特別座談会 愛媛・西条から環境を考える
ユニークな起業家たちがさまざまな取り組みで地域の課題解決へ挑戦
【出席者】
エンタープライズ山要代表取締役 山口玉緒氏
ZENTECH代表取締役 鈴木直之氏
スパイス料理研究家、やまのカレー店主 高瀬媛子氏
Hinel代表 山中裕加氏
〈司会〉
環境新聞編集部 黒岩修
「うちぬき」と呼ばれる地下水が名水百選に選ばれるなど、自然豊かな愛媛県西条市。2019年からは「地域おこし協力隊制度」をスタートさせ企業の誘致なども積極的に行っている。そんな西条市に集まった起業家3人と、石鎚神社を通じて西条市と縁が深いエンタープライズ山要の山口玉緒代表取締役。それぞれ出身も違うが西条市で不思議な縁で繋がれた4人に、環境のこと、西条市のことについて語り合ってもらった。
平野部の生活や産業も山に支えられている
――自己紹介を。
高瀬 私は4年前に東京から西条市に移住してきました。東京ではモデルや料理研究家として活動していましたが、移住後に西条市で縁がつながり、インド料理が専門だった私はカレー屋を開くことにしました。幼い頃から、農業から生まれる食料や料理、それを食べる人、暮らすこと、そして廃棄物も含めてその土地土地の循環がうまく回っていったら良いという想いがあって、料理人ならば暮らす地域の食材を選んだり、なるべくごみが出ない調理法を使ったりと、ちいさな決断を続けて環境に直接かかわることができると考えたのも、この事業を始めた大きな理由の一つです。
これまでごみ処理やリサイクル、皮なども丸ごと食べるホールフードなどについて学び、実践してきましたが、ここに引っ越してきてなおさら環境について意識するようになりました。地元の農家の方から農作物を買ったり、農薬を使っていない野菜を選択したり、出たごみをなるべく自然に還る形で処理するなどの取り組みで、地域に貢献したいと考えています。
鈴木 私は以前は大阪に住んでいて、2019年に西条市が地域おこし協力隊制度を使った起業型移住プロジェクトで地域課題解決を図る取り組みを実施したのですが、その中にITを使って地域活性化を図るプロジェクトがあり、それに応募して採択され、移住してきました。大阪では12年半ほどバーを営んでいましたが、それ以前はベンチャー企業のIT部門立ち上げに携わったり、テクノロジーで社会を良くするといったことに関心がありました。バーを経営したのも、当時SNSが流行り始めたころで、SNSとリアルなビジネスを組み合わせた事業が何かできないかと考え、バー専用SNSを始めたのがきっかけでした。バーのお客さんに西条市のプロジェクトにかかわっていた人がいて、話を聞いて興味を持ち、移住するに至りました。
西条市に来てからは地域の地域課題に取り組むボランティア団体などの話を聞いたりしてきましたが、その中でやはり活動資金を確保するのに皆さん苦労されているということを痛感しました。せっかく地域のため、困っている人のために活動している人たちが苦しい想いをしている状況はサステナブルではないと思い、活動資金を集めるための寄付の仕組みで、ITを活用して新しいものができないかと「ZEN」プロジェクトをスタートさせ、試行錯誤した後にある程度の手応えを感じたことから2年前に会社「ZENTECH」を立ち上げて取り組んでいるところです。
山中 私は建築学科を出て、不動産開発のプロデュースやメディア運営を行う会社で働いた後、施設活用のコンサルティング業として開業し、事業を行っているのですが、不動産コンサルティングの仕事では企画書を書いたり、エクセルに数字を入れていくような作業も多く、もっと直接的な街作りとして地域の方にも参加してもらえる取り組みができないかと思っていました。
2019年に西条市に拠点を移したのをきっかけに、有名な「うちぬき」と呼ばれる地下水の水位が減ったり汚染されているという問題に関心を持ち、調べたところ要因の一つとして山林環境の悪化も大きく関わっていて、平野部のわれわれの生活や西条市の産業も山に支えられているということを改めて知りました。人工林や竹林が増えて山が荒れている現状を知り、私たちの生活に自然環境が大きく関わっていることを何か表現したいと思い、はじめたのが「メンマチョProject」です。
竹林整備を行う団体の活動に参加していたご縁もあり、竹林をテーマにした商品開発を考えました。その中で、食べられる身近なもので子供でも収穫作業に参加できるメンマづくりを始めました。当初は事業化するといった大袈裟なものではなく、本業以外で資源を有効に循環させて地域に還元するモデルができればいいと思い、粗利7万円程度を目標に立てて取り組みを始めましたが、全くの素人だったのでかなり苦労しました。最近ラーメン店に卸したりとようやく事業としての形になってきたところです。地域の食材を使ってちょっと変わったフレーバーメンマを作るというコンセプトで「メンマチョ」の名称で商品開発を行なっており、今年で4年目になります。
山口 私は大阪府寝屋川市で廃棄物処理会社を経営していますが、西条市とのかかわりとしては、市にある石鎚山を御神体とする石鎚神社の大阪教会が親友の実家ということで縁があり、25年ほど前から年に1回程石鎚山登拝に訪れていました。最初は信仰というところまではいっていなかったのですが、コロナ禍に入ったころに敬神婦人会の大阪支部長を拝命し、積極的にご奉仕するようになり、現在は年に4~5回程西条市を訪れるようになりました。
