地球を見つめ直す(23) 科学・環境ジャーナリスト 横山裕道 「AIの軍事利用拒否」の波紋
世界の戦場では軍事用のドローン(無人航空機)が飛び交い、人工知能(AI)とドローンを組み合わせた自律型致死兵器と呼ばれる新たな兵器も登場しつつある。これに対し、「AIを軍事に使わせない」と主張するAI企業が米国に現れ、波紋を広げている。
米アンソロピック社
戦場の自動化・無人化は進み、戦争の形態は大きく変わろうとしている。火薬、核兵器に続く「第3の軍事革命」といわれるが、味方の人的被害が小さければ、安易に相手国を攻撃しかねない。AIがいかに高度化しても、人間と違って判断を誤ったり、暴走してしまう可能性がある。
AI兵器登場を警戒する声は以前からあり、2017年から特定通常兵器使用禁止制限条約の枠組みで乱用を防ぐための規制の協議が加盟国間で始まった。19年にはAI兵器について「国連人道法を適用する」「人間が使用の責任を負う」などの運用指針ができたが、規制は難航していた。
大きな一石を投じたのは米国で2021年に創業され、生成AIの「クロード」を提供するアンソロピック。同社は昨年夏から米軍にAIの提供を始めたが、AIが人々の大規模な監視や自律型致死兵器に使われることを懸念し、独自の倫理基準をもとに厳しい制限を付けた。だが、今年に入って国防総省はベネズエラやイラン攻撃でクロードを使ったと報じられた。
アンソロピックの抗議に対し同省は「合法的な利用だ」とし、逆にAIの軍事利用への制限を撤廃するよう同社に圧力をかけた。これに最高経営責任者(CEO)のダリオ・アモデイ氏は「我々は良心に照らして、要求に応じない」と拒否声明を出し、交渉は決裂した。
AIは平和のために
この後、トランプ政権が取った報復措置はすさまじかった。トランプ大統領自らが「左翼狂信者の破滅的な過ち」とアンソロピックを罵倒。同社は連邦政府機関との全ての取引を打ち切られ、国家安全保障を脅かす「供給網上のリスク」にも指定された。
代わって政府御用達となったのは生成AI「チャットGPT」で知られるオープンAI。実はアモデイ氏はオープンAIの研究者だったが、AIの安全性に関する考え方の違いから独立した。
米政権による措置の差し止めを求めてアンソロピックはサンフランシスコの連邦地裁に提訴した。米国内にはアンソロピック擁護の声が強く、オープンAIを軍事利用に甘い企業とみてチャットGPTからクロードに乗り換える人が増えた。グーグルやオープンAIなどにもアンソロピックとの連帯を訴える社員が少なくない。そして同地裁は3月末、政権の措置の差し止め命令を出した。
国際法を無視するトランプ政権の登場で世界の戦争・紛争はさらに増えそうだ。地球の大きな危機である。AI兵器の利用が進めば、民間人の犠牲者が増えることも懸念される。人間を超えそうなAIは平和のために使うべきだ。アンソロピックの勇気ある行動を大きな輪にしたい。