リスク社会と地域づくり(21) 岩手大学農学部教授 山本 信次 元岩手大学農学部 小野 滉翔
原発事故後の岩手県内しいたけ原木流通の変化にみる「視えない被害」
食品が安全≠被害がない
東日本大震災・福島第1原子力発電所の事故からまもなく13年、これらの災害が人々の口の端にのぼることも少なくなった。それでも忘れてもらっては困る事柄は数多い。原発事故直後、首都圏の水道や食品から次々と放射性物質が検出され、注目を集めた。特に被災地である東北産の食品に対しては厳しい目が向けられ、小売店の食品棚から東北産の食品が撤去されることもあった。そうした混乱を経て、現在市場に流通する東北産の農林産物は、放射性物質を移行させないための科学的知見に基づくさまざまな生産者の努力と厳しい検査によって高い安全性が確保されている。これは生産者、流通関係者、行政、研究者といった多様な人々の尽力と協働によってもたらされたものであり、素晴らしい成果である。全国の消費者の皆様には安心して、おいしい東北産の農林産物を楽しんでいただきたい。と、ここまでであれば「めでたしめでたし」なわけだが、残念ながら事態はそう単純ではない。「食品が安全であること」は消費者にとって被害がないことを意味するけれど、そのことは生産地である被災地のムラや自然に被害がないこと意味するものではない。むしろ現代社会の多数派である都市部の消費者が被害を感じないことにより、被災地や生産者が被り続けている被害が不可視化されることが大きな問題である。本稿ではそうした「視えない被害」の一端を紹介したい。
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