東風西風とうふうせいふう
故・ジャニー喜多川氏による性加害の報道で炎上する国内有数の芸能プロダクション「ジャニーズ事務所」。7日に開かれた記者会見で現社長の交代劇にまで及んだが、疑惑の要因とされる社内風土の一新へ対策の実効性が懸念され、なお鎮火のめどは立っていない。複雑にしているのはある程度の時間の中で一方が故人になり、具体的証拠がもはや失われていることだ。訴えられる被害の反面で、加害の有様を厳密に突き止めることが難しい。被害者のためにも配慮ある究明が待たれるが、今は亡き不在の当事者が真相の扉を閉ざしたまま永遠に黙す姿に往時の既視感を消せない▼昭和を代表するスターは数えきれないほどのスキャンダルの火種を残していった。近くで歴代最長を更新した空前の総理経験者、故・安倍晋三氏は、実績と並ぶ重大な疑惑の扉を閉ざし鬼籍に入った。鮮明な光源ほど直視をいとい濃い陰を落とすように、存命中には直言をはばかられる巨大な個性がある▼地球環境問題はいまだない不在の当事者との対話だ。押し黙る未来の被害者を前に加害を自覚する我々楽天的な現代人がいる。全ての扉を開くカギは彼らが声を発し、なにがしか語り掛けてくれることなのだが、命の再生も時間旅行もまだ当面は叶わない。(潤)