強靱で持続可能な下水道へ ~「インフラ未来会議in大阪 第1回ワークショップ」を踏まえて~ リレイトオール 増田隆司
合同会社リレイトオール代表社員 増田隆司
「地域発・現場起点・全員参加」で高める下水道の価値
1 変革のチャンス
下水道事業は整備から管理運営の時代、世の中も成長から成熟、人口減少の時代、そして多様性の時代へと変化しています。効率性やスピードが重視された整備の時代は、早期の普及拡大をという共通目標の下、国主導全国一律のビジネスモデルが大きな力を発揮し、他に例を見ないスピードで整備が進み、事業に携わる誰もが成功体験を得ることができました。
しかし、今の時代はそう簡単ではありません。人・モノ・カネ、それぞれに制約条件が多く、顧客である地域・市民のニーズも多様化、複雑化しています。さまざまな環境変化に対応していくためには、事業に関わる多様なステークホルダーがそれぞれの立場に応じた役割を担う、みんなが当事者意識をもって行動することが重要です。従来の国・地方公共団体・民間企業という縦のつながりだけでなく、さまざまなステークホルダーがフラットにつながる横の関係を築いていくという発想が必要だと思います(図)。
国を中心とした全国的な政策立案機能を強化するとともに、地域の特性を踏まえて、多様な主体が参加し、みんなで汗をかきながら自由で多様な取り組みを進めていく必要があります。この「二つの軸」が共存することで、課題山積と嘆くのではなく、変革のチャンスと捉えて前を向くことができる、そして下水道が楽しく魅力的な事業に変化・進化していくと思います。二つの軸は対立の構図ではなく、相反する二つのものの融合、イノベーションを起こす構図となるのです。
2 下水道は地域の財産
整備が概成した今、下水道は地域・市民の貴重な財産です。事業主体である地方公共団体は資産を預かり、その価値を最大化する役割を担っています。しかし、施設の老朽化、職員の減少、厳しい事業経営状況に加え、脱炭素化への対応、人口減少下におけるまちの再編への対応といった複合的な課題に行政だけで対応することは難しい現実があります。地域のニーズに応じたサービスを提供するという共通目標に向かって、地域の多様な主体が役割分担、連携することで課題を解決し、資産価値の最大化を実現することが可能になると思います。
これは、金融や不動産の世界におけるアセットマネジメントの発想と同じです。投資家や資産家の利益ではなく、地域・市民全体の利益を最大化するのがインフラにおけるアセットマネジメントです。地域・市民の暮らしに直結し、使用料を貴重な財源として事業を運営する下水道は「アセットマネジメント」の考え方が最も馴染むインフラです。
3 産学官のフラットな議論から将来像を描く
地域の多様な主体が自分ごととして地域の財産である下水道の価値の最大化を図っていく、「地域発・現場起点・全員参加」の枠組みを構築することが目指す姿です。まずはその第一歩として、今年1月から3月にかけて、「インフラ未来会議in大阪第1回ワークショップ」を開催しました(写真)。
(1)ワークショップの目的と位置付け
大阪地域で下水道に携わる産学官の若手が、地域の将来像を描き、その実現に向けた取り組みを自分ごととして捉え、実現に向けたシナリオを提案することを目的とします。インフラは地域のまちづくりに欠かせない財産という視点に立って、その管理運営を地域全体で考える、自分たちの地域を自分たちで良くしていく、ワークショップはそのための戦略を提案する場と位置付けました。その過程において、参加者にワークショップで議論し、提案することは地域の将来像を描く楽しい体験だと気づいていただくことを目指します。
ワークショップでは、従来の縦割りや組織の枠を超えた「オープン」な場を設定し、参加者が互いの経験や専門性、さらには感性を持ち寄りながら、下水道の新たな価値を発見し、地域の未来につながる提案を生み出すことを目指しました。その意味で本ワークショップは、人材育成の場であると同時に、産学官連携による地域共創の実践モデルとしても重要な意義を持っていると思います。
(2)概要
