強靭で持続可能な東京下水道へ 東京都下水道局が進めるエネルギー・地球温暖化対策 東京都 山田英樹
東京都下水道局計画調整部エネルギー・地球温暖化対策推進担当課長 山田英樹
1 はじめに
東京都下水道局(以下、「当局」という)では、環境負荷の少ない都市の実現への貢献を目指し、エネルギー・地球温暖化対策を推進しています。本稿では、当局のエネルギー・地球温暖化対策について、ご紹介します。
2 当局の現状
当局では、水再生センターやポンプ所等の施設が、24時間365日休むことなく稼働し、年間で約21億立方メートルもの下水を処理するとともに、その過程で発生する約7400万立方メートルの汚泥を処理しています(2024年度実績)。そのため、都内における年間電力使用量の約1%に当たる電力を消費するなど大量のエネルギーを必要とし、多くの温室効果ガスを排出しています。さらに今後も、処理水質の向上や浸水対策などの下水道機能向上の取組により、エネルギー使用量や温室効果ガス排出量が増加する見込みです。
3 下水道事業で発生する温室効果ガス
下水処理は、水処理工程と汚泥処理工程に大きく分けられ、その過程で電力や燃料等のエネルギーを必要とし、それに伴い大量の二酸化炭素(CO2)を排出しています。また、生物処理や汚泥焼却等で、CO2の265倍の温室効果を持つ一酸化二窒素(N2O)や28倍の温室効果を持つメタン(CH4)を排出しています。
4 これまでの取組
4・1 下水道事業における地球温暖化防止計画「アースプラン」
当局は、温室効果ガスの削減目標や具体的な削減方法を定めた、下水道事業における地球温暖化防止計画「アースプラン」を策定し、温室効果ガス排出量の削減に計画的に取り組んできました。「アースプラン」は2004年に策定してから、2010年と2017年に改訂してきました。前計画である「アースプラン2017」では、東京都環境基本計画の改定を踏まえ、温室効果ガス排出量を2030年度までに2000年度比で30%以上削減という高い目標を設定しました。2020年度の温室効果ガス排出量は2000年度比28%削減となり、中間目標として設定した25%以上削減を達成しています。
4・2 下水道事業におけるエネルギー基本計画「スマートプラン」
2011年の東日本大震災後の電力危機を契機にエネルギー問題の重要性が一層増し、省エネルギー・創エネルギーの取組が全国の下水道事業者にとって重要な課題となりました。
そのため当局では、2014年6月に下水道事業におけるエネルギー基本計画「スマートプラン2014」を策定し、下水道事業におけるエネルギー活用の高度化やエネルギー管理の最適化を図ってきました。
5 「アースプラン2023」の策定
気候危機が一層深刻化するなか、国内外では脱炭素化への動きが加速しています。当局では、国や東京都の新たな動き、さらには外部有識者による「下水道カーボンハーフ実現に向けた地球温暖化対策検討委員会」の議論を踏まえ、2023年3月、新たな地球温暖化防止計画「アースプラン2023」を策定しました。本計画は、これまでのアースプランとスマートプランを統合して新たな計画とするもので、下水道事業の特性を踏まえて地球温暖化対策とエネルギー対策を一体的に推進することを目的とします。温室効果ガスの排出削減にあたっては、エネルギー起源のCO2とN2O等の削減を総合的に勘案して対策を一体的に推進する必要があることから、目標を図1のとおり設定しました。
2030年カーボンハーフの実現に向けては、既存技術の導入拡大に加え、新たに技術開発した先進技術の導入を推進していくことが重要となります。これまでのアースプランやスマートプランの取組を加速するともに、新たに技術開発した設備の導入や再生可能エネルギーの更なる活用などの取組を強化していきます。
6 2030年カーボンハーフ実現に向けた取組方針
2030年カーボンハーフの実現という目標を達成するために、次の取組方針に基づき、水処理工程および汚泥処理工程のそれぞれにおいて対策を推進します。
6・1 取組方針1 徹底した省エネルギーの推進
これまでの老朽化に伴う再構築に加え、早期に地球温暖化対策の効果を発揮させるため、既存機器よりも機能を向上した省エネルギー型機器への再構築を前倒しして実施します。
水処理工程では、送風機の電力使用量を削減する取組を進めており、従来の散気装置より約2割の電力使用量の削減効果が見込める微細気泡散気装置(図2)を導入していきます。また、散気装置単体での更新に加えて、微細気泡散気装置と各系列の圧力・風量に合った高効率な送風機を組み合わせることで、ばっ気システムの最適化を図り、さらに効果を上げています。
さらに、汚泥処理工程では、濃縮機の電力使用量を削減する取組を進めており、従来の濃縮機より約9割の電力使用量の削減効果が見込める省エネルギー型濃縮機等を導入していきます。
6・2 取組方針2 再生可能エネルギーの利用拡大
施設上部や水再生センターの再構築用地などへの太陽光発電(写真)の導入を進めており、2025年度末までに52カ所で約6500キロワットの設備を設置しています。現在、砂町水再生センター等での導入を進めており、2030年度までに約1万キロワットまで増強を進めていきます。
これに加えて、森ヶ崎水再生センターにおいて、下水汚泥の処理過程で発生する消化ガスを活用した発電の出力を増強することで、当センターで使用する電力量の約3割に相当する年間約3200万キロワット時の発電を令和9年度から開始する予定としています。
また、焼却廃熱を活用して発電することで、焼却炉の運転に必要な電力を自給するエネルギー自立型焼却炉(図3)を東部スラッジプラントに導入していきます。
さらに、新たに開発した焼却廃熱を最大限に活用して発電することにより他の設備へ電力を供給できるエネルギー供給型(カーボンマイナス)焼却炉(図4)を南部スラッジプラントに導入していきます。
7 2050年ゼロエミッション実現に向けたビジョン
2050年ゼロエミッション実現に向けては、既存技術や先進技術の導入だけでは達成が困難であることから、下水道が持つポテンシャルや下水道資源を最大限に活用し、革新的技術の開発・導入により温室効果ガス排出量を徹底的に削減する必要があります。
具体的な例としては、ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造を用いた日本生まれの軽量・柔軟な次世代型の太陽電池であるAirソーラーやバイオマス由来のCO2を回収して利用・貯留するネガティブエミッション技術などがあります。
また、下水道事業の境界(バウンダリー)にとらわれず、下水道資源を利用した取組を推進することで、社会全体のゼロエミッション実現に貢献することも重要です。
8 おわりに
当局は、これまでアースプランに基づいて計画的に地球温暖化対策に取り組み、着実に温室効果ガス排出量を削減してきました。
今後も、さらなる省エネルギー設備等の導入拡大や再生可能エネルギーの利用拡大などを図るとともに、新たな技術開発を推進し、2030年カーボンハーフと、その先の2050年ゼロエミッションの実現に向けて、地球温暖化対策を加速・強化していきます。