強靭で持続可能な東京下水道へ 東京都区部下水道における雨天時放流水質の向上への取組について 東京都 佐久間隆
東京都下水道局計画調整部計画課水質改善事業推進専門課長 佐久間隆
1 はじめに
東京都23区の下水道は、約8割が合流式で整備されています。下水道局では、雨天時に合流式下水道から川や海に放流される汚濁負荷量を削減することで良好な水環境を創出するため、早い時期から合流式下水道の改善に取り組んできました。そして、、下水道法施行令で定められた分流式下水道並みの雨天時放流水質基準を達成するために必要となる施設の整備が令和5年度末に完了しています。
その一方で、潮の干満や川の構造等の影響により水が滞留しやすい水域や、まちづくりのなかで水辺のにぎわい創出を推進している水域等では、さらなる水質向上が求められています。本稿では、公共用水域の水質向上への貢献として、雨天時放流水質の向上への取組について紹介します。
2 下水道法施行令の改正への対応
明治初期の東京では、疫病コレラの流行により多くの死者が発生するとともに、低地等では大雨による浸水被害が頻発していました。これらの大きな課題に対して、汚水の処理による衛生環境の改善と雨水の速やかな排除の二つの目的を同時に達成することが求められていました。このため、早く安価に効果を発揮できる合流式下水道を採用して明治時代から下水道整備を着実に進め、安全で快適な都市の実現に大きく貢献しました(図1)。
合流式下水道は、汚水と雨水を同じ一本の下水道管で集める方式です。弱い雨の日には雨水と一緒に道路や宅地内にたまった汚れも水再生センターで処理できる特徴がある一方、強い雨が降るとまちを浸水から守るため、汚水混じりの雨水が吐口やポンプ所から川や海などへ放流される仕組みとなっています(図2)。
平成12年9月、下水道管内で油が冷えて固まった「オイルボール」が東京お台場周辺に漂着している事象が全国紙に報道され、合流式下水道が抱えていた課題が大きく注目されたことをきっかけに、平成15年に下水道法施行令が改正され、雨天時放流水質基準が強化されることになりました。
区部下水道では、合流式下水道を改善する取組(図3)として、雨水吐口の対策(雨水吐口約730カ所やポンプ所からのごみ等の流出を抑制する施設の整備)、しゃ集幹線の整備(雨天時の下水をより多く水再生センターに送るための下水道管約155キロメートルの整備)、貯留施設の整備(降雨初期の特に汚れた下水を貯留する施設約170万立方メートルの整備)等を実施し、令和5年度末にこれらの取組が完了しました。
3 水域のニーズへの対応に転換
東京都区部では下水道法施行令で定める雨天時放流水質基準の分流式下水道並みを達成するためのさまざまな取組が完了しました。しかし、潮の干満の影響や平常時の水の流れが少ないなど、水が滞留しやすい一部の水域では、依然として雨天後の白濁化・スカム等の局所的な水質悪化が生じています(写真)。
また、日本橋川周辺では、首都高速道路の地下化に伴う川沿いの大規模開発において、水辺空間を生かしたまちづくりが推進されています。これら地域の水環境ニーズの変化や公共性の高まりにあわせて、下水道事業としてさらなる水環境への貢献が求められています。
水域の水質は、潮の干満、水域の構造、堆積物等、さまざまな要因が影響していることから、下水道管理者の対策に加え、水域管理者の対策や地域住民の協力など、多様な主体と連携した総合的な取組が必要となっています。
このため、「経営計画2026」では、地域の水環境の向上を目的とした協議会等により、さらなる水質向上が求められている水域では、水環境へのニーズや水質目標を踏まえて、地元および関係者と連携した取組を推進し、また、関係区や開発事業者等と連携して貯留施設を整備するとともに、再開発地区等を対象とした部分分流化を推進するほか、下水道管への雨水流入抑制を促進することとしています。
4 雨天時放流水質の向上への取組
4・1 多様な主体と連携した水質向上に貢献する取組の推進
下水道法施行令で定められた全国一律の雨天時放流水質基準から、水域のニーズに応じた水質向上に貢献する取組を多様な主体と連携して進めています。
日本橋川周辺では、首都高日本橋区間の地下化や民間による大規模開発など、まちづくりの動きの活発化を受け、日本橋川を中心とした新たな水の都を創造し、日本・東京を代表するにぎわいのあるまちづくりの実現に向けた「日本橋川周辺のにぎわい創出に向けた検討会」が設置されました。日本橋川においては、この方針に基づき、関係者と連携して水質向上の取組を推進しています。日本橋川に隣接する再開発地区である常盤橋街区では、民間ビルの地下空間に貯留施設の整備(図4)を進め、これに加えて、日本橋川の周辺で新たな事業用地を確保し、貯留施設の整備に着手する予定です。
目黒川、呑川、石神井川では、それぞれ地元区が事務局となり、東京都(環境局・建設局・下水道局)と関係区で構成される協議会が設置され、目標とする水環境を定め、さまざまな主体と連携した水質向上の取組を実施しています。当局は、貯留施設の整備などを実施し、関係区等は、河床整正や浚渫、高濃度酸素溶解水供給施設による対策を実施するなど連携した取組を推進しています。
目黒川では、総容量約15万立方メートルの貯留施設整備や関係区等の取組により、令和元年度を基準年とした悪臭(大気中硫化物濃度0・2ppm)発生日数に対して、令和7年度では半減し、対策の効果が表れています(図5)。
4・2 まちづくりにあわせた部分分流化の推進
再開発などでは敷地内の排水管も再整備されます。当局ではまちづくりと連携し、開発地区内の下水道を新たに分流式で整備する部分分流化を進めています。部分分流化により、地区内の雨水を川や海に直接放流することで汚水混じりの雨水量が減少し、水域の水質改善効果が期待できます(図6)。
水域に隣接する敷地の広い公共施設の建て替えや、日本橋川周辺の水辺環境を生かした大規模な再開発にあわせて、部分分流化を推進していきます。
4・3 下水道管への雨水流入抑制の促進
雨水浸透施設を設置することにより、雨水が地下に浸透するため、下水道管に流入する雨水量が減少します。これにより、降雨時に川や海に放流される雨水量が削減されます。
東京都・区市町村では、総合的な治水対策の一環として、雨水浸透施設の設置を促進しています。当局においても、区内の戸建住宅等における雨水浸透施設の設置促進を図るため、設置の考え方や各区の助成等制度を整理した「雨水浸透ハンドブック」を作成し、ホームページに公開しています(図7)。また、関係局や関係区と連携して、道路雨水浸透ますや宅地内浸透施設の整備を促進するとともに、公共雨水浸透ますの整備を進めていきます。
5 おわりに
区部下水道では、これからも下水道法施行令で定められた分流式下水道並みの雨天時放流水質基準を遵守していきます。また、潮の干満の影響により水が滞留しやすい水域などにおいて、水域のニーズに応じて貯留施設等の整備を推進し、公共用水域の水質向上に貢献していきます。