ワークショップは半日×3回の構成で実施しました。参加者は、大阪地域で働く・学ぶ産学官の若手計13名(民間企業6名、大学3名、自治体4名)でした。議論のテーマは、①下水道の施設や資源を活用してSDGsに貢献できること②地域の安全を守るためにできること―の2本柱で設定しました。ワークショップでは、基調講演、施設見学・現場体験、ワールドカフェ・グループ討議、紙芝居形式の提案作成、発表会といった多様な手法を組み合わせ、参加者が自らの思いを伝える、議論する、共通理解を得る、さらなる高みを目指すというプロセスを経て、アイデアが段階的に深まるよう工夫しました。全体プログラムは表に示すとおりです。
また、進行においては、参加者が肩書や立場に縛られず自由に、かつ、安心して意見を交わせるよう、対等性、相互尊重(相手を否定しない)、自分ごととしての発言などを柱とするグラウンドルールを設定しました。加えて、本ワークショップは実行委員会形式で開催しましたが、特定非営利活動法人「水澪」の支援のもと、ボランタリーベースで運営を行ったことも、開催の目的を象徴しています。
(3)ワークショップで得られた主な成果
本ワークショップの成果は、大きく三つに整理できます。第一に、下水道を「公共が管理する施設」から「地域の財産」へと捉え直す視点が共有されたことです。これまでSDGsや地域の安全といった社会課題解決との関係性が十分可視化されてこなかった下水道の価値について、持続可能なまちづくりや脱炭素化、にぎわい創出と結び付けて議論しました。
第二に、地域の安全確保を行政や事業者だけの責任として捉えるのではなく、地域住民を含む多様な主体の参加によって支えるという発想が具体化されたことです。老朽化する管路への対応に関して、情報公開、見える化、ゲームアプリ等を活用した市民参加の仕組みなど、新たな社会的連携の可能性が提示されました。
第三に、産学官の若手が、異なる立場や専門性を持ちながらも、共通の地域課題に向き合い、一つの将来像を提案としてまとめ上げた点です。議論の過程では、思い付きのアイデアを、対話によって磨き、根拠を添えて構想へ高めていく経験が積み重ねられました。このプロセス自体が、今後の地域連携や人材育成の基盤となる重要な成果だと思います。
4 今後に向けた取り組み
今回の提案を単発の発信に終わらせず、地域の将来像につなげるための継続的な取り組みが必要です。
第一は、提案内容の深掘りと具体化です。大阪市の中浜処理場をモデルに検討した下水道資源の活用とみどりのまちづくりや市民参加型の管路管理による安全なまちづくりについて、技術面、制度面、運営面の条件整理を進め、モデル地域における試行へとつなげることが期待されます。
第二は、産学官のネットワークを維持・発展させることです。今回のように、多様な立場の参加者が安心して議論できる場を継続設置することで、単年度のイベントでは得られない信頼関係や協働の土壌が形成できると思います。また、参加者が所属組織に経験を持ち帰り、各現場で共有・展開することも、取り組みの意義として重要です。
第三は、成果発信の強化です。今回のワークショップは、地域発・現場起点・全員参加によるインフラマネジメント実践のモデルとして、他地域にも展開可能な取り組みです。参加者のワクワク感、成果の具体性をさまざまな形で発信することで、全国各地で地域の状況に応じた取り組みへと広げていきたいと思います。
第四は、若手のチャレンジを支える仕組みづくりです。今回のワークショップでは、若手が自由に発想し、提案を形にすることで高い当事者意識と成長意欲が醸成されたと感じました。今後は、こうしたチャレンジを実務や政策形成の現場につなぐ受け皿を整え、提案から実践まで一連の仕組みとして構築していくことが重要です。
本稿で示したとおり、本ワークショップの本質的な価値は、提案内容そのものに加え、異なる主体がフラットにつながり、共通の将来像に向けて対話し、構想を一つの成果としたプロセスにあります。フラットなつながりは下水道に携わる産学官にとどまるのではなく、より幅広い分野、そして地域のさまざまな主体へと広がっていくことで下水道が地域の財産として価値の最大化、サービス提供の最適化が図れると思います。フラットな議論の場を地域のステークホルダー、市民を巻き込んだ共創の場へと発展させることで、インフラを支える「地域発・現場起点・全員参加」の新しい文化を育てていきたいと思います。