トップランナーに聞く(37) Bioworks 代表取締役社長CEO 坂本孝治氏

「グローバルで環境配慮繊維素材のナンバー1企業」目指す

Bioworks(京都府精華町)は、植物由来の新素材「PlaX」(プラックス、同社商標)の研究開発・製品化に取り組んでいる。PlaXは、サトウキビ由来のポリ乳酸「PLA」に独自の添加剤を加えた新素材(特許取得)で、製造過程のCO₂排出量や水の消費量を削減、生分解性を備えている。他の繊維素材と混ざった製品から素材ごとに分離し、リサイクルできることを期待されている。同社は特にポリエステルなどに代わる繊維素材として積極展開し、環境汚染が指摘されるアパレル業界の変革に貢献して行く考えだ。「グローバルで環境配慮繊維素材のナンバー1企業」を目指し今年3月末に就任した坂本孝治新社長に、今後の展望などを聞いた。

坂本社長
坂本孝治代表取締役CEO

「PlaX」で世界の繊維産業にインパクト与える

 ――社長に就任しての抱負は。

 PlaXを用いた短繊維の量産を2022年末からスタートし、昨年末からはポリエステル代替となる長繊維の量産体制も整ったので、日本発の素材ベンチャーとしてグローバルにこの素材を広げて、世界の繊維産業の環境問題にインパクトを与えるような企業にして行きたいと考えている。

 ――素材産業に入った経緯は。

 私は前職では伊藤忠商事やヤフー等でIT、情報産業業界に長年携わってきた。ヤフー在籍の最後には米国シリコンバレーに行き、世界中からITのスタートアップ企業が集まって成長していく姿を見てきた。IT分野ではエコシステムができ上がっていて、起業家等がどんどん事業を作っていく流れがあったが、他の産業にはまだなかった。他の業界でもIT業界のように、ベンチャーがしっかりと影響力を持ちながら成長していく過程に関わりたいと思った。また、日本から世界に出ていく事業に携わりたいと思っていたが、IT分野では言葉の壁などがあり難しかった。そうした中で親会社であるTBMの山﨑敦義社長と出会い、素材は言語も文化も関係なく環境をよくしたり、機能を加えることで既存のものと置き換えることができるものだという話を聞いて感銘を受け、この業界で挑戦していくことを決めた。

 ――技術や素材の特徴は。

 当社はポリ乳酸を改質していく技術に特徴がある。通常耐熱性を上げるには機能を補うために相応の添加剤を加えるが、われわれは分子の結合状態を変えてポリ乳酸自身の機能を上げていくという他にないアプローチを行っており、3%前後の添加剤で従来にない耐熱性や耐久性を実現したことで差別化が図れている。昨年韓国のLG化学と資本業務提携を結んだが、同社のグローバルなネットワークで調査しても他社にはない独自の技術だったことが評価され、出資につながった。

 ――アパレル向け等の繊維に注力しているが。

 ペットボトルなど成形品にも十分応用できる技術ではあるが、現状ポリ乳酸の原料は石油系の原料等と比べると3~4倍の単価で、なおかつそこに添加剤を加えるプロセスが入るとさらに価格差が広がってしまう。一方で繊維は価格の幅が非常に広く、われわれが量産を開始した直後の価格でも繊維であれば事業として成り立つと判断したのが、繊維に注力している理由の一つだ。もう一つは、20、21年ごろから繊維業界は世界で2番目に環境破壊を引き起こしているということがクローズアップされるようになり、積極的に環境問題に取り組むエンドブランドユーザーが増え始めた。われわれが量産を予定した時期とも重なっていたので、十分ビジネスとして成り立つと判断した。

 ――今年度の主な取り組みは。

 今年は量産体制の安定化を図っていくステージだと考えている。日本やアジアの紡糸メーカーと一緒に量産体制を整えており、量や品質の安定化を今年中に完了できれば、来年以降はどんどん市場に出していくステージに入ってくると思う。

 ――競合先は。

 リサイクルポリエステルは大きな競合相手となるが、これも石油由来なので、植物由来ということで差別化できる。また、植物由来の素材で見ると、長繊維の量産化、製品化については世界で当社が一番先行していると言われている。そうした優位性を活かして行きたい。より強度を上げることや染色しやすくすることなど、まだいくつか改善点はあるので、引き続き研究開発に取り組んでいく。

 ――課題は。

 使ったあとリサイクルして、どのように資源循環を進めていくかということが課題と言える。使われたものを回収して、もう一度元の素材に戻していくのが理想だ。一企業ではできないので、業界全体でいかにエコシステムを構築していくかということを考えていく必要がある。PlaXは他の素材と混ざっていても分離させやすく、分離後はリサイクルが可能なので、いかに効率よく回収して分けていくかということを、関係業界の方々と考えて行きたい。

 ――今後の展望や目標等は。

 今井行弘前社長(現会長)は技術開発にしっかりと取り組みながら、積み上げていく経営を行ってきた。私はそれを土台として、外部からも資金を調達してアクセルを踏むといったIT業界で培った、素材業界ではまだあまり行われていない手法も取り入れながら企業の成長を加速させて行きたい。目指すのはグローバルで環境配慮繊維素材のナンバー1企業となることだ。将来的には単独での上場も目指している。

  (聞き手・黒岩修)