リチウムイオン電池処理への電気パルス法の適用 早稲田大学理工学術院、東京大学大学院工学系研究科 所千晴
1.はじめに
小型LiBは、製品への組込形態が多様であることから、回収が困難である上、処理過程での火災リスクも内在している。実際に、家庭ごみに混入したLiBがごみ処理施設内で発火・火災を引き起こす事例も報告されており、自治体にとって安全な処理方法の確立が課題となっている。小型LiBは、車載用LiBと比較すると、まずは安心・安全な処理フローの構築に開発の重点が置かれているのが現状である。しかしながら、こうした処理体制を持続的に運用するためには、費用面の課題も無視できず、小型LiBに内在する銅、リチウム、コバルトといった金属資源を都市鉱山として捉え、高効率に回収・再利用する方策をあわせて検討する必要がある。
2.電気パルス法の概要とLiB処理装置開発事例
電気パルス法は、水中に設置した電極間で高電圧のパルス放電を行い、その瞬間的なエネルギーにより対象物を破砕・剥離させる技術である。放電時にはジュール加熱、衝撃波、気泡膨張など複数の物理現象が発生し、特に樹脂と金属の界面に集中して応力が作用することから、電子機器筐体の解体や部材の分離に有効である。水中で処理が行われるため、満充電状態のLiBを含む小型電気製品に対しても、発火や爆発のリスクを抑制しながら処理できる点が大きな特徴である。
本技術の社会実装に向け、筆者らは市販の電気パルス集合粉砕装置(インパルステック社製、0.7μF,40kV,水容量20L)を用い、ハンディファンや電子タバコ等の小型製品の破砕・失活試験を行った。満充電状態の電池に対して、200回以上の放電を行うことで筐体の破砕と一部の電池失活が確認されたが、放電の確実性には課題が残った。これは、対象物が水中チャンバー内で十分な電界中に位置しない場合、放電が電池に到達しにくいという構造的制約によるものである。
この課題に対処するため、電極配置および蓋構造を改良した小型専用チャンバーの設計・製作を行った。蓋材はガラス繊維入りフェノール樹脂とし、高電圧下での耐久性を確保した。また、放電効率を高めるため、対象物と電極の位置関係が安定するように設計を工夫した。試験では、20回程度の放電で電池電圧が低下する例が確認され、水温の上昇もほぼ見られなかった。すなわち、電気パルス処理はエネルギーの瞬間集中型プロセスでありながら、全体としての熱負荷は低く、安全な処理が可能であることが示唆された。
今後は、集合粉砕法による処理が、樹脂と金属の界面に作用することによる単体分離と、LiBの失活を同時に達成する「一工程化」の実現可能性を有している点に注目し、リサイクルプロセス設計における有力な選択肢とすることを目指していく。そのために、処理対象の材質や構造に応じた装置条件の最適化を進めるとともに、個々の対象に対する単体分離および失活挙動の作用機構の解明を行う予定である。すでに、対象物に対して適切に通電が行われれば、いずれかの機能(分離または失活)を高効率に誘発できることは確認されており、今後の技術的焦点は、いかに確実かつ効率よく通電を達成するかという設計上の工夫である。