鼎談 下水道の仕事はもっと魅力的になる! 異業種出身者だから気づけた伸びしろ
押川 隆昌氏(フソウ エンジニアリング事業部技術本部設計部下水道課)
丹治 道子氏(メタウォーター 経営企画本部人事総務企画室長兼人事勤労部長)
久田 友和氏(NJS 管理本部事業戦略室グループ・リーダー)
進行 奥田早希子氏(Water-n代表理事)
下水汚泥を肥料やエネルギーに活用したり、処理水を養殖に利用するなど、下水道には地域を元気にする資源が多く存在しますが、下水道業界の中にいるからこそ気づけていない可能性や魅力がまだまだ隠されているかもしれません。そこで、異業種からの転職者に集まってもらい、業界内にいるだけでは気づきにくい下水道業界のおもしろさややりがい、魅力、もっと魅力アップできる伸びしろなどについて議論してもらいました。
だから「水業界」に転職しました!
―まずはフソウの押川さんから転職前の仕事内容と、転職した理由をお聞かせいただけませんか。
押川 エンジニアリング会社で9年間勤め、原子力発電所の耐震解析に携わりました。その後、建設コンサルタントで5年間勤め、さらにフソウに転職して1年ほどが経ちました。
転職したのは、他業種のプラント設計に携わってみたいと思ったからです。
―転職先として、なぜ下水道を選んだのですか?
押川 火力発電所や化学プラント、焼却設備などいろいろ検討する中で、下水処理場に出会いました。漠然と水処理をする施設というイメージは持っていましたが、その役割をきちんと理解し、いかに重要なインフラであるかということを初めて知りました。それでさらに調べてみると、微生物を使って水処理をしていたり、機械もありますし、化学も必要ですし、電機も設備もたくさんあって、これはおもしろいと感じました(写真1)。
―メタウォーターの丹治さんはいかがですか。
丹治 前職は商社です。30年以上のビジネスパーソン人生は人事畑一筋で、勤め先も一社だけだったので、残り数年間の会社人生を全く異なる業界で人事を経験したいと思ったのが転職のきっかけです。
商社の仕事はインフラを支えている側面がありますので、転職先としてはインフラ関連やサステナビリティに取り組んでいる会社、なおかつ人事面で新しい取り組みにチャレンジしている会社を探していました。そこで転職エージェントから紹介されたのがメタウォーターで、2020年4月に入社しました。
―メタウォーターは知っていましたか?
丹治 社名すら知りませんでしたね。そこでホームページを調べたところ、日本の水・環境インフラを支えていると同時に、海外でも事業展開している。これから水資源は非常に重要です。それを国内外でしっかりと支えることは意義がありますし、企業理念にも共感しました。
また、人事面では前職で実現できなかった週休3日制を導入していたり、コロナ禍前からテレワークも取り入れている。それほど大きな会社ではないのにそこまでやれるんだということに驚きもあり、おもしろい会社だなと思いました。
―NJSの久田さんはいかがでしょうか。
久田 前職は大和リースという会社に勤めていました。大和ハウスの子会社で、被災地の応急仮設住宅やプレハブの建設がメイン事業で、そこから波及して学校、庁舎などの公共施設、事務所や商業施設などの民間建築、PPP/PFIやPark―PFI、さらには商業施設の開発・運営、緑化や自動車リース、PPAなどのエネルギー関連事業なども手掛けている企業です。
入社して9年間ほどは建築設計を担当していたのですが、もっと顧客に近い仕事がしたいと思い、PFI事業を専門とする社内組織「民間活力研究所」(以下、研究所)に異動させてもらいました。職種も変わったので、技術を知った営業として、技術部門と営業部門の両方に口を出すマルチプレイヤーの動きをすることとなりました。
―上下水道事業にもPFIが導入されています。研究所で上下水道PFIを経験されたのですか?
