待ったなし! 下水道管路の老朽化対策―八潮市の道路陥没事故を踏まえた課題と展望 「メリハリ」と「見える化」で管路マネジメント転換
点検・調査は頻度の明確化・高度化を
埼玉県八潮市で起きた大規模な道路陥没事故は、日本の下水道管路の危うい状況を強烈な形で浮き彫りにした。日本列島に張りめぐらされた下水道管路の長さは約49万キロ。その多くが老朽化しており、破損や破裂のリスクは日々高まっている。同様の大規模事故はいつどこで起きてもおかしくなく、まさに「待ったなし」の状況にある。この危機をどう乗り越えていくのか。官民あげて進む取り組みを追った。
八潮市・大規模事故の衝撃
2025年1月28日に起きた八潮市の事故では、大規模な道路陥没にトラック運転手が巻き込まれて死亡、加えて約120万人が長期にわたって下水道の使用自粛を求められた。トラック運転手の救出作業中に道路が大きく崩れ落ち、周囲の建造物がのみ込まれていく映像は全国に衝撃を与えた。
また、この事故の復旧工事の途中でも、同年3月7日に秋田県男鹿市で下水道管路の補修工事中に作業員3人が死亡し、同年8月2日には埼玉県行田市で下水道管路の調査をしていた作業従事者4人が死亡する事故が発生した。男鹿市と行田市の事故は発生を防ぐための作業がさらなる犠牲者を出したことで、下水道管路対策が極めて困難であることを示す結果となった。さらに、死者こそ出てはいないものの、21年10月には、和歌山市で水管橋が崩落し約6万世帯で約1週間の断水が起きたほか、25年4月30日には京都市下京区で水道管が漏水し、国道1号が終日交通規制となるなど、老朽化に伴う漏水事故が全国各地で起きる深刻な状況が続いている。
緊急点検実施、専門家委設置、国交省動く
国土交通省は八潮市の事故を受け、八潮市の陥没場所と同じような構造を持つ大規模下水道管路について1週間を期限にした緊急点検を地方公共団体に要請した。一方で、専門家による「下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会」(委員長=家田仁・政策研究大学院大学特別教授)を立ち上げ、同年3月17日、「第1次提言」として改めて全国特別重点調査の実施を要請した。この調査は「対象を重点化した上で、安全確保に最大限留意しつつ、現状で適用可能な技術を総動員」して行うよう求めた。これを受けて国交省は翌3月18日、最優先で実施すべき箇所は同年夏頃までに、それ以外の箇所は1年以内を目途に調査を完了するよう全国の下水道管理者に要請した。埼玉県行田市の4人死亡事故はこの全国特別重点調査中に起きたものだ。
続いて対策検討委員会は同年5月28日、「国民とともに守る基礎インフラ上下水道のあり方~安全性確保を最優先する管路マネジメントの実現に向けて~」と題した「第2次提言」を行った。第2次提言は、日本のインフラメンテナンスについて、12年の笹子トンネル天井板落下事故を契機に翌13年を「メンテナンス元年」と位置付け、産学官民が連携してさまざまな取り組みを展開してきたと振り返った。下水道分野では、15年に下水道法が改正され、維持修繕基準が創設されたことも指摘した。
一方で、第2次提言は、メンテナンスが十分に進まない状況について、市区町村の土木費がピーク時の 1993年度(約 11・5兆円)から 2011年度までの間で約半分(約6兆円)に減少し、現在も約6・5兆円程度、ピーク時の約6割程度となっていることを指摘した。また土木系を含む技術系職員も減少し全国の約5割の市区町村では技術系職員が5人以下という厳しい状況を憂慮した。
「第3次提言」は1次、2次の提言を踏まえ、「信頼されるインフラのためのマネジメントの戦略的転換」と題しまとめられた。「Ⅰ 2つの『メリハリ』と2つの『見える化』による下水道管路マネジメントの転換」と「Ⅱ 新たなインフラマネジメントに向けた5つの道すじ」の2部構成で、下水道管路マネジメントに関する具体的な方向性を示している。同年12月1日には、対策検討委員会の家田委員長から金子恭之・国交大臣に提出された。下水道管路の点検や調査、診断、再構築についてメリハリと見える化を重点的に図り、損傷リスクが高い箇所や社会的影響が大きい箇所に対する点検・調査は頻度を明確にして複数の手法を組み合わせるべきと提起した。
現場で進む「ウォーターPPP」
下水道管路の保全管理を現場で担う地方公共団体は、以前から老朽化への危機意識は強く、さまざまな対策をとってきた。その土台となっているのが、幅広い官民連携手法(PPP)の流れだ。行政機関の人手や予算の不足を、民間の知恵と活力を導入して乗り切ろうとするもので全国に広く定着してきた。令和の時代になると、民間業者との契約は個別契約から包括的長期契約へと移り始めた。23年には内閣府が官民連携方式とコンセッション方式を合わせた概念として「ウォーターPPP」を打ち出し、31年度までに下水道分野で100件のウォーターPPP具体化が目標として掲げられた。
こうしたPPPの流れをけん引する自治体の一つが茨城県守谷市だ。2000年には下水道施設管理の包括業務委託を始め、04年には市内全域の下水道整備を終了した。さらに23年には拡大包括業務委託として業務委託の水準を上げ、コンサルタント業務も民間事業者に委託した。これにより予算項目を横断した効率的な運営管理が進み、事業費の削減も視野に入った。また、DX技術の積極的な導入により事業の高度化・効率化も進みつつある。市は「民間の創意工夫及びノウハウを活用し、さらなる上下水道事業の効率化と上下水道利用者へのサービス向上を目指します」としている。
神奈川県横須賀市も民間企業のノウハウを活用した運営効率化を積極的に進めている。22年3月に「横須賀市上下水道マスタープラン2033」を策定し「安定した下水の排水と処理」「災害に強い上下水道づくり」などの政策を掲げている。組織や運営を不断に見直し、下水道管路の状況を正確に把握、的確な優先順位によって保全・更新を行うとした。人口減少を見据えたうえで、突然の大災害にも即座に対応できる柔軟で視野の広い運営を目指している。