確かな下水道をいつまでも(その2) 維持管理業務に包括的管理委託導入 W―PPPはレベル3.5目指し取り組み 大阪市建設局下水道部 施設管理課担当係長 藤本 博己 大阪市建設局下水道部 施設管理課担当
1 はじめに
大阪市建設局(以下、本市)では、下水道事業の持続性確保と都市成長戦略に資するため、「大阪市下水道事業の経営計画~基本方針と実施計画~」(案)を2012年11月に策定し、下水道事業運営に民間原理を取り込む「上下分離方式の導入」による経営形態の見直しを進めてきた。
16年7月に本市100%出資の新会社「クリアウォーターOSAKA株式会社」(以下、CWO)を設立した。新会社への技術継承の観点から、維持管理部門に属する市職員の転籍を16年度末に行い人材確保を行った後、17年度より、CWO委託期間を5カ年(17年度~21年度)とする下水道施設の維持管理業務の包括委託を契約した。
22年1月には、CWOとの20年(22~41年度)の「大阪市下水道施設包括的管理業務委託」の契約を締結した。
現在、CWOにおいては、さらなる維持管理の効率化やコスト縮減を目標に、民間事業者との連携を強化し、民間の新技術導入等、積極的に取り組んでいる。
2 下水道施設の概要
本市では1894(明治27)年より下水道事業に着手し、下水道施設の整備を実施したことにより、老朽化した施設を多く抱えている。また、高度経済成長期の急速な普及促進期に整備した多くの施設の老朽化が進み、今後、改築更新を必要とする施設数のピークを迎えることとなる。
25年3月末時点で大阪市内には4993キロメートルの管きょ、59カ所の抽水所、12カ所の下水処理場、下水汚泥の処理施設であるスラッジセンターがある。
管きょ施設は、標準耐用年数である50年を経過したものが約半数存在している。また、下水処理場・抽水所には、約4600装置の機械・電気設備があり、設置後20年を経過した施設は、全体の約半数(約2500装置)となっている。
3 下水道施設包括的管理業務
(1)対象施設や業務内容
大阪市の下水道の仕組みおよび現在の運営形態の概要は、図のとおりである。
現契約の包括委託(以下、現包括)においては、管路、処理場・抽水所の下水道施設における維持管理業務が対象とされ、主な業務内容は、計画的業務・問題解決業務・運転維持管理業務があり、具体的には、次のとおりである(表1)。
(2)包括委託の状況
現包括においては、要求水準や評価基準を定めた性能発注方式によるものである。各種業務に要する目安の業務量を示しているものの、業務量の決定については、受注者の裁量に委ねられるものであり、ユーティリティ費や材料費等、一部精算を要するものはあるものの、基本的には精算を要しない契約となっている。
また、現包括は、17年度から5年間の包括委託での課題として、「人材確保、技術力の向上」「民間事業者との連携促進」「技術開発の期間の確保」に課題があったことから、20年間の長期契約とすることで、中長期的な視点に立った人材育成による技術力の向上が見込まれること、民間事業者との連携による技術開発も十分な期間をもって取り組むことで促進され、将来にわたる安定した事業の継続につながると見込まれる契約に変更した。
20年間の長期契約で約320億円のコスト縮減を見込んでいる。効果内容としては、多様な雇用形態の活用で約220億円、多様な雇用形態の活用等の拡大で約80億円、新技術導入等により約20億円の削減を見込んでいる。
(3)業務評価の方法や結果
本業務の履行において、下水道管理者である大阪市として、市民に提供すべきサービス(公衆衛生の向上、浸水の防除、水環境の保全)を継続的に維持するために、受注者に対し、要求水準および評価基準を規定している。受注者は、その規定する基準を遵守するために、管理目標(自主管理基準)を定め、適切な維持管理手法を検討し、適切かつ効率的な維持管理に努めている。また、本業務においては、毎年度、本市下水道施設の維持管理について議論することを目的に外部有識者による「大阪市下水道施設維持管理審議会」を開催している。なお、要求水準、評価基準およびモニタリング結果(23年度)は、次のとおりである(表2、3)
(4)段階的なウォーターPPPの拡大に向けた取り組み
現包括は、市内一円の管路、処理場・抽水所施設の維持管理から修繕計画作成・実施までを含む包括委託レベル3を実施している。
ウォーターPPP(以下、W―PPP)導入には、①長期契約②性能評価③維持管理と更新の一体マネジメント④プロフィットシェアの4要件を充足する必要がある。
本市では、段階的なW―PPPの拡大に向けた取り組みとして、W―PPPの要件である「③維持管理と更新の一体マネジメント」を満たすため、管路および処理場・抽水所の機械・電気設備改築更新実施計画案作成業務を、25年度に現包括に契約変更して追加することにより、更新支援型によるレベル3・5を目指し取り組んでいる。また、大阪市における民間の業務領域拡大に向けた官民連携方式の検討に資することを目的として、将来のコンセッション方式等を見据え25、26年度にコンストラクションマネジメント(CM)の調査検討を実施する予定である(表4)。
(5)新たな課題
現包括では、より良い業務品質の確保および向上を図るため、基本的に5年ごとに業務委託条件に関する見直しの検討を行う。業務履行実績評価(契約後3年間:22~24年度分)とともに、業務期間内における技術革新や制度改正等の社会情勢の変動に柔軟に対応すること、また新技術導入等に伴うコスト削減効果の評価を実施すること等に対応する。
4 おわりに
下水道施設の維持管理業務の包括委託について、CWOによる業務の履行状況を適切にモニタリングするとともに、CWOと民間事業者との連携により、さらなる民間活用拡大に向けた取り組みを進める。