原発政策の転換へ、本格議論を開始 リプレースでは改良型軽水炉が俎上に

原発政策の転換について、経済産業省は22日、総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=山口彰・原子力安全研究協会理事)を開き、本格的な議論を開始した。岸田文雄首相が8月の「グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議」で「政治決断」が必要な項目として挙げた①再稼働の加速②運転期間の延長③次世代原発の開発・建設④再処理・廃炉・最終処分など発電終了後の段階(バックエンド)――を議論した。原発の活用に賛成する意見が相次いだ。議論は年末までに政府がまとめる具体策に反映される。

★ハードル高い柏崎、東海

再稼働については、経産省は「国と事業者が安全マネジメント体制のさらなる改革を進める」ことを掲げた。課題は安全に運転する体制整備であることに関係者の見方は一致している。

国内にある33基の原発のうち、原子力規制委員会の審査を通過し、地元自治体の同意を得て再稼働した原発は10基ある。一方、規制委の主な審査は通過した17基のうち、地元同意が得られず停まったままの原発は7基ある。このうち関西電力高浜1、2号機(福井県)や東北電力女川2号機(宮城県)、中国電力島根2号機(島根県)の4基は電力会社が再稼働の時期を示すなど、一定のめどが見えている。安全対策工事を計画通り進められれば、来夏から冬に再稼働に到る見通しだ。

焦点となるのは、具体的な道筋が描けていない東京電力の柏崎刈羽原発6、7号機(新潟県)と日本原子力発電の東海第二原発(茨城県)だ。岸田首相は8月のGX実行会議で「国が前面に立ってあらゆる対応をとっていく」と述べたが、22日の小委員会の資料には「支援策の結集・高度化」「課題のこまやかな把握」など抽象的な対策が並ぶだけで、具体策の言及は乏しかった。

柏崎刈羽は、テロ対策の不備が相次ぎ判明し事実上、運転が禁じられている。そもそも、再稼働に必要な知事の同意もとれていない。

東海第二は、避難計画が必要な30㌔メートル圏内に100万人近くが住むが、その避難計画が未策定のこともあり、地元同意はとれていない。岸田首相の表明後も、大井川和彦・茨城県知事は「スケジュールありきでの議論をするつもりはない」と述べ、釘を刺している。避難計画の不備を理由に、運転差し止めの判決も出ている。

岸田首相の来夏以降の7基再稼働表明のうち3基の実現は難航必至だ。

★運転期間は延長へ

運転期間の延長については、経産省は22日の小委員会で、海外のルールを比較。多くの国では運転期間に上限を設けておらず、一定期間ごとに健全性を確認しながら延長を行っていると紹介した。一方、国内については、運転期間を40年と定めた原子炉等規制法の改正経緯や、原子力規制委員会の見解などを挙げ「明確な科学的根拠はない」と説明した。

省内では安全審査で停止している時間を運転期間から除外するなどして実質的に延ばす案がある。一方で老朽化した原発はトラブルのリスクが増すため、経産省は規制委に働きかけて、利用と規制の立場からそれぞれ検討を進めていく考えを示した。

原子炉等規制法で定められた運転期間は原則40年間で、1回に限り60年までの延長が認められている。

米国は規制当局の安全審査をクリアすれば40年から20年ずつ延長できる仕組みで、80年までの運転が認められた例もある。英国とフランスは運転期間に制限はなく、10年ごとに審査を受ける仕組みだ。

国内で運転から40年以上が経つ老朽原発のうち、これまでに延長が認められたのは、関電の美浜原発3号機(福井県)、高浜原発1、2号機(同)と、日本原子力発電の東海第二原発(茨城県)の計4基。

これに続く動きとして、関電は22日、高浜原発3、4号機の40年超の運転延長に向け、設備の老朽化などを確認する特別点検に入った。異常がなければ原子力規制委員会へ運転延長の申請を目指す。なお高浜3、4号機は今年、蒸気発生器の伝熱管の損傷が見つかった。経年によるトラブルと見られている。

22日の小委員会では、21人の委員構成のうち原発に懐疑的な姿勢を示す委員が数人しかいないこともあり、運転期間の延長に賛意を示す委員が多かった。

★「革新」から「改良」炉へ

脱炭素にも大きく貢献するが、ハードルが高いのは次世代原発の開発・建設だ。原発の新増設や建て替え(リプレース)の検討は岸田首相が8月のGX実行会議で検討を指示したものだ。背景には、昨年来、高騰するエネルギー価格の抑制が政策課題となっていることや、2月からのロシアのウクライナ侵略でエネルギー危機に襲われたことがある。

経産省は原子力小委員会の下に設置した作業部会で7月下旬、安全性を高めた革新炉として、各国が建設する革新軽水炉の開発を「最優先に取り組む」とし、2030年代の運転開始を示してる。新増設やリプレースが技術的に現実的な軽水炉を俎上にのせた。「革新」より「改良」という言葉がふさわしい。具体的には、日本原子力発電が04年に原子力規制委員会の前身である経産省原子力安全・保安院に建設許可を申請した敦賀原発3、4号機のAPWR(改良型加圧水型軽水炉、各153・8万㌔ワット)が俎上にのっているようだ。同3、4号機は第1次審査中に東日本大震災が発生。原子力規制委員会発足後は行政審査が行われていない。