・更新一体マネジメント方式の総称として「ウォーターPPP」の枠組みが示されました(後に「水の官民連携」と改称)。
「水の官民連携」のうち、新たに打ち出された「管理・更新一体マネジメント方式」(レベル3・5)は、「長期契約(原則10年)」「性能発注」「維持管理と更新の一体マネジメント」「プロフィットシェア」の4つが要件とされています。従来の一般的な維持管理業務に係る契約に比べ、かなりの長期間となり、かつ、更新事業などを含む幅広い業務範囲となります。
強靱で持続可能な下水道の構築とともに、民間の有する効率性を最大限発揮するためには、どの施設や業務をパッケージにするか、また要求水準や役割分担など事業スキームはどうするかなどをさまざまな角度から分析し、「各地方公共団体にふさわしい事業運営手法」を選択することが重要となります。
加えて、25年1月埼玉県八潮市で生じた下水道に起因する道路陥没の重大事故を踏まえ、下水道施設の適切なマネジメントについては、全国的に大きな関心となっています。さらに、事業基盤の強化として広域連携の推進についても、今般の改正下水道法に盛り込まれており、国などでも各検討会で議論が進められています。これらの方向性をしっかり認識し、検討を進めていく必要があると考えています。
4 JSが考える各段階におけるポイント
JSでは、26年度時点で50を超える案件の導入可能性検討や契約手続きに対する支援を行っています。以下、各実施段階での主な検討事項、留意事項等を紹介します(図2参照)。
(1)導入可能性検討
施設や維持管理の現状・課題の分析、官民の役割分担・リスク分担、民間市場調査や官民対話の結果などを参考に、地方公共団体の政策・ビジョンを踏まえつつ、10年間という長期の契約となることにも留意し、業務パッケージを決めていくフェーズです。
国交省の「下水道分野における「水の官民連携」ガイドライン」では、対象施設・業務範囲の設定の考え方として、まずは少なくとも1つの処理区を選択して導入の検討を開始し、いったん、当該処理区に係る全ての施設・業務を念頭に導入検討をするとされています。その上で、対象施設・業務範囲を一部に選定する場合は、客観的な情報に基づいて説明できる必要があるとされています。
各地方公共団体に応じて、果たすべき役割やマネジメントのリスクも、大きく異なるさまざまな施設が検討の対象となりますので、それらの特徴を踏まえ、また、地方公共団体の更新計画や耐震計画等も勘案の上、検討を行っていくことが重要です。
検討する際、特に留意しておく必要があるのが、国交省の「下水道事業における事業マネジメント実施に関するガイドライン―2024年度版―」で示された考え方との整合性です。同ガイドラインでは、地方公共団体の実情や財源・人的資源の制約条件を踏まえ、老朽化対策を起点として、強靱化、脱炭素化等の各施策の目標と優先度を定めて、効率的に事業を実施していくことを目指すこととされています。
起点となる老朽化対策(ストックマネジメント)の内容は、地方公共団体が目指すサービス水準を満たすための取り組みで、下水道サービスの維持・向上、付加価値による社会貢献を踏まえたものとなります。同時に、それらの取り組みは、地方公共団体の財源の見通しや執行体制の確保へも反映させていく必要があるとされています。
(2)契約手続準備
新たに示されたレベル3・5では、「更新実施型」と「更新支援型」の2つが示されており、契約手続の進め方や要求水準書への記載内容等も、その特徴を踏まえた準備が求められます。また、事業者選定期間中に開示すべき情報も、導入する案件に応じて異なってくると考えています。
さらに、「更新実施型」であっても、マーケットサウンディングや地方公共団体の中長期的な下水道政策の観点から、業務パッケージに含める更新工事、含めない更新工事の区分けも必要となります。汚泥処理や処理法変更等の大規模改築を除くケースや、維持管理と一体的に行うことが効率的な長寿命化対象施設に限定するケースも考えられるでしょう。
また、「更新支援型」に関しても、地方公共団体において「提案された更新計画案の妥当性評価」や「事業マネジメントとの整合」などを適切に図っていくために地方公共団体における一定の技術力の保持やアップデートと、それらへの支援や補完も重要な課題だと言えます。
また、地元企業の積極的な参画を期待する上で、マーケットサウンディングの実施に先立って、地元企業を対象とした勉強会の開催なども有効だと思われます。
(3)契約手続の実施・契約
公告や説明会の実施、提案書の審査や受託者の選定を行い、契約手続を行うフェーズです。契約手続準備のフェーズに引き続き、これまで経験のない観点での審査や選定作業を行っていくこととなります。処理場を対象とした包括委託の導入の際も、契約手続の過程が高いハードルになっていた事例も多いようです。
(4)モニタリング
「水の官民連携」の実施状況のモニタリングを行うにあたっては、担い手に応じて3つに整理されます。受託者による「セルフモニタリング」、発注者として地方自治体が行う「管理者モニタリング」、管理者モニタリングを補完するなどの役割の「第三者モニタリング」です。
JSは、コンセッション方式に係るモニタリングの経験も生かし、管理者を補完する「第三者モニタリング」を担うことで、地方公共団体を支援していきます(図3参照)。「水の官民連携」は性能発注かつ長期間であるため、書類や会議体により維持管理上の重要なポイントはしっかり確認することに加え、現地でのドローン活用や設備診断技術による確認も組み合わせるなど、自治体のニーズに応じたきめ細かいサポートができるよう進めてまいります。加えて、改築された施設が、求めた性能を発揮しているか、一定期間のモニタリングで初めて確認できることから、モニタリングは改築事業との関係とも非常に強いものであると考えています。
(5)効果検証・次期契約手続準備
事業期間中の事業の効果や課題を整理し、次期契約に向けての検討を行うフェーズです。国土交通省が公表したQ&Aでは、レベル3・5の後継としてコンセッション方式(レベル4)も選択肢の一つとされています。引き続きレベル3・5を継続する場合で、第1期の契約期間の評価を行い、次期契約での業務パッケージや事業者選定手法の見直しなどを行います。
その際、コスト面だけではなく、パフォーマンス面の評価も、それらの最適バランスを目指すことが必要となります。
5 これまでのJS事業との関係
「水の官民連携」の枠組みが公表されて以降、多くの地方公共団体の皆様から、これまでのJS委託に基づく設計や建設工事との関係について問い合わせをいただいています。
従来どおり、新設・増設に関する事業や、「水の官民連携」に含まれない更新工事は、地方公共団体が主体となって事業を行っていくこととなりますので、JSとしても引き続き支援していきます。
6 おわりに
地方公共団体によって、施設の状況も管理体制も大きく異なり、それぞれの政策課題もさまざまです。したがって、「水の官民連携」という新たな事業スキームの活用方法も地域に応じた、さまざまなパターンがあり得ます。
事業マネジメントを適切に展開し、下水道政策をしっかり前進させながら、官民の双方にとってメリットのある事業が展開されるよう、JSとしてもしっかり支援していきたいと考えています。
なお、埼玉県戸田市にある研修センターにおいても関連する研修を行っています。最新の情報については、研修センターのホームページを参照下さい。