水道水におけるPFASの処理技術~活性炭処理を中心に~ 松井 佳彦
北海道大学名誉教授 早稲田大学研究院客員教授 松井 佳彦
浄水処理への難路拓け
水道水の原水中からPFOSやPFOAなど検出され、PFAS類の水質管理が課題となっている。現行の水質基準体系ではPFAS類は水道水質基準項目ではないが、PFOSとPFOAは水道水質管理設定項目、PFHxSは要検討項目である(2024年10月7日時点)。PFOSとPFOAは食品安全委員からリスク評価が提出され、早急な調査、管理、対策が求められている。
しかしながら、PFOSやPFOAなどのPFAS類は既存の利用可能な処理技術で容易に対応可能とは言えない。実際の浄水において凝集、沈澱、砂ろ過、低圧膜ろ過ではPFOS、PFOAなどPFASはほとんど除去されず、分子量が1千Da以下で溶存性物質であることからもそれらの処理工程では原理的にも除去は期待できない。またPFASの基本構造であるC―F結合は強固なため生分解性はなく、塩素やオゾン、促進酸化でもほとんど分解されず、効果的な分解除去は期待できない。
浄水で利用可能な最良のPFAS処理は、活性炭やイオン交換樹脂による吸着処理とRO(reverse osmosis、 逆浸透)やNF(nano filtration、 ナノろ過)膜による分離とされている。
活性炭によるPFAS処理はその吸着作用によるものであるが、残念ながらPFASの活性炭吸着性は高くはない。例えば、PFASの応急対応処理として粉末活性炭の注入が考えられるが、低吸着性のため除去に必要な注入率は高く、数十ミリグラム/リットルかそれ以上にもなる。このため薬品コストがかかるのみならず、汚泥処理への負荷も大きくなることなどから、粉末活性炭注入は、中・長期的な対応策としては現実的とは言えない。
中・長期的な対応の一つに粒状活性炭層による吸着処理があげられる。しかし、除去作用は吸着作用であるため、吸着能が低下した生物活性炭では除去は期待できない。粒状活性炭処理では通水時間とともに処理水中の濃度は高くなり、破過(ブレークスルー)に至るが、活性炭のPFAS吸着容量が高くはないため、破過に至る日数は長くなく、例えば年に複数回の活性炭の入れ替えが必要になる事例も報告されている。粒状活性炭や粉末活性炭のいずれにしても除去性はPFAS種によって大きく異なる。例えば、PFOSやPFOAのスルホン酸系やカルボン酸系同族体では炭素数が少ない低分子PFASほど活性炭では除去され難い。さらには同一炭素数ではカルボン酸系の方がスルホン酸系よりも除去性が低く、例えばPFOSに比べるとPFOAは除去性が低く、粒状活性炭処理では破過が早い。さらに、PFAS除去性は、PFAS種自体の性質や活性炭自体の性能のみならず、原水の水質、例えば、TOC(全有機炭素)濃度やその成分、硝酸イオンなどの陰イオン、共存する他のPFAS類とそれらの濃度によりPFASの除去性は大きく影響を受け、粒状活性炭処理における破過までの日数や粉末活性炭処理におけ
る必要な注入率は原水によって大きく異なる。粒状活性炭処理では破過までの期間、すなわち活性炭に通水できる日数は、層厚や通水速度によって変わるため、時間スケールではなくて通水倍率、すなわち、処理水量/活性炭層容積を指標に評価されるので、破過までの通水倍率は原水水質などによって大きく変わるといえる。また、PFASは生分解性がないことから、粒状活性炭の交換や粉末活性炭を沈殿池から汚泥として取り出すまでは除去されたPFASは活性炭内に保持されている。このため粒状活性炭処理では、流入濃度が低下した場合や他のPFASの共存によっては、いったん吸着したPFASが脱着し、除去率が低下することがある。
粒状活性炭によるPFAS吸着処理を実際に適用する場合には、まずは活性炭の性能、すなわち破過までの通水倍率を知りたいところである。残念ながら活性炭によるPFAS処理は上述のようにさまざまな要因が関連し複雑なため解析や予測は難しい。したがって、粒状活性炭処理を導入するにあたっては、他の事例をそのまま参考にするのはなく、実際の原水を使った処理性試験による評価が必要である。これを短期間で予測する方法としてRSSCT(rapid small-scale column test、迅速小型カラム試験)が提案されて、欧米では広く実用されている。
活性炭以外の吸着手法
PFAS処理における吸着剤としては活性炭の他にイオン交換樹脂も検討され、欧米ではPFAS除去に特化した高吸着容量のイオン交換樹脂が開発され、実際の浄水に適用されている。PFAS処理用のイオン交換樹脂は活性炭に比べて吸着容量は高い。しかし、脱塩やイオン除去のイオン交換と違って、PFASを吸着した樹脂の場合には再生は容易ではなく、使用後の樹脂は廃棄処分となる場合が多い。活性炭/イオン交換樹脂のどの吸着剤を使うにしても使用後にはPFASが保持されているので、処分や再生利用に際しては環境汚染にならないようにしなければならない。
PFASはNFやROの高圧膜処理によって除去可能で高い除去率が期待できる。ROは海水淡水化法として広く実用化されているが、地表水や地下水は海水よりも塩濃度が低いので操作に必要な運転エネルギーも海水淡水化よりは低くなることから、運転コストは海水淡水化利用より有利になると思われる。また、NF、ROでは活性炭やイオン交換樹脂と比較して、膜交換までの寿命が長く長期的な除去が期待できる。しかし、実際に適用するに当たっては、清澄な処理水とともに排出されるPFAS濃度が高まった濃縮水の処理・処分という大きな課題を同時に解決しておく必要がある。
PFAS類の浄水処理は非常に難しく、残念ながら日本では技術的な蓄積が多いとは言えない。今後、調査、研究開発が加速され、水質管理に資されることを期待している。