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災害時における石綿対策支援のための連絡ツールの調査・試行 寺園 淳(国立環境研究所)、 豊口 敏之・岩澤 寿男(環境管理センター)

大規模な地震や水害の被災復旧過程においては、アスベスト(石綿)の被害を防ぐ対策も課題となっている。災害直後は関係者間の情報共有も困難になることが想定されるなか、国立環境研究所の寺園淳氏らは、災害時の石綿飛散防止対策支援のための連絡ツールについて基礎的な調査を行い、課題を整理した。アスベスト問題に取り組む研究者、現場の実務者、行政関係者が参加する石綿問題総合対策研究会の第12回研究発表会(3~4日開催)で報告された研究成果を紹介する。

災害時における石綿対策支援のための連絡ツールの調査・試行 寺園 淳(国立環境研究所)、 豊口 敏之・岩澤 寿男(環境管理センター)_

1.はじめに

災害時の石綿飛散防止対策支援に関しては、「災害時アスベスト対策支援のための関東ブロック協議会」(以下、関東ブロック協議会)内、ならびに各種自治体と専門機関との間において、災害時の情報共有等の連携・協力体制が構築されつつある。しかしながら、災害の多様化・多発化、被支援機関の知識と経験不足、被支援機関と支援機関双方の人員不足などによって、災害直後の情報共有のあり方は困難を伴うことが予想される。一方で、近年のスマホやタブレットなどの普及と IT技術の発達によって、迅速かつ効率的な連絡ツールの開発も期待される。

そこで被支援機関として自治体を想定して、災害時の石綿飛散防止対策支援のために、連絡ツールのニーズと可能性などの基礎的な調査を行うとともに、試行を実施して課題を整理した。

2.自治体におけるニーズと課題の調査

自治体におけるニーズ(関心)と課題を把握するために、環境省関東地方環境事務所の協力を得て、関東ブロック協議会の構成員(自治体)に対して、2023年7月24日の会合で趣旨説明を行うとともに、アンケート調査を実施した。アンケート調査は9月7日にメールで20の自治体に配布し、同月30日までに16 件の回答を頂いた(回答率80%)。調査項目は、連絡ツールへの関心、過去の災害における連絡ツールの活用事例、使用可能な機材・ソフトウェア、重視・期待する点、課題・懸念する点などとした。

連絡ツールへの関心について、「関心がある」「やや関心がある」が計 15件(93・8%)と関心の高さが伺えた。活用事例については「メール」の4件以外は、連絡・災害の事例なしが計12件と多かった。災害時の使用可能な機材はノートパソコン(自治体支給)が12 件、スマートフォン(個人所有)が10件と続き、使用可能なソフト・アプリはLINEが5件、その他が6件であった。重視・期待する点については、「写真や位置情報の共有」が16件、「専門家からの助言」が13件、「現地での連絡手段としての機能」「データ共有の機能」が各12件であった。一方、課題・懸念する点としては、「セキュリティ」「費用」が各14 件、「使い勝手」が13件挙げられた。

3.自治体における連絡ツールの試行

災害時における連絡ツールの具体的な可能性と課題を把握するために、埼玉県の協力を得て、23年12月21日に県所有建築物において連絡ツールの試行を行った。想定シーンとして、環境省の「災害時における石綿飛散防止に係る取扱いマニュアル(第3版)」にも示されている被災後露出状況調査のために、自治体が技術者等(専門家)に支援要請するのに先立ち、対象建築物リストを準備する際に遠隔支援を求める場面とした。今回は連絡ツールとして、会議機能付きスマートグラス(S社)と汎用性の高いLINE(LINEWORKS)を用いた。

当日は敷地内で「現場」役と「本部(事務所・専門家)」役に分かれて、画面と音声で連絡を取り合って「現場」役が8カ所の建材(レベル3を含む)を見ながら調査・分析の要否などを確認して回り、機能と課題を確認した。その結果、使い勝手に差が生じたものの、画面と音声によって両者で必要な情報はほぼ共有することができ、「現場」役も助言を得ることができた。

4.おわりに

災害時における連絡ツールについて、自治体からの期待とともに既存のツールでも最低限の機能は果たせることを確認した。今後はセキュリティに配慮した機器の準備や、写真・位置情報を含む災害対応のツール開発が課題である。今回の調査にご協力頂いた関東ブロック協議会各位、特に環境省関東地方環境事務所、埼玉県(大気環境課)の皆様にお礼申し上げます。

災害時における石綿対策支援のための連絡ツールの調査・試行 寺園 淳(国立環境研究所)、 豊口 敏之・岩澤 寿男(環境管理センター)_