スマエネ26秋環境新聞オンライントップバナー2階層目以降サイズ:W 850× 150

生物多様性情報基盤整備における環境DNAの活用 山下慎吾 環境省 自然環境局生物多様性センター総括企画官

魚類相の効率的把握、外来種の早期発見や生物多様性価値評価へ

はじめに

環境省自然環境局生物多様性センターでは、生物多様性に関する「調査」「情報提供」「資料収集」「国際協力」の4事業を柱として、生物多様性保全に向けた科学的な情報基盤の整備と強化を進めている。そのうち「調査」事業は、日本全域の動植物分布概要をとらえようとする自然環境保全基礎調査と、定点における長期的変化をとらえようとするモニタリングサイト1000に大別され、その双方で環境DNA調査を実装し始めているところである。また、「環境DNA分析技術を用いた調査手法の手引き」を作成し、ウェブサイトにて公開している。本稿では、この手引きを紹介するとともに、具体的な環境DNA活用成果や今後の展望について整理する。

環境DNA調査の手引き

環境DNA調査の導入を検討されている地方行政機関や保全団体の方々を対象とした「環境DNA分析技術を用いた調査手法の手引き」(図1)をウェブサイトで公表している。2020年6月に淡水魚類を対象とした第1版を公開したのち、更新を進めるとともに両生類を対象に含めた。現時点では、24年5月に公表した「環境DNA分析技術を用いた調査手法の手引き(淡水魚類・両生類)第1版」が最新版である。

環境DNA分析結果を精査するためのチェックシートとして、淡水魚類を対象とした「MiFish法に係る誤同定チェックシート」および両生類を対象とした「Amph16S法に係る誤同定チェックシート」も公表している。環境DNA分析結果精査の際に活用いただければ幸いである。

自然環境保全基礎調査における活用

(1)淡水魚類分布調査

自然環境保全基礎調査の一環として、淡水魚類分布調査に環境DNA技術を活用した事例を紹介する。

22~25年度に4年間をかけて淡水魚類分布調査を実施した。調査対象種は計115種で、二次的自然を主な生息環境とする63種、特定外来生物7種、そのほか国内希少野生動植物種などの観点から検討会において選定された45種で構成されている。調査方法として、既存文献情報の整理と専門家アンケート調査を行ったのち、情報空白エリアにおける現地調査として、環境DNA調査(MiFish法)を実施した。本件は広域調査であり、限られた期間と予算のなかで、効率的かつ同精度で魚類相を把握する現地調査方法として、環境DNA調査を実装したものである。

結果として、対象115種のうちヨドコガタスジシマドジョウとヒナモロコを除く計113種の情報が得られ、調査対象種に付随する11種を含めて、計124種の分布情報を整理することができた。本調査により、これまでに記録がなかった地域における新規確認、河口域に生息する魚種の分布北上傾向、国外外来種の分布変化、在来種や絶滅危惧種の種数を集計した分布集中区域といった知見が得られた。これらの成果をまとめた報告書を26年度に公表予定である。

(2)外来魚種の早期発見

淡水魚類分布調査に関連して、環境DNA調査(MiFish法)が外来魚種の早期発見に寄与した事例を紹介する。

利根川水系鮎川における23年度現地調査の分析結果の中にコウライオヤニラミ(Coreoperca herzi)のDNAが混在していた。24年度調査でも本種のDNAを再び微量検出した。本種は朝鮮半島原産の淡水魚で、日本には本来生息しない肉食性の魚種である。宮崎県の大淀川水系では、17年調査において日本初確認されたあと、本種の急速な分布拡大と在来魚種に与える影響が強く危惧されることが報告されている(※1、2、3)。コウライオヤニラミは本調査の対象種ではないが、宮崎県以外の河川における生息有無を確かめることは極めて重要であると検討会で判断し、24年10月と12月に検討会委員と生物多様性センター職員の2名で夜間潜水調査を実行した。

その結果、コウライオヤニラミ1個体を捕獲した(図2)。関係部署と調整のうえ、本種の本州初確認について当センターのウェブサイトにて公表した。その後の対応は関東地方環境事務所(旧称)による追加調査や群馬県による駆除調査に引き継がれている。また、環境省自然環境局野生生物課外来生物対策室主催の「特定外来生物等専門家会合」でもコウライオヤニラミの特定外来生物指定について協議が進められている。

今後の展望

(1)生物多様性価値評価に向けて

環境省では、25年9月より「生物多様性の価値評価に関する検討会」を設置し、生物多様性保全に対する民間資源動員の拡大に向けた価値取引等の社会経済的な仕組みづくりも見据え、日本の自然の特徴を踏まえた生物多様性・自然資本の定量的な価値評価のあり方について検討を進めている。26年3月には「生物多様性の価値評価手法の検討に当たっての基本的な考え方」を公表した。環境DNA調査は、推定データと実測データの双方の特徴を含むものとして、生物多様性の価値評価に用いうる調査手法・データの一つとして提示されており(図3)、今後の活用拡大が見込まれる。

(2)新たな手法開発への期待

環境DNA調査については研究者や企業等による創意工夫や技術開発がめざましい。直近では、小笠原諸島において、葉の表面に残されたグリーンアノール由来のDNA(環境DNA)をふき取ることで、本種の存在を高感度に検知する手法を開発したとの論文が公表された(※4)。各方面での今後の技術開発に期待するとともに、当センターでも情報収集を進めていく所存である。

生物多様性情報基盤整備における環境DNAの活用 魚類相の効率的把握、外来種の早期発見や生物多様性価値評価へ 山下慎吾 環境省 自然環境局生物多様性センター総括企画官_
=クリックで拡大=
生物多様性情報基盤整備における環境DNAの活用 魚類相の効率的把握、外来種の早期発見や生物多様性価値評価へ 山下慎吾 環境省 自然環境局生物多様性センター総括企画官_図1 環境DNA分析技術を用いた調査手法の手引き(淡水魚類・両生類)第1版
図1 環境DNA分析技術を用いた調査手法の手引き(淡水魚類・両生類)第1版=クリックで拡大=
生物多様性情報基盤整備における環境DNAの活用 魚類相の効率的把握、外来種の早期発見や生物多様性価値評価へ 山下慎吾 環境省 自然環境局生物多様性センター総括企画官_図2 環境DNA分析と夜間潜水調査の組み合わせにより本州で初確認された国外外来魚種コウライオヤニラミ(筆者撮影)
図2 環境DNA分析と夜間潜水調査の組み合わせにより本州で初確認された国外外来魚種コウライオヤニラミ(筆者撮影)=クリックで拡大=
生物多様性情報基盤整備における環境DNAの活用 魚類相の効率的把握、外来種の早期発見や生物多様性価値評価へ 山下慎吾 環境省 自然環境局生物多様性センター総括企画官_図3 価値評価に用いうる調査手法・データ
図3 価値評価に用いうる調査手法・データ=クリックで拡大=

おすすめ記事 recommend