強靱で持続可能な下水道へ 下水道法等改正の概要とポイントについて 国土交通省 藤原玄貴
国土交通省 水管理・国土保全局 上下水道企画課 課長補佐
(現・鹿児島県 総合政策部 交通政策課長)
藤原玄貴
1 はじめに
2026年7月、「下水道法等の一部を改正する法律」(以下「改正法」)が公布されました。改正法は、下水道の維持修繕基準の強化から、広域連携の推進、使用料の考え方の明確化、下水道区域の見直しまで、その目的は下水道施設の老朽化対策を確実に進めること、そして、あらゆる面からその基盤の強化を実現することにあり、改正内容は多岐にわたっています。
2 下水道法改正の内容
2・1 改正の経緯
下水道は、主に高度経済成長期以降、全国で着実に整備が進められてきましたが、今日では、管路をはじめとする施設の老朽化が深刻化し、また、職員数の減少や使用料収入の減少等も相まって、その事業環境は厳しさを増しているところです。
こうした中、昨年1月、埼玉県八潮市において、老朽化した下水道管の破損に起因する大規模な道路陥没事故が発生し、尊い人命が失われるとともに、約120万人の住民が下水道の使用自粛を求められたほか、道路利用者や道路交通にも多大な影響が生じることとなりました(写真)。
この事故を踏まえ、国土交通省では、同年2月、同種・類似の事故の発生を未然に防ぐため、地下管路の管理のあり方などを専門的見地から検討する「下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会」(以下「陥没対策委員会」)を設置しました。
陥没対策委員会は、同年3月には第1次提言として、全国の管路の老朽化と対策の状況を調査する「全国特別重点調査」の実施を提言するとともに、同年5月には第2次提言をとりまとめ、同年12月には第3次提言として、第2次提言で示した基本的な考え方等を基に、全国特別重点調査の優先実施箇所における調査結果から得られた知見や課題等も踏まえ、「メリハリ」と「見える化」による下水道管路マネジメントの転換を提言しました。
また、国土交通省では、24年4月に厚生労働省から水道行政が移管されたことを踏まえ、同年11月に「上下水道政策の基本的なあり方検討会」(以下「あり方検討会」)を設置しました。あり方検討会では、25年6月に第1次とりまとめ、26年1月に第2次とりまとめを公表し、複数自治体による事業運営の一体化をはじめとする広域連携の推進や、集約型・分散型のベストミックスによる施設の最適配置などに関する考え方を示しました。
国土交通省としては、これらの委員会・検討会の提言やとりまとめを踏まえ、必要な制度改正や予算措置等を行うこととし、26年3月に改正法の案を閣議決定し、国会に提出、審議を経て改正法が成立したところです。
改正法のうち下水道法に関する内容は、大きく(1)老朽化対策を確実に実施するための下水道マネジメントの確立、(2)広域連携の推進等による下水道の基盤の強化の2つの柱で構成されています。以下では、その改正の具体的な内容を紹介します。
2・2 改正の内容
(1)安全性確保を最優先とする下水道マネジメントの確立
①下水道の確実な老朽化状況の把握
着実に進行する施設の老朽化に対して、的確な対策を確実に実施するためには、その老朽化の状況を確実に把握することが重要となります。
下水道法では、15年の改正以降、点検基準を含む維持修繕基準を定め、腐食のおそれの大きい箇所(化学的弱点箇所)では5年に1回以上の点検を義務付けるなど、予防保全型のインフラメンテナンスを実施してきました。一方で、点検で把握した状況をどのように評価し、どのような対策を講ずるか、すなわち診断に関する基準は法令で定められていませんでした。このため、改正法において、維持修繕基準には、点検基準だけでなく、安全性の評価(いわゆる「診断」)も含むものでなければならないとしています。
具体的な基準の内容は、今後政省令等で定めますが、例えば、「緊急措置段階」は、鉄筋が広範囲に露出した状態で、緊急に改築を実施するなど、施設がどのような状態にあった場合に、どのような健全度の段階にあり、どのような対策が必要になるのか、地方公共団体の現場において判断しやすいような明確な基準とすることを意図しています(図1)。
あわせて、すでに政省令で定めている点検基準についての見直しも検討しています。例えば、従来から点検頻度を法令で定めている化学的弱点箇所に加えて、力学的弱点箇所と地盤的弱点箇所も5年に1回以上の頻度で、硫化水素濃度が著しく高い箇所や化学・力学・地盤全ての弱点箇所に該当する箇所では3年に1回以上の頻度とすることを想定しています。
