経営に生かすSDGs講座―持続可能な経営のために―(71) DXとSDGs
「デジタル社会の実現に向けた重点計画」
DXとはデジタルトランスフォーメーションの略だ。今年は真の意味で、DX実装元年になるだろう。
「デジタル庁」(2021年9月1日発足)は、22年6月7日に「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(閣議決定)を発表した。わが国が目指すデジタル社会を「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」と規定した。
具体策として、次の6つをまとめた。
①デジタル化による成長戦略
②医療・教育・防災・こども等の準公共分野のデジタル化
③デジタル化による地域の活性化
④ 誰一人取り残されないデジタル社会
⑤ デジタル人材の育成・確保
⑥ 信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)(注)の推進をはじめとする国際戦略
(注)DFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)とは、プライバシー・セキュリティ等の信頼を確保しつつ、国際的に自由なデータ流通の促進を目指すという、日本が19年1月のダボス会議などで提唱したコンセプト
「重点計画」とSDGs
この計画の総論部分には、「経済成長と国民の幸福やSDGsといった社会的な道徳の価値が両立した社会の実現も同時に目指していく」とある通り、SDGsを意識した整理になっている。
筆者なりにこの計画にSDGsを当てはめると図の通りになる。

つまり、DXのデジタル技術を使って何を目指すのかという「出口」について、社会的意義を明確化するのに役立つのがSDGsである。特に社内外でSDGs仲間同士であれば、イノベーションも起こりやすい。
DXとSDGsの5P
DXとSDGsの関係性については、例えば、「5Gを5Pのために」といったスローガンになるだろう。
5PはSDGsで目指している、▽People(人間)▽Prosperity(繁栄)▽Planet(地球)▽Peace(平和)▽Partnership(パートナーシップ)の5つである。
DXや5Gはそれ自体さまざまに活用できる技術であるが、今問われているのはこれをどう使うのかという「出口」である。
このようにSDGsを使うことで社会課題解決につながっていく。
DXの本質とSDGsの関係
DX政策の背景となった、経済産業省が18年9月に出した「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」という報告書は話題を呼んだ。
25年前後に、第一線で働いてきたIT人材の引退や多くの企業が使っている基幹業務パッケージのサポート終了が起こる。この壁を乗り越えて、日本企業がデジタル化に取り組まなければ、他国との競争上の優位性を失い、25年から30年にかけて年間12兆円もの経済的損失を被ると予測した。
同年12月の「DX推進ガイドライン」では、DXを次のように定義した(線は筆者)。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
20年12月「DXレポート2・0」のコロナ禍とDXの分析が興味深い。
コロナ禍で明らかになったDXの本質は、先送りしてきた課題が一気に表出して、DXはITシステム更新の問題から企業文化刷新の問題へと変容したことである。
コロナ禍を通じて人々の価値観や行動様式が変化した。テレワークなどのデジタルによる社会活動の変化は元に戻らないという前提に立つと、ビジネスにおける価値創出の中心がデジタルの領域に移行したと考えられる、と指摘した。
この指摘をよくかみしめて、DXはビジネスモデルや企業風土の変革に踏み込むべき経営マターであることを十分に理解すべきだ。
この観点では、SDGs経営はDXの推進でも大いに役立つだろう。
千葉商科大学教授 笹谷秀光
