2023年我が社の環境ビジネス戦略 アクトリー 代表取締役社長 水越 裕治 氏
――昨年を振り返って。
材料費の高騰が凄まじかった。各種部品からペンキに至るまで、ありとあらゆるものが値上がりし、中には3~4割上がるものまであり、今受注すると顧客に迷惑をかけてしまうのではと躊躇するほどだった。調達も厳しく、納期が半年、1年延びるなど工事も難航している。最も困ったのは修理用部品の調達遅れで、別工事に用意したものを先に回すなどのやりくりで何とかクリアしている状態だ。
目標の150億円は突破する見込みだが、さらなる上積みはまだ読めない。売り上げは全て産業廃棄物関連で、一般廃棄物分野の新規契約は進んでいない。実績が重要視される難しい市場だが、引き続き一生懸命に営業活動を行っていきたい。
――脱炭素化に向けては。
新規の受注が一部足踏みしているのは、「脱炭素化」も大きく関係している。CO2を出さない廃棄物処理、例えばケミカル処理なども将来的には考えられるが、現状ではやはり「焼却」がベスト。そこに脱炭素化を取り入れるには、焼却で得る高熱・高圧の蒸気でタービンを回す「ごみ発電」を行うことが最善だ。顧客は脱炭素化について必死で考えておられ、CO2削減に貢献する発電を行いたいとの思いを強く持たれている。しかし、せっかく発電しようとしても、送電網の容量が足りず、系統連系できなかったり、発電量を抑えなければならなかったりという問題が生じている。また、木質バイオマス発電に比べ売電価格が安い。
廃棄物からエネルギーを生み出すごみ発電による電気は、もはやグリーンエネルギーと呼べるのではないか。太陽光や風力のように天候に左右されることなく、24時間毎日、安定的に発電できる。発電の単位も千キロワット2千キロワットと大きく頼りになる。だが現実は、他の再生可能エネルギーに比べて不遇すぎる。
ごみ発電するためには、費用対効果を上げるため処理能力を上げる必要があり、200トン、250トンと施設の大型化が進んで建設費用は膨大になる。環境省の補助金を受ければ採算性も出てくるが、その予算には限りあり、発電を取り入れた全ての事業者に行きわたるものではない。「ごみ発電のための投資をしたいが回収のめどが立たない」「脱炭素に寄与したいが赤字では困る」とのジレンマで更新計画をストップしている顧客が3件ほどあるほか、処理費用で賄える従来通りの「単純焼却」にせざるを得ないと、脱炭素化を諦める方向性も出てきている。
グリーンエネルギーについての議論ができておらず、確実なバイオマスであるごみ発電に対する政策がないことを残念に思う。廃棄物処理業界には「脱炭素」という崇高な目標に取り組む意思がある。FIT制度のような、適正価格で確実に買い取ってもらえる仕組みが整うことを願う。
――その他の事業や研究の進捗は。
将来起こり得る人類の食糧危機に向けて、京都大学、国際農林水産業研究センター(JIRCAS)、石川県立大学と共同研究を進めているスーパーフード「キヌア」については、その機能性の裏付けを行い、付加価値をアップして売り出したいと考えている。乳酸菌を加えた甘酒などの製品は完成しているが、効果効能についてさらなる研究を進めるとともに生産体制を整えているところだ。
成長が期待される水素の研究・開発は、東京大学先端科学技術研究センターと共に継続して行っており、CO2回収技術の開発についても金沢大学と産学連携の包括的連携に関する協定を結び、共同研究を始めたが、いずれも簡単には進まない。焼却炉と脱炭素、循環とコストなどに考慮し、産業廃棄物焼却炉のトップメーカーとして将来を見据えた研究を引き続き行っていく。
――今年の抱負と課題は。
脱炭素化に向けて我々がすべきことは、ごみ発電における熱回収率を上げる仕組みや設備の開発だ。例えば、ボイラーのエネルギーロスをなくすために焼却炉本体をボイラー化するとか、得られる温水を有効利用して無駄にしないとか。エネルギー効率を上げることは、プラントメーカーに課せられた命題だ。焼却炉の処理能力を上げるとともに、熱回収効率を30~50%に引き上げることができるよう研究を進める。
また、ごみ発電によるエネルギーを自社の別事業で活用するという新しいビジネスモデルの提案も必要だろう。以前に地方のための経済圏構想として「エコビレッジ構想」を掲げたが、昨今は廃棄物処理施設の許可が工業団地などでないと下りにくい。工業団地では農業ができない。八方ふさがりの状況だが、新しい技術や事業デザインを開発して、お客様に勝ち残っていただける提案ができるよう、知恵を絞っていきたい。