さらに、老朽化する施設に対する住民の不安に対する説明責任や、老朽化対策に対する市民の理解醸成の観点から、住民・市民への「見える化」を進めるため、診断の結果や対策内容等の維持管理の状況を公表することを下水道管理者に義務付けることとしています。
②下水道の戦略的な再構築
大口径で管内の水位が高い管路は、平時から点検や修繕、改築が困難であるとともに、災害や事故により破損した際は迅速に機能を確保することが容易ではありません。このため、改正法では、下水道の構造で考慮すべき原則を明確化することとし、その原則の中で、点検・修繕・改築の容易性や災害時の応急措置の容易性を考慮すべきことを規定しました。
具体的には、重要な管路の複線化や、貯留施設の整備等を通じたリダンダンシー(多重性)の確保、管路の異状を検知する光ファイバーケーブル等のセンサーの設置等を通じたメンテナビリティの確保について、政省令で示す構造基準に規定し、地方公共団体で定める条例に反映していただくことを想定しています。
さらに、改正法では、計画的な改築を推進するため、下水道管理者に対して、長期的な観点から、諸条件を考慮した計画的な改築を実施する努力義務、改築費用を含む収支の見通しを作成・公表する努力義務を定めています。
(2)下水道マネジメントを支える基盤の強化
①下水道の基盤の強化
下水道の老朽化対策を着実に進めていくためには、それを支える基盤の強化が重要となります。一方で、地方公共団体の下水道職員はピーク時から約4割減少しており、とりわけ、小規模自治体では、処理区域内人口が5万人未満の自治体の平均職員数が約5名となっているなど、小規模自治体では、単独での下水道管理が困難となりつつあります(図2)。
これを踏まえ、改正法では、国が下水道の基盤強化等に関する基本方針を策定し、下水道管理者間の広域連携、人材の確保・育成、先端技術の活用等の事項を定めることとしています。
②広域連携の推進
広域連携は、下水道管理者間の合意により実施されますが、広域自治体である都道府県が、国の基本方針に基づいて広域連携推進計画を作成する制度を創設することとしました。これにより、都道府県が中心となって下水道管理者間の広域連携を調整し、円滑な広域連携の実施につなげることを意図しています。
また、多様な手法による広域連携を可能とするため、本来は市町村が管理する公共下水道を都道府県が管理できる特例を創設し、例えば、流域下水道を管理する都道府県と公共下水道を管理する市町村が一つの一部事務組合等を組織して両下水道を一体的に管理・運営することを可能にしました。さらに、大都市等の中核的な都市が中小都市と連携するに当たって柔軟な手法を確保するため、下水道管理者間の協議により他の自治体の管理を代行できる制度を創設することとしました。
加えて、災害・事故時には、都道府県が市町村に代わって公共下水道の復旧工事を実施できる制度を創設することとしました。また、災害・事故時にはさまざまな関係者が連携・協力して復旧に当たることの責務を明確化することとしました。
③下水道使用料算定の考え方の明確化
適切な時期に必要な改築等を行うためには、計画的な財政基盤の強化が必要となります。このため、改正法においては、下水道使用料の原則において、将来の改築のための資金(資産維持費)を計上することができることを明確化しました。
また、これまで法令で定めていなかった下水道使用料を定めるに当たっての技術的細目について、今後省令で定めることとし、使用料算定の考え方を明確化することとしています。
④下水道区域の見直し
これまで、汚水処理施設の未整備区域では、「都道府県構想」において、下水道、農業集落排水施設、浄化槽の各施設の特性や経済性等を考慮し、最適な施設を選択して整備を進めてきました。ところが、人口減少による人口密度の低下に伴い、下水道をすでに整備した区域において、下水道よりも浄化槽の方が経済上合理的である等の判断により、下水道区域を縮小し、浄化槽に転換することの検討を始めている市町村が出てきています。
一方で、これまでの下水道法は整備・拡大が主眼に置かれてきたことから、既整備区域の廃止・縮小に係る手続が明確に規定されていませんでした。このため、改正法において、公共下水道管理者が既整備の下水道区域を廃止・縮小する際の手続を明確化しました。
3 おわりに
今回の改正は、公布から6カ月以内(来年1月頃)に施行することを予定しています。
強靱で持続可能な下水道の実現に向けては、制度を踏まえた関係者による着実かつ総合的な取り組みが重要となります。円滑な施行・運用が図られるよう、国土交通省としても、引き続き、地方公共団体との意見交換や検討会での議論を深め、制度内容の検討を進めてまいります。