ロシア脅威の周辺3カ国に環境外交で支援 モルドバ、ジョージア等とJCM覚書き署名

ロシアの侵略を受けたウクライナが東部と西部の戦線で反転攻勢をかけている中、日本政府は9月に入り、ウクライナ南西部で同国と国境を接し次のロシアによる侵略想定国かとされるモルドバやかつて侵略を受けたジョージア、ジョージア隣国のアゼルバイジャン3カ国の政府との間で相次いで温室効果ガス削減に向けた二国間クレジット制度(JCM)の構築に関する協定覚書きに署名した。日本の先進的な技術による官民支援で、相手国の温室効果ガスの排出削減分を日本の削減目標達成に活用できるJCMは、途上国に対する実質的な経済支援となる。

西村明宏環境相が16日の閣議後記者会見で13日にジョージア、13日の会見で5日にアゼルバイジャン、6日にモルドバと覚書きに署名したことを明らかにした。署名は3カ国それぞれの首都で、日本政府の特命全権大使と3カ国それぞれの環境担当大臣が交わした。

西村環境相は16日の会見で今回の覚書き署名について「3カ国それぞれが脱炭素移行および日本とのJCM構築に高い関心を示し、これまで協議を行ってきた結果であり、ロシアのウクライナ侵略とは直接的に関係はない」と述べつつも、8月31日にインドネシアで開催され、自らも対面で出席した主要20カ国(G20)環境・気候大臣会合では「ロシアによるウクライナ侵略に対する最大限の非難、そしてウクライナ国民への連帯を表明した」と強調。言外に、ロシアの脅威にさらされるモルドバ、ジョージア2カ国とロシアと国境を隣接するアゼルバイジャンへの環境外交面からの支援の意向をにじませた。

モルドバは、ウクライナ南部でロシア軍が占拠したヘルソン州の隣で抵抗拠点となっている黒海の軍港オデッサの西にあり、ウクライナ国境近くの沿ドニエステル地域には少数とはいえ親ロ派住民が住み、ロシアは親ロ派保護を名目にオデッサ攻略後はモルドバにも触手を伸ばすと見られていた。そうした中、首都キシナウで行われたJCMの協力覚書の署名は、日本政府のモルドバ国民への連帯の証しとも言えそうだ。

ウクライナと同様に黒海に面し、2008年にロシアが軍事介入し北部の南オセチアとアブハジアの「独立」を一方的に承認させられたジョージアもロシアの脅威にさらされ続けている。旧ソ連共産党の独裁者だったスターリン書記長の出身地でもあり、かつてソ連の構成国の一つであった同国は91年に念願の独立を果たした。グルジアは前大統領のサアカシュヴィリ政権に続き、現大統領のマルクヴェラシュビリ政権でも北大西洋条約機構(NATO)加盟を模索している。

カスピ海に面し旧ソ連の構成国だったアゼルバイジャンも、97年にはウクライナの呼びかけに応じモルドバ、グルジアとともに「GUAM」を結成しており、ロシアへの警戒感は根強い。9月に入り、ロシアと親密なアルメニアと国境紛争も起きている。

今年2月のウクライナ侵略以降、旧ソ連構成国だった3カ国にとってロシアの脅威は現実的なものとなっている最中での、相次ぐJCM締結は日本の環境を軸とした外交面での成果といえよう。3カ国は、日本のJCMパートナー国の20~22カ国目となった。

なお、これまでのJCMパートナー国・22カ国のうち、中国が海洋覇権を強めるインド・太平洋地域での覚書き署名国には、モルディブ、ベトナム、インドネシア、パラオ、フィリピンなどがある。