東風西風 とうふうせいふう
円の中心は点だ。伊藤信太郎環境大臣が就任直後、この年初にも「同心円」の環境意識を提唱ししばらく経とうとしている。国民一人ひとりを不動の中心点に、その行動変容が地域や国家、経済・社会のあり方と、地球全体の未来へ、マルチスケールで広がっていくという構想を描かれた。かつて環境思想が人間のエゴセントリズム(自己中心)からエコセントリズム(環境中心)へと脱却するべく主張したのと真逆に、さらなる意味で人々の意識に力強く軸を置き直した労作は令和の人文復興の様相を呈する▼円は人のイメージをくすぐる。国旗も丸い。土俵も丸い。月や太陽は円の形に充実するし、古伝の武術は直線的な動作と比べ円の優越を多少、神秘的に説く。レオナルド・ダ・ヴィンチが古代の建築家ウィトルウィウスの著述を元に素描した人体は裸形の備えたプロポーションを円周に乗せる。文物の媒体が人の移動に他ならなかった時代、言葉と文化は中心都市から円を描いて伝播していった。円は全てが中心と等距離ですみというものがない。全てを包み込む▼円の理念を実現した世界は調和と包摂で深くつながり、よりよく充実しているだろうか。満月のように満ち足り繁栄していると願おう。円の観念が結ぶ縁を大切にしたい。(潤)