強靭で持続可能な東京下水道へ DXによる仕事の進め方の見直し 東京都下水道局総務部DX推進担当課長 間ヶ数大峻
1 はじめに
東京都は、令和7年3月に策定した「2050東京戦略」において、世界で最も情報技術を活用し、便利で快適な「スマート東京」を2050年代の姿として掲げています。この実現に向け、組織や分野の壁を越えた政策DXを推進するとともに、令和7年7月に策定した「東京都AI戦略」に基づき、AIを都政のあらゆる分野で積極的に活用し、業務の生産性向上と都民サービスの質の向上を図っています。
下水道局では、こうした都全体の方向性を踏まえ、令和8年3月に策定した「東京都下水道事業 経営計画2026」に基づき、DXやAI等の先端技術を活用した仕事の進め方の見直し(BPR)を、現場起点で着実に進めています。
2 DXによるお客さまサービスの向上
2・1 行政手続のオンライン申請
当局ではこれまで、排水設備の新設等の届出や公共ますの設置申請など、多くの行政手続においてオンライン申請を導入してきました。令和7年度末時点では、対象手続の約99%でオンライン申請が可能となっています。今後は、事業者をはじめとする利用者の声を丁寧に把握しながら、申請項目や画面構成、処理フロー等の見直しを進め、「より早く」「よりシンプルに」「より使いやすく」改善し、お客さまにとってより利便性の高いサービスの提供を実現します。
2・2 公共下水道一時使用届
公共下水道一時使用届は、工事等に伴い発生する湧水などを一時的に公共下水道へ排水する際に必要な手続であり、毎年1千件を超える申請がある、当局の中でも業務量の多い手続の一つです。 本手続は、23区ごとに設置された各事業所において窓口業務を実施しており、政策連携団体に事前協議の窓口事務を委託し、下水道管の管理と料金徴収という異なる観点から複数の部署が関与するなど、業務構造が複雑であることが特徴です。
手続は、事前協議の受付と、排水開始後に毎月実施する汚水(湧水)排出量の認定という二つの工程で構成されています。事前協議については、これまでも書類のオンライン申請自体は可能であったものの、協議そのものは対面での実施が前提であり、現場条件に応じて申請内容以外の項目も聞き取る必要がありました。このため、結果として紙申請や窓口対応が中心となり、申請者・職員双方に負担が生じていました。また、汚水排出量の認定では、職員が毎月すべての現場を訪問して測定を行っており、移動時間を含め大きな業務負荷となっていました。
こうした課題を踏まえ、まず事前協議の受付業務について、先行で見直しを実施する事業所を定め、ヒアリングを通じて業務の実態を把握したうえで、①オンライン申請項目を抜本的に見直し、必要な情報が申請時点で完結するフォーマットへ改修するとともに、②事務フローを整理し、オンライン申請の場合には窓口来所を不要としました(図1)。
さらに、毎月の汚水排出量認定についても、他自治体の実施体制等を調査し、毎月、すべての現場を訪問する方式から、汚水排出量と挙証資料となる写真等をオンラインで申請していただく方式の導入に向けた検討を進めています。
現在は試行段階ですが、これらの取組が導入できた場合、お客さまの窓口訪問時間を年間約1600時間、局における窓口対応および現場訪問に伴う移動時間を年間約1万400時間削減できる見込みであり、DXとBPRを一体的に推進することで大きな業務効率化につながる取組となっています。
2・3 下水道台帳情報のWebページ
下水道台帳情報のWebページは、現在パソコンからの閲覧を前提とした環境となっていますが、今後、スマートフォンやタブレット端末からでも快適に閲覧できるよう、画面表示や操作性の改善を進めています。お客さまが必要な情報へ容易にアクセスできる環境を整備することで、更なる利便性向上につなげていきます。
3 AIを含む先端技術の活用
3・1 データの利活用による業務の高度化
技術職員の減少や厳しい財政状況が見込まれるなかにおいても、安定した下水道事業を持続的に運営していくため、水再生センターやポンプ所等における維持管理の高度化・効率化を実現する次世代型の下水道システムの構築に向けた検討を進めています(図2)。
