SX時代の企業経営―ポストSDGsを探る―(8) ポストSDGs:日本文化の強み
国際的成功と文化の懸け橋―真田広之『SHOGUN 将軍』
エンターテインメントは、単なる娯楽を超えて文化交流や地域の活性化に大きな影響を与える力を持っている。筆者は映画やドラマを通じて、その影響力を実感してきたが、その中でも真田広之が主演およびプロデュースを務めたドラマシリーズ『SHOGUN 将軍』の成功は特筆すべき例である。
真田広之が主演を務めるこの作品は、2024年の第76回エミー賞で史上最多の18部門を受賞し、日本人俳優および制作スタッフが主要な部門で多くの賞を受賞した。この歴史的な快挙は、日本のエンターテインメントが世界的に評価されるだけでなく、国際舞台における日本の存在感を一層高めるものであった。
『SHOGUN 将軍』の成功は、日本人の国際的な影響力をさらに拡大させる道を切り開いたと言える。このような国際的な評価は、日本の文化的アイデンティティが世界に認められ、相互理解を促進する重要な手段となる。
ジブリの成功と地域振興―『君たちはどう生きるか』と三鷹市
スタジオジブリのアニメ『君たちはどう生きるか』がアカデミー賞を受賞したことも、エンターテインメントが地域社会に与える影響力を示す重要な例である。スタジオジブリは日本国内のみならず、国際的にも高い評価を得ているが、今回の受賞はスタジオジブリ記念館が位置する東京都三鷹市にも大きな影響を及ぼした。アカデミー賞の受賞は、ジブリ記念館への訪問者増加をもたらし、観光収入の増加や文化交流の促進につながっている。
このような観光収入の増加は、SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」に直結する。また、ジブリ記念館は単なる観光施設にとどまらず、教育的なプログラムも展開しており、子どもたちや若者に対して環境保護や持続可能な生活様式について学ぶ機会を提供している。これにより、地域社会全体でSDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」や目標12「つくる責任つかう責任」に貢献する取り組みが推進されている。
さらに、三鷹市とスタジオジブリは、地域振興を図るための連携を強めており、ジブリ記念館を通じた観光促進のみならず、地域の文化や歴史を守りながら持続可能な発展を目指す姿勢を示している。これにより、観光と地域社会の双方が利益を享受し、長期的な発展が期待される。『君たちはどう生きるか』の成功は、エンターテインメントが地域振興にどのように寄与し得るかの具体的なモデルを提供している。
映画と地域のつながり―寅さんと葛飾区の持続可能な発展
もう一つの興味深い事例は、映画『男はつらいよ』シリーズとその舞台である東京都葛飾区柴又に見られる。『男はつらいよ』の主人公、寅さんは長年にわたり日本全国で愛されてきたキャラクターであり、その影響は広範囲に及んでいる。寅さんの物語は、彼が旅する各地の魅力を全国に伝え、多くの人々をその地域に引き寄せることで、観光業の活性化に貢献している。特に寅さんの故郷である柴又では、このキャラクターを活用した地域活性化が長年にわたって進められており、地元の経済発展や観光促進に大きな役割を果たしてきた。
映画をきっかけにした観光収入の増加は、葛飾区が持続的な地域発展を目指す一環として行っている取り組みの一部である。特に、寅さんをテーマにした「寅さんサミット」などのイベントが地域内外から多くの観光客を集め、地域の経済を支えている。このような活動は、SDGsの目標11「持続可能な都市とコミュニティを実現する」や目標9「産業と技術革新の基盤をつくる」と密接に関連しており、持続可能な地域発展の具体的な事例として位置付けられている。
さらに、映画やイベントが終わった後の「祭りの後」の寂しさを防ぐためにも、地域は継続的な発展の仕組みを整える必要がある。寅さん記念館を中心とした文化施設や、地域の食文化、芸術を活用することで、葛飾区は観光資源を持続的に生かしながら、住民や訪問者に持続可能な開発の重要性を伝える場を提供している。これにより、地域コミュニティの強化や教育の充実が進められており、SDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」にも寄与している。
これらの事例から分かるように、エンターテインメントは地域の文化や経済の発展に強力な影響を与え、SDGsの達成に貢献する重要な要素である。これらの作品が創り出す文化的価値は、持続可能な未来への道を切り開き、ポストSDGsとして、日本、地域全体の活力を高めるための鍵となっているのである。
千葉商科大学客員教授 経営コンサルタント 笹谷秀光