環境法のうらよみ(4) 総合判断説の裏側 総合規制説に転換すれば、混乱は収束する

平成25年3月29付け環境省産業廃棄物課長通知「行政処分指針について」には、「廃棄物とは、占有者が自ら利用し、又は他人に有償で譲渡することができないために不要となったものをいい、これらに該当するか否かは、①その物の性状、②排出の状況、③通常の取扱い形態、④取引価値の有無及び⑤占有者の意思等を総合的に勘案して判断すべきものであること。」と、廃棄物該当性の総合判断説が示されている。5つの要件のうち客観性を欠く⑤は除外するとして、①から③までで再生利用の流れが一般的なものとして定着していれば、④が有償売却であればもちろん、逆有償処理であっても、廃棄物該当性が否定されるという総合判断がありうることになるのだが、通説として受け入れがたい矛盾をはらんでいる。

総合判断説は、いわゆる「おから事件」(平成11年3月10日最高裁判所第二小法廷決定)から来ている。この裁決は下級審に影響を与え、「水戸木くず事件」(平成16年1月26日水戸地方裁判所判決)では、木くずが廃棄物ではないという誤判の疑義の強い判決を招来し、再審判決(平成20年4月24日及び同年5月19日東京高裁判決)では廃棄物であると修正されている。

おから事件の広島高裁の原審判決は1996年であり、最高裁は1993年に改正される前の廃棄物処理法施行令第二条第四号についての解釈として判示しているので、1997年に法第一条が改正され、法の目的の中に「再生」が追記された事情を考慮していないことになる。さらに、廃棄物再生事業者登録の規定(第二十条の二)は、おから事件より前の1991年の法改正で設けられている。これらの法改正の意味を最高裁がどこまで考慮したかは不明であるが、おから事件判決に既判力を持たせ続けてよいのかは、第二条だけではなく、法全体の改正経緯に沿って慎重に検討しなければならない。

総合判断説にはさらに大きな見落としがある。それは1970年の法制定時からある「専ら物」に関する規定(第七条第一項、同第六項、第十四条第一項、同第六項)である。これは専ら再生利用の目的となる一般廃棄物、産業廃棄物の収集運搬、処分についての業許可の特例規定であるが、総合判断説によれば、そもそも専ら物の廃棄物該当性は否定される可能性が高く、専ら物の特例規定は無意味なものになってしまう。

さらに容器包装、家電、小型家電、食品、自動車の各リサイクル法、プラ資源循環促進法にも、専ら物と同様の業許可の特例規定がある。いわば個別リサイクル法とは、専ら物拡張法なのである。しかし総合判断説によれば、個別リサイクル法の対象物の廃棄物該当性も否定されるだろう。たとえば、食品廃棄物の再生利用事業者の中に、そもそも再生利用だから廃棄物処理業ではないという解釈が容認されている業者を見受けるが、それならわざわざ登録再生利用事業者に業許可の特例規定を設ける必要もないことになる。

以上の3つの矛盾、改正法第一条との矛盾、専ら物の特例規定や廃棄物再生事業者の規定との矛盾、個別リサイクル法による特例規定との矛盾がある総合判断説が、通達、学説のいずれでも通説とされ続けているのは、最判規範説による思考停止としか言いようがない。

2000年に公布された循環基本法の第二条は、「廃棄物等」を「廃棄物」と「等」に分解して定義しており、廃棄物は法第二条の不要物の定義が引用され、等は使用済又は未使用で収集、廃棄された物品及び産業活動の副産物とされている。等は廃棄物ではないと解すると、総合判断説とは別の観点の新たな法第二条の解釈が追加されたことになる。

プラ資源循環促進法でも、廃棄物と等の分解定義が採用されているが、循環基本法とは異なり、廃棄された使用済プラ使用製品は廃棄物になり、副産物だけが等になる。この時、使用済プラ使用製品を廃棄物排出量にカウントするかどうかは、廃棄物処理法第二条、すなわち総合判断説によることになるが、副産物は専ら再生利用されようと、有償売却されようと、必ず排出量にカウントされることになる。このように廃棄物と等の分解定義と総合判断説の組み合わせを解釈すると、プラ資源循環促進法の規制対象にいびつな穴を空けてしまうことになる。

総合判断説は、あらゆる状況を検討したかの網羅性を期したがゆえに、かえって問題を必要以上に複雑なものにしてしまっている。

もっと単純な字義に立ち返って、法第二条の「不要物」は、「本来の用途が不要になったもの」と解せばいいだけなのであり、再生利用という新たな用途があるから不要物にならないという脱法的な意見にまともに取り合ったことが、無用の混乱の始まりなのである。

製品または部品の本来の用途で再使用される古物を除き、専ら再生利用されるものであろうと、有償売却されるものであろうと、本来の用途が不要になって廃棄されたものは廃棄物として規制するのが廃棄物処理法の趣旨であると明言し、総合判断説を総合規制説に転換すれば、混乱は収束するだろう。

 iメソッドフォーラム 石渡 正佳

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