廃棄物処理業者が生き残るための脱炭素経営(28) 国際イニシアチブへの参画Ⅱ 気候変動対策で中小企業の参加を促進するのは重要
中小企業(SME)向けのScience Based Targets(SBT)制度は、中小企業が直面する特有の課題やリソースの制約を考慮し、彼らが気候変動への取り組みにおいて実質的な役割を果たせるよう支援することが目的である。中小企業は世界経済において重要な役割を担っており、全企業の大多数を占める。そのため、気候変動対策において中小企業の積極的な参加を促進することは重要である。
中小企業版SBTの制度変更の背景
中小企業は資金調達の難しさ、専門知識の不足、リソースの制約など、気候変動対策の目標設定や実行に際して特有の課題を抱えている。SBTiはこれらの課題を認識し、中小企業が科学に基づいた目標を設定しやすくするために制度の見直しを行った。この見直しにより、中小企業向けSBTの対象企業となる条件が従来よりも細かく設定された。制度変更の背景には、世界的に増大する気候変動への対応の緊急性がある。より多くの中小企業がSBTiに参加しやすくし、彼らが設定する科学に基づいた目標が現在の気候科学の最新の知見と一致するようにすることが目標である。
2024年1月の改訂により、中小企業の定義が更新され、SBTの取得条件が変更された。新基準では、Scope1およびScope2の排出量が1万トンCO2未満であること、金融機関および石油・ガスセクターに分類されないこと、通常版SBT認定を取得している企業の子会社ではないことなどが挙げられている。さらに、森林、土地、農業(FLAG:Forest、Land and Agriculture)部門に分類されていないことが求められる。また、従業員数が250人未満、売上高が5千万ユーロ未満、純資産が2500万ユーロ未満の企業が対象となる。
改訂による影響として、一部の企業は中小企業版SBTから通常版SBTへの移行が必要になる可能性があるが、これにより企業はより積極的な気候変動対策に取り組むことが期待される。SBT認定を取得するメリットとして、企業の環境に対する真摯な取り組みを対外的に示せ、これが顧客の獲得や投資家からの評価につながる可能性がある。また、エネルギー使用効率の向上や再生可能エネルギーへの切り替えにより運用コストの削減にも寄与する。
SBTネットゼロについて
SBTネットゼロは、企業が科学に基づいて温室効果ガス削減目標を設定し、それを達成することを目指すものである。この認定は、気候変動に対する国際的な取り組みの一環としてSBTイニシアチブによって開発された。SBTネットゼロ認定の目的は、世界の平均気温上昇を1・5℃に抑えるために必要な温室効果ガスの削減量を企業が目標として設定し、それを達成することである。これには、企業の直接的な排出(スコープ1と2)だけでなく、サプライチェーンや製品の使用から生じる間接的な排出(スコープ3)も含まれる。SBTイニシアチブは、企業が設定した目標が1・5℃の温暖化抑制に貢献するものであるかを評価し、認定を与える。
SBTネットゼロ認定を取得することのメリットは、企業が気候変動対策に積極的であることを外部に示せる点にある。これにより、投資家や消費者からの信頼を得やすくなり、ビジネス上の機会を拡大できる。また、認定を通じて、企業は自社の温室効果ガス排出削減の取り組みを国際的な基準に沿って進めることができ、持続可能な経営を実現するための一歩となる。
SBTネットゼロ認定の取得には、企業が短中期でスコープ1と2の合計を年率4・2%、スコープ3は年率2・5%の総量による削減を求められる。さらに、2050年までにはバリューチェーン全体で90%の削減を達成し、残る10%の排出量については、なんらかの方法を用いてゼロにする必要がある。
しかし、SBTネットゼロ認定の基準は厳しく、自社のバリューチェーン外での削減分、つまり他社で行う省エネや再生可能エネルギーの導入、一部の森林経営で得られるクレジットは目標達成には使えない。
カーボンフリーコンサルティング代表取締役 中西 武志