公海の生物多様性保全 国連が初の協定採択 保護区域設定、環境アセス実施など 事務総長 「歴史的成果」、発効へ早期批准を
各国の管轄権が及ばない公海における生物多様性の保全と持続可能な利用に関する初の国際協定が19日、ニューヨークの国連本部で開かれた政府間会議(議長=リー・シンガポール海洋法問題担当大使)で、各国の総意による無投票で採択された。国連海洋法条約に基づく法的拘束力のある協定で、各国の活動を制限する保護区域を設定できるほか、開発事業等の際に事前の環境影響評価の実施を求めたりすることができる。約20年にわたる交渉の末に採択され、会議で演説した国連のグテーレス事務総長は「歴史的な成果で、昆明・モントリオール生物多様性枠組みなどの成功に不可欠」とその意義を強調。協定の発効を確実にするため、各国に早期の批准を促した。批准には国内法に整備が必要であり、日本政府は今後、協定の内容を精査し、批准の是非を検討する方針。
海洋の3分の2以上を占める公海の統治についてはこれまで、海運や海底採掘、漁業などの個別分野で断片的に行われ、それらの間の一貫性や調整は限定的だった。また、生物探査などの新しい活動はカバーされていなかった。そのため、海洋の環境悪化や生物多様性の損失を十分食い止めるには至らなかった。
今回採択された協定は、海洋環境の保護、配慮、責任ある利用の確保、海洋生態系の完全性の維持、海洋生物多様性の固有の価値の保全等を目的とした計75条および2つの付属書からなる。
それによると、国の管轄権が及ばない地域における活動の累積的な影響と気候変動、海洋酸性化および関連する影響を評価するための国際的な法的枠組みを初めて提供。また、気候変動と海洋酸性化の悪影響に対処するための生態系の回復力を構築し、炭素循環サービスを含む生態系の完全性を維持・回復する海洋管理への統合的アプローチを通じたガイダンスを提供している。
また、海洋遺伝資源に関する活動から生じる利益と、国家管轄外の地域の海洋遺伝資源に関するデジタル配列情報を公正かつ公平に共有するための枠組みを設定し、そのような活動が全ての人類に利益をもたらすことを確保するとしている。これにより、公海や国際海底地域の重要な生息地や種を保全し、持続可能な方法で管理するための海洋保護区を含む「地域ベースの管理ツール」の確立が可能になる。
さらに、締約国、特に途上国が協定の目的を達成することを支援するための能力構築および海洋技術の移転における協力を促進し、全ての国が国家管轄権の及ばない地域の海洋生物多様性を責任を持って利用し、その恩恵を受けるなどとしている。
グテーレス国連事務総長は演説の中で、この協定は「歴史的な成果」で、多国間主義の強さを示しており、「海洋が直面する脅威に対処し、2030アジェンダや昆明・モントリオール生物多様性枠組みを含む海洋関連の目標やターゲットを成功させるために不可欠」と述べた。
この協定は、今年の「国連SDGsサミット」翌日の9月20日から2年間、ニューヨークの国連本部で署名が受け付けられ、60カ国の批准から120日後に発効する。国連事務総長は発効後1年以内に協定の第1回締約国会議を招集する必要がある。