久田 「地上」の大きなハコモノの公共施設が中心で、PFIの代表企業として、大手設計事務所やスーパーゼネコン、維持管理企業や運営企業等をまとめあげる、代表企業のプロジェクトリーダーを担っていました。「地下」の上下水道は経験しませんでしたが、その代わりと言っては何ですが、NJSに転職してからも縁が続いている、岩手県大船渡市の賑わいづくりに関わらせていただいています。
大和リースはそれまでにも応急復旧には携わっていましたが、復興には携わっていなかったんですね。だから、東日本大震災ではそこにチャレンジしたかったんです。私は関西の出身で、阪神・淡路大震災の時は15歳で何もできなかった。次に何かあればやらなければという使命感もあって、復興担当に名乗りを上げました。
最初に大船渡市に入ったのは2014年で、地元の方からヨソモノ扱いで受け入れてもらえませんでした。阪神・淡路大震災で抱いた使命感を訴え、ここでやらせてほしいという熱意が通じ、同じ復興を目指す同志として迎え入れていただき、復興の大きな節目となる商業施設の開業までの3年間携わらせていただきました
研究所に戻ってからは再び公共施設の建設に関するPFI事業を担当したのですが、人口が減少する中で大型のハコモノを作り続けていいのかと考えるようになりました。水インフラも含めた公共インフラの老朽化が問題視されるようになった頃です。
極端なことを言うと大きな文化施設がなくても生きていけますが、水インフラがないと生きていけない。まちづくりの経験やノウハウを上下水道業界で生かせるならチャレンジしたい。そう考えました。NJSには22年に入社しました。
―ところで、丹治さんはメタウォーターがそれほど大きな規模ではないとおっしゃっていましたが、水業界では割と大きめの会社だと思います(笑)。丹治さんの前職はかなり大きな会社だったのですね。
丹治 そうですね。メタウォーターの社員数は単体で約2千人、連結で約3千人くらいですが、前職は単体で6千人規模でした。
ここに伸びしろあり!
―皆さんが所属される会社あるいは上下水道業界において、異業種だから分かるという伸びしろについてお聞かせください。
丹治 前職の商社はグローバル展開しており、海外赴任や留学制度など海外を切り口にした人事の仕事も多かったのですが、それに比べればメタウォーターの海外展開はまだまだこれから。研修制度や海外赴任の仕組みなども整備していく必要があります。そこが伸び代です(写真4)。
日本では少子高齢化による人口減少が進み、水・環境インフラの拡大は期待できません。そうした中で海外事業を伸ばすことは重要であり、その鍵を握るのが海外人材の育成だと考えています。
ICTの進歩で語学力が以前ほど重要ではなくなってはいますが、海外での暮らしに心理的に抵抗を持たず、いろんな国籍の社員を束ねてマネジメントする力を若いうちから身に着け、海外で会社を運営できる社員を早めに育てておかないといけません。その面でも前職の経験を役立てていきたいです。
―海外人材というのは、外国籍のマネジメント層ですか。それとも海外でマネジメントできる日本国籍の社員のことでしょうか。
丹治 現在、海外のグループ会社の経営層へ日本からも非常勤役員を置くようにしているのですが、その人材がもっと必要です。海外でマネジメントできる日本人社員を育てることが優先課題です。
将来的には海外の人材を日本に迎えることもあるでしょう。そうなれば、もっとおもしろいグローバルな会社に成長できると思います。
―丹治さんの経験が、さまざまな場面で生かされそうですね。
続いて押川さんはいかがでしょうか。伸び代を伸ばすためにキャリアを生かしたい、あるいは生かせると思うことをお聞かせください。
押川 原子力発電の耐震解析で求められた高い品質と緻密さを、下水処理場の品質管理にも生かしていきたいと考えています。スピード感とのバランスが必要ですが、品質管理の立場で地域を見回すことで、フソウの経営理念である志「お客さまが喜ぶことを追求し、持続可能な社会を追求」することにつながり、地域課題に対して最適なソリューションを提案できるのではないかと思うのです。
―地域課題を知ることはどの会社も大切にされていますね。押川さんが心がけていることはありますか。
押川 下水道のプラント設計は、地域ごとの特性を踏まえて発注者、自治体の要望や思いを的確に反映するものだと思っています。その思いは仕様書の中につまっています。
その思いをくみ取ること、そのために発注者とコミュニケーションをしっかりととるように心がけています。維持管理業者からも困りごとなどを聞くようにしています。さらにフソウでは設計や施工段階で積極的にBIM/CIMを活用しており、完成形のイメージを共有することで関係者間のコミュニケーションや合意形成に役立てています。いちはやくデジタル化に取り組み、ノウハウや実績もあるため、業界全体の課題解決や上下水道の価値向上に貢献していける会社だと思っています。
発注されたものをそのまま設計するだけでもいいのかもしれませんが、やはり現状の課題を一つでも多く解決したいですから。
―それが押川さんの言う「高い品質を求める」ということなんですね。素晴らしいです。
久田さんはいかがでしょうか。
