開催に寄せて 下水道展で下水道の魅力と底力を実感しよう 国土交通省 上下水道審議官 石井 宏幸
はじめに
このたび「下水道展'25大阪」が開催されるにあたり、関係者の皆様へ心よりお祝いを申し上げます。また、平素より下水道行政の推進にご理解とご協力をいただき、感謝申し上げます。
昨年4月に水道行政が国土交通省と環境省に移管され1年が経ちました。これまで培ってきたインフラに関する知見や、地方整備局などの現場力・技術力を活かし、上下水道一体で施策の着実な実行と充実を図るべく取り組み、少しずつ成果も上がってきているところです。今後とも関係者の皆様には、上下水道一体での政策の推進に向け、引き続きご協力をお願いいたします。
埼玉県八潮市の下水道道路陥没事故について
今年の1月28日に発生した埼玉県八潮市の下水道管路に起因すると考えられる道路陥没事故では、トラックドライバーの方が巻き込まれるとともに、約120万人の住民に下水道の使用自粛が求められるなど、甚大な影響が生じました。
国土交通省では、大規模な道路陥没を引き起こす恐れのある地下管路の施設管理のあり方などを専門的見地から検討するため、「下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会」を設置し、5月28日には、第2次提言がとりまとめられました。提言には、国民とともに守る基礎インフラ上下水道のあり方に関して、安全確保を何よりも最優先するという基本スタンスのもと、管路の安全性と事故発生時の社会的影響の2軸を考慮した点検・調査の重点化や管路の二条化などによるリダンダンシー(冗長化)の確保、集中的な老朽化対策などに対する国の重点的な財政支援などが盛り込まれています。本提言を踏まえ、6月6日に閣議決定された国土強靱化実施中期計画では、上下水道施設の戦略的維持管理・更新として、損傷リスクが高く事故発生時に社会的影響が大きい大口径の上下水道管路の更新や、大口径の上下水道管路におけるリダンダンシーの確保という施策が新たに追加されたところです。
これらの施策を実行するための考え方を自治体に分かりやすく示しながら、上下水道施設の戦略的維持管理・更新をしっかりと進めてまいります。
国土交通省の取り組み
水道・下水道を取り巻く環境は、職員の減少、老朽化施設の増加、自然災害の激甚化など厳しさを増すとともに、脱炭素、食料安全保障などの新たな課題への対応も求められており、その役割は拡大しています。国土交通省では、これらの課題に対応するため、デジタル技術の活用や広域連携、ウォーターPPP、下水汚泥資源の肥料利用などの取り組みも推進しています。
特にデジタル技術の活用においては、メンテナンス効率の向上や広域連携の加速、経営の効率化、大規模災害発生時に備えた上下水道施設の早期の強靱化などの事業基盤強化の効率的な推進が期待されるところです。こうしたことを踏まえ、国土交通省では上下水道DXの推進に係る具体的方策の検討を行うため、学識者、地方公共団体、関係団体が参画する「上下水道DX推進検討会」を設置し、6月6日に最終とりまとめを公表しました。最終とりまとめでは、今後取り組んでいくテーマとして、業務の共通化や情報整備・管理の標準化、DX技術の普及促進、現状可視化の方向性を示しており、関係者一丸となって上下水道DXの取り組みを進めていくとともに、今後3年程度でDX技術を全国で標準実装することとしました。
また、水道行政が厚生労働省から国土交通省に移管されたことを契機に、2050年の社会経済情勢を見据え、強靱で持続的、また、多様な社会的要請に応える上下水道システムへ進化するための基本的な方向性について、上下水道一体で議論するため、学識経験者、地方公共団体、関係団体からなる「上下水道政策の基本的なあり方検討会」を設置しました。6月10日には、第1次とりまとめの議論が行われ、単一市町村による経営にとらわれない「経営広域化」を国が主導することや、更新投資を適切に行い、次世代に負担を先送りしない経営へシフトしていく方向性など、これまでのあり方にとらわれない改革を強力に推進する認識が示されました。
今後も引き続き、多様なテーマについて検討会での議論を行い、将来の新たな政策の羅針盤となるものをとりまとめてまいります。
大阪市で開催される意義
今回、「下水道展'25大阪」が開催される大阪市では、豊臣秀吉の大阪城築城に伴う町割の際に、市中の汚水・雨水を集めて東西の横堀川に排水する「背割(太閤)下水」が築造され、その一部は、現在でも使用されております。また、1925(大正14)年には下水の処理・浄化の実験を開始し、これを基礎として、40年に津守・海老江の下水処理場で下水処理が開始されました。
このように古くから下水道事業に着手している大阪市ではグリーンイノベーションに向けた「最初沈澱池におけるエネルギー回収技術」や海老江下水処理場における全国初のハイブリッド処理法への更新などさまざまな技術開発が行われており、最新技術・機器などを紹介する下水道展が同市で開催されることは大変意義深いことです。
おわりに
下水道展は、日本の下水道界最大のイベントとして国内外、老若男女問わず楽しんでいただける機会でもあります。多くの方々が日本の下水道の魅力と底力を実感されること、そして関係者と参加者の皆様にとって実りある下水道展となることを心より祈念いたします。