具体的には、各設備から取得される運転・保全・水質等の多様なデータを一元的に収集・管理する共通プラットフォームを構築し、データの統合的な利活用を目指しています。この共通プラットフォームの活用により、AI等の先端技術を用いたポンプや送風機等の運転支援、異常兆候の早期把握や予兆保全による保全業務の高度化を目指すとともに、エネルギー使用量の可視化や運転の最適化を通じ、省エネルギー化および温室効果ガス排出量の削減を推進していきます。
これらの取組により、業務の効率化と環境負荷低減を両立し、持続可能な下水道事業の実現を目指します。
3・2 新たなデジタル技術の導入
東京都は2025年11月に、AIの飛躍的な進化等を踏まえ、「Global Innovation Strategy 2・0 STARTUP & SCALEUP」を発表し、官民協働の更なる拡大を目指しています。
こうした都全体の動向も踏まえながら、DXの推進に向けてAI等の先端技術の積極的な活用を図っています。これまでも、ドローンを活用した新たな工事出来形確認手法の構築や、工事・積算内容に関する質問への回答案作成支援ツールなど、さまざまな分野で活躍するスタートアップとの協働に取り組んできました。
さらに、道路占用関連書類や工事監督業務に必要な書類の作成を支援するシステムや、技術者の経験や熟練度によらず、測定機器が構造物に触れた際に伝わる振動周波数などの情報から劣化状況を簡易的に診断可能な非破壊検査手法の構築に向けた取組など、多様な主体と連携し、新たなデジタル技術の導入を積極的に推進していきます(図3)。
4 BPRの徹底・DXの推進に向けた基盤整備
4・1 東京都下水道局におけるBPRの取組
当局では、企画調整課を中心に、DX推進担当課長のもとで各所管課に対する伴走型支援によるBPRを推進しています(図4)。
BPRの対象業務は、効率化効果が大きいもの、職員が成果を実感しやすいもの、人材育成効果が見込まれるものを重視して選定しました。具体的には、規程やマニュアルの確認、ヒアリングを通じて現状の業務フローを可視化した上で、理想的な業務の在り方とのギャップを整理し、そのなかから、手順の整理やデジタルツールの活用によって廃止・統合・簡素化が可能な工程を抽出し、見直しを検討しました。
改善に取り組む作業を選択する際には、早期に効果を実感できるよう、比較的容易に実現可能であり、スモールスタートで着手しやすいものや、他の業務にも横展開しやすく、成果が局全体に波及しやすいものから重点的に着手しました。
令和7年度は、「公共下水道一時使用届」など5業務を選定し、BPRに取り組みました。令和8年度も、引き続き各職場でのBPRの実現を伴走型で支援するとともに、新たな取組にも着手していくこととしています。
4・2 職員のリテラシー向上
BPR・DXを継続的に進めていくためには、職員一人ひとりがデジタルツールを理解し、主体的に活用できることが不可欠であり、生成AIやノーコードツール等、さまざまなデジタルツールの活用に向けて、職員のリテラシー向上に取り組んでいく必要があります。職員同士が情報共有するための環境整備や、DXに関する先駆的な事例を学ぶ研修を開催するとともに、デジタルツールに不慣れな職員に対しても、基本的な操作や活用方法などへの理解を支援するための取組を進めています。
4・3 サイバーセキュリティ対策
クラウドサービスやAIなどのさまざまなデジタルツールやデバイスの活用とあわせて、東京都サイバーセキュリティポリシーに基づき技術的・組織的対策を講じるなど、局全体の業務システム基盤の強靭性も高めていきます。
5 おわりに
BPRの取組を通じ、職員自らが業務改善を考え、実行する意識が醸成されつつあります。業務効率化にとどまらず、こうした組織文化の変化こそがDXの重要な成果であると考えています。今後も新たな技術や発想を取り入れながら、DXとBPRを着実に進め、お客さまサービスのさらなる向上に取り組んでいきます。