サステナブルな人の探求~武蔵野インタビュー 第12回 小山田 大和 さん(小田原かなごてファーム代表) 聞き手 伊藤 佑真(武武蔵野大学3年生) ソーラーシェアリングが育む地域自立 「必要だからやる」

この連載では武蔵野大学サステナビリティ学科(2023年4月設置)の学生・院生、OBOG、教員がサステナブルな社会づくりの実践を担っている人にインタビューを行い、目指していきたい社会や仕事、暮らしのあり方を探求していきます。

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必要だと思ったから

小山田さんは、神奈川県小田原市で、農業と自然エネルギーをかけ合わせた「ソーラーシェアリング」に取り組んでいる。

「やりたかったことじゃない。必要だと思ったからやったんです」

地域の課題にまっすぐ向き合うその眼差しに、私は強く心を動かされた。

小山田さんが自然エネルギーに関心を持ったきっかけは、2011年の東日本大震災と福島第1原子力発電所の事故だった。当時は郵便局で働いていたが、自分のやりたいこととは少し距離がある日々だったという。事故を経て「再生可能エネルギーで生きていく道があるかもしれない」という希望が芽生えた。ちょうどその頃、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が始まったことも大きかった。

また、小田原で地域との関わりを深める中で、「地域を支えているのは何か?」という問いと向き合う機会があった。そこで気づいたのが、第1次産業、特に農業の重要性だった。

「農業を全然知らなかった。でも、誰かがやらなきゃ始まらないし、必要だと思ったからやったんです」

農業と自然エネルギーの両立。そうして、小山田さんのソーラーシェアリングの挑戦が始まった。

立ちはだかる壁を越えて

農地に太陽光パネルを設置する「ソーラーシェアリング」は、当初から地域に歓迎されたわけではなかった。

「景観が悪くなるとか、『なんでうちの隣なんだ』って声が多かったですね。パネルの下で本当に農業ができるのか?って、大多数の人は信じてくれなかったんです」

さらに、農地としての認可を受けるには農作物の収量が一定以上必要とされるなど、制度の壁も高い。そうした中で小山田さんが問いかけたのは、「良い農業とは何か」「良いソーラーシェアリングとは何か」という根本的な視点だった。

「〝持続可能な農業〟って言うけど、ただ収量の多さを追いかける時代はもう終わってると思う。質や環境負荷も含めて考えていく必要があるはずです」

地域との軋轢や制度の矛盾を前にしながらも、小山田さんは立ち止まらなかった。「やりたいからやる」ではなく「必要だからやる」。その思いが、少しずつ理解者や仲間を引き寄せていった。

地域経済を回すことが本当の意味での自立

「地域の中でお金を回すってことが、すごく大事なんです。お金の話って敬遠されがちだけど、地域経済が回らなかったら何も続かない」

小山田さんがそう語る背景には、「地域が本当の意味で自立するにはどうすればよいか?」という問いがある。再生可能エネルギーで得た収益を地域のプロジェクトに再投資する、農業によって地元の雇用や教育の場を生み出すなど、単なる経済活動ではなく、地域の〝生きる力〟を育む循環をつくろうとしている。

地元の資源を使って価値を生み、それを外からではなく地域の中で消費する。その経済循環こそが、地域の持続可能性を支えると考えている。農業・自然エネルギー・地域経済をバラバラに考えるのではなく、つながりをつくり地域を育てる仕組みとして捉えているのだ。

社会を変えるのは若い人─「推譲」から行動へ

インタビューの中で、私が特に心に残ったのは「推譲(すいじょう)」という言葉だった。推譲とは「利益が出たらそれを広く社会のために還元すべき」という「譲っていくこと」の精神、つまり利他の精神に通じるものとして理解される。

「〝誰かがやってくれたらいいな〟って思ってる人は多い。でもそれって、誰かの推譲の精神なんですよ。誰かが社会を良くしてくれるだろうって他人に委ねている。それじゃ社会は変わらないんです」

この言葉には、自分自身の考えと重なる部分が多く、深く腑に落ちた。私たちは、つい誰かに任せてしまいがちだ。でも、本当に必要なことは、自分が一歩を踏み出すことだ。小山田さんにとって、農業は野菜をつくることだけではない。

「農業やってるって言うと、野菜作ってるの?って聞かれる。実は〝人づくり〟をしてるんです。やってみたいっていう人が、実践できる場所をつくりたい」

若い人たちに向けて、「社会を変えていくのは若い人。だからこそ、諦めないでほしい」と語る小山田さんの言葉には、地域に根ざして生きてきた人の重みと説得力があった。

「必要だからやる」から生まれる未来

小山田さんの姿から、「必要だからやる」という生き方の力強さを感じた。地域課題の解決や社会変革は、誰か〝特別な人〟がやることではない。自分の目の前にある「必要なこと」に向き合うこと、その積み重ねこそが未来をつくっていく。私も将来のビジョンとして「社会課題を解決し、未来に希望を残す」を掲げている。このビジョンに向けて、小さくても一歩を踏み出せる人でありたい。

サステナブルな人の探求~武蔵野インタビュー 第12回 小山田 大和 さん(小田原かなごてファーム代表) 聞き手 伊藤 佑真(武武蔵野大学3年生) ソーラーシェアリングが育む地域自立 「必要だからやる」_聞き手 伊藤 佑真(武蔵野大学3年生)
聞き手 伊藤 佑真(武蔵野大学3年生)

サステナブルな人の探求~武蔵野インタビュー 第12回 小山田 大和 さん(小田原かなごてファーム代表) 聞き手 伊藤 佑真(武武蔵野大学3年生) ソーラーシェアリングが育む地域自立 「必要だからやる」_小山田 大和 さん(小田原かなごてファーム代表)
小山田 大和 さん(小田原かなごてファーム代表)