PFAS分析の高度化と信頼性確保へ 日本環境測定分析協会の挑戦
日本環境測定分析協会(日環協)会長 小野寺明
環境測定分析業界の現状
本年4月1日より、有機フッ素化合物(PFAS)のうちPFOSおよびPFOAが水道水質基準に引き上げられ、合算で1リットル当たり50ナノグラムという厳格な基準値が適用されることとなった。この規制強化は、国民の安全・安心を守る上で極めて重要なマイルストーンであり、我々環境測定分析業界が提供するデータの正確性と信頼性が、今後のPFAS対策の根幹を支えることとなる。日本環境測定分析協会(日環協)では、この社会的要請に真摯に応えるべく、業界を挙げてPFAS分析の高度化と信頼性確保に取り組んでいる。
PFASは、当業界において大きな注目を集めている。2026年3月現在、日環協の正会員488社のうち90社がPFASの測定分析業務を行っており、非会員も含めると国内には100社を超える分析機関がPFAS分析に参入しているものと推察される。
PFAS分析の課題
しかしながら、このような分析市場の急速な拡大には懸念も伴う。PFAS分析は、1リットル当たり数ナノグラムという極微量レベルを対象とするため、極めて高度な分析技術を要する。身の回りには多様なPFASが存在するため、操作中に混入する「操作ブランク」をいかに低減するかが技術的な要諦となる。さらに、PFOSやPFOAには直鎖や分岐鎖といった異性体が存在しており、その複雑さゆえに分析機関間で定量値にばらつきが生じやすい。こうした技術的ハードルがある中で、もし不適切な分析や価格競争のみを優先したダンピングが横行すれば、データへの社会的信頼が根底から損なわれかねない。
また、基準が設けられた水道水質に加え、発生源対策として公共用水域や地下水、土壌、廃棄物に含まれるPFASなどの分析ニーズも高まっている。さらには下水汚泥(肥料化)中の分析や、ばく露状況把握のための生体試料分析など、対象媒体の多様化に伴い、より高度な技術的知見が求められている。
現在の水道水質基準では、PFOSおよびPFOAのみが対象であるが、今後知見の充実を図るべき「要検討項目」として8物質(PFBS、PFHxS、PFBA、PFPeA、PFHxA、PFHpA、PFNA、HFPO―DA)が位置づけられている。特に残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)の廃絶対象物質であるPFHxSやPFNAなどは、PFOS、PFOAと同様の対策が必要となる可能性がある。これらの同族体や類縁体の分析信頼性確保も、我々が取り組むべき重要な課題である。
高度化と信頼性確保の取り組み
日環協の極微量物質研究会(UTA研)では、21年から水質中PFASの共同実験(クロスチェック)を開始した。直近ではPFOS、PFOAにPFHxSを加えた3物質を対象に共同実験を実施しているが、参加企業数は年々増えているものの、まだ一部の会員に留まっており、我が国全体の信頼性の底上げにはさらなる改善が求められる。
また、国際民間試験所連合(UILI)と連携した国際試験所間比較試験(ILP)にも参画している。25年には、水質中のPFAS10物質を対象とした試験所間比較試験に会員32社が参加した。
日環協のホームページでは、「技能試験参加試験所検索システム」を公開しており、これらの外部技能試験を通じて技能向上に努める試験所の情報を、発注者が容易に確認できる環境を整えている。
PFASの信頼性確保には、発注者側の理解と管理も不可欠である。環境省の「環境測定分析を外部に委託する場合における精度管理に関するマニュアル(20年7月)」(精度管理マニュアル)では、委託先候補の実施体制の確認が求められている。しかし、精度管理マニュアルは、初版策定から長い年月が経過し、自治体の現場において必ずしも適正に運用されているとは言いがたい状況にある。
日環協には、分野ごとの環境測定分析技術者の能力を適正に評価する「環境測定分析士」の資格制度がある。PFAS関連業務においては、これらの資格認定制度や、上述した外部技能試験の取り組みや結果などをぜひ活用いただきたい。
日環協は今後、環境省や地方自治体に対し、高度化と信頼性確保に関する日環協の取り組みも踏まえ、最新の技術動向を反映した精度管理マニュアルの見直しと運用の徹底を働きかけていく所存である。