久田 まちづくりの経験や人脈が、NJSでの事業につながっています。
復興まちづくりに携わった大船渡市では、地域ライターを育成する「まちおしAWARD」という事業を展開しています(図)。地域新聞にも取り上げていただけて、会社のPRにもつながりました。
そのほか大船渡市のつながりで、島根県隠岐の島町にある西郷港周辺のまちづくり業務にも携わることができています(写真5)。これまでのNJSでは考えられなかったことです。
これらは上下水道事業がメインではありませんが、まちづくりの中に上下水道をはじめとする水インフラの要素を取り入れるように心がけています。入社時に思い描いていた全てができているわけではありませんが、少しずつ近い動きはできつつあると自負しています。
―とはいえ上下水道コンサルタント会社であるNJSでは、まちづくりは異質だと思います。久田さんの仕事は社内でどのように受け止められているのですか。
久田 最初は違和感があったかもしれませんが、徐々に理解者が増えてきました。私自身も上下水道事業とまちづくりのかけ合わせで何ができるのか、どのようにしてシナジーを生み出すのか、検討を重ねました。イメージを図にしたものや部署の考えや方向性を社内資料に掲載してもらったり、私の前職での取り組みや現在の取り組み等を社内広報にも掲載してもらいました。少しずつではありますが、市民権を得つつあります(笑)。
そのかいあって、上下水道関係の仕事だけどまちづくりの要素も取り入れたいから相談に乗ってほしい、と声をかけてもらうこともあります。その点では前職の経験をフルに生かせていますね。
最近は、過疎地や山間部の集落で高齢化が進み、飲み水をくんでいた井戸を管理する人がいなくなって困っている地域が増えています。そのような地域課題の解決方法として、まちづくり会社のあり方を参考にして、地域企業も交えた管理会社の設立を提案したり、まちづくり系の補助金を紹介したりすることもあります。
地域コミュニティーを継続させるためにも、このような事例は今後も増えていくことが予想されます。
―地域のコミュニティデザインも、まちづくりの経験が生かせる分野ですね。
久田 そうなんです。水とまちづくりの双方から地域活性化を提案していきたいですね。上水道や下水道の課題解決に加えて、地域経営の視点やにぎわいの創出、産業活性化なども考えていきたいです。
異業種が考える魅力向上策
―最後に上下水道業界をもっと魅力的にするヒントをお聞かせください。
丹治 冒頭で申し上げたように、これほど社会的意義のある仕事をしているにもかかわらず、メタウォーターという会社も、上下水道業界もよく知りませんでした。業界全体でもっと知名度を上げていくべきではないでしょうか。
このままでは未来を担う人材を確保できませんし、技術者も育成できません。学生に就職したい異業種を聞いたときに、上下水道業界は出てくるでしょうか。同じインフラ業界であれば電気、ガスは出るでしょうが、水業界が真っ先に出てくるくらいにならないと。
災害が多い日本において、上下水道業界の役割は大きいはず。それを広くPRするために、工夫の余地はまだまだあります。本当にもったいないです。このことは転職した初日から思っていました。
久田 上下水道業界が中心になって、建設業界などいろんな業界を巻き込んでいきたいですね。異種格闘技のイメージで、地域全体を対象にするような仕事ができればおもしろいと思いませんか。
それが実現すれば上下水道業界のイメージも変わり、知名度も理解度も上がると思います。まずはそのための勉強会を仕掛けてみようと思っています。
―上下水道業界にも、まちづくりを意識する会社が少しずつ出てきましたね。それをさらに大規模にしていくイメージですね。
久田 下水処理場の跡地利用ですとか、下水道の余熱利用もその一つ。上下水道のポテンシャルをもっと生かし、それらが地域に滲みだし、地域が元気になっていく。上下水道業界が異業種を束ねる指揮者になれればいいですね。
―地上の施設と地下の施設が仲良くなれば、もっと楽しいことができると思います。ぜひ久田さんが指揮者になってください。
押川さんはいかがでしょうか。
押川 今はどの業界も人手不足で、人材確保の争奪戦が激しくなっています。異業種への転職はハードルが高いと感じるかもしれませんが、下水道の場合は設計指針等が非常にしっかり整備されているので、異業種の設計者でも活躍しやすいと思います。また、異業種であっても基本的な設計の知識や経験があれば、下水道に応用できると感じています。ぜひ躊躇せずに下水道業界にチャレンジしてほしいです。
なにより私のような機械大好き人間にとっては、下水道施設ってとにかく本当におもしろいんですよ。もともと工場萌えではあったんですが、下水処理場もまさにそう。大・小さまざまな機械や配管、鋼製加工品等が詰まっていて無茶苦茶おもしろい。そのことをもっともっと多くの機械大好き人間に知ってもらいたいです。
―いろいろな人に関与してもらうことが下水道業界の魅力向上につながりますし、ひいては地域の元気にもつながります。異業種から転職された皆様をきっかけに業界がよい方向に変わっていくことはもちろんですが、さらに異業種からの転職が増えること、そして異業種との協働が増えることに期待しています。本日はありがとうございました。