もともと大阪で知り合った鈴木さんからのご縁で、西条市には今回のメンバーのようにユニークな起業家の方々がいて、地方でもさまざまな挑戦が行われていることを多くに人に知ってもらいたいし、私としては廃棄物処理業を営み環境カウンセラーとしても活動しているので、西条市の環境問題や地域課題を共有していけたらと思っています。
西条市には新しいことにチャレンジする人を応援する市民が多い
――起業家である3人の関係は。
高瀬 山中さんがオーナーとして「パーラー○○」を運営していて、私はテナントとして契約し厨房を建て込んで、カレー店を開いています。鈴木さんはシェアスペースを借りてバーを営業したりと、空間を共有する仲間という関係になっています。その他にはコワキングスペースとして活用している人もいたりと、この街で事業に取り組む人たちのハブ的な場所となっています。
鈴木 私がバーをやっているのもバーそのものが目的ではなく、当社が運営するアプリ「ZENMessenger」は地域で活動する人と、それを応援するスポンサーをつなぐサービスですが、ただアプリ内だけでなく、そうした人たちがリアルに会える場所の一つになればと思って、パーラー○○の一角で営業を行っています。
――高瀬さんは店を経営する上で環境については意識しているか。
高瀬 私が常に意識していることは、食材はなるべく捨てる部分を少なくして素材の良さを丸ごと食べてもらいたいと思っています。インドをはじめとするスパイス料理には、皮ごとの野菜も食べやすくしたり、スパイスによって素材のアクを活かせる調理法に長けていたりと、そのテクニックに魅力を感じています。それでも発生する野菜クズなどについては、堆肥化して地元の農家さんに使っていただくなど、循環させる試みも行っていきたいと考えていて、実際今そうした話も出て来ています。一人で何でもやるというのは限界があります。いろいろな人と協力して支援し合いながら進めていくのが理想ですね。地方の面白いところは、自身のやりたいこと・やれることを表明したとき、すでにその地で行動している方たちとつながりやすい点だと感じています。さまざまな立ち位置で、かつ同じ方向を見て進める仲間が見つけやすく、すぐにつながって話が進んで行くのはとても素晴らしいことだと思いました。特に西条市は個人事業主がとても元気なように感じます。
――山中さんは事業を行う上で意識していることは。
山中 メンマチョProjectでは地域内の経済循環を意識しています。昨シーズンまでは県外地域にも収穫パートナーを募集して仕入れてみたのですが、エコロジーとしてもエコノミーとしてもあまり良くないと思い、各地域で経済循環を生むビジネスモデルにシフトしました。現在は、当初からお世話になっている西条を中心とした東予エリアの竹林に加え南予にも1拠点増やし、愛媛産の原材料にこだわってメンマを製造しています。東京のラーメン屋でメンマを使ってくれていて、そこが松山に支店を出したときメンマはトッピングのオプションにしたのですが、東京よりも松山の人の方が多くメンマを食べてくれました。「西条の山中さんのメンマ」ということで選んでくれる人が多かったようです。やはり地域を大事にして、地域でお金を循環させる方が私の事業モデルとしてはみんなが喜んでくれるんだと気付かされました。
――西条市を拠点に選んだ理由は。
鈴木 地方がこれからますます厳しくなっていく中で、一つの街でテクノロジーを使った新しい流れを作ることができれば、他の地域にも展開して行けるのではと考えていた時、西条市の地域おこし協力隊制度を知り応募しました。資金面の支援は市がしてくれましたが、具体的な活動については基本的にはこちらの裁量に任されていたので、苦労も多かったですがやりがいはありました。
高瀬 私は夫の仕事をきっかけに西条市を選びました。水がきれいで小規模農家がたくさんあり種類豊富な野菜が育てられていて、店舗を営むための素材が、概ね賄え憧れの地産地消が豊かに実現できると感じました。また、西条市には新しいことにチャレンジする人を応援したいという市民の方々が多いように感じます。私のように他所から来た人間も暖かく迎え応援してくれました。それが西条に定着できた大きな理由の一つです。住まう方、市民性そのものが大きな魅力の一つだと思います。
同じ悩みを持つ人々が地域を超えて連携できるコミュニティづくりを
――鈴木さんが目指すものは。
鈴木 私はITを使って地域で頑張っている人を応援する仕組みを作りたいと思っています。地域を良くしようと活動している人は多く存在しますが、その地域でも認知されていないのが大半というのが実情です。そうした人たちの活動を広く知ってもらって、つなげていくことで支援できたらと考えています。成功事例の一つとしては、eスポーツを広める活動を行っている団体と、不登校の子供たちに居場所を提供する団体をつなげたのですが、不登校の子供たち向けにeスポーツの大会を定期的に実施するようになりました。
山口 オンラインは情報量の多さが強みだと思います。自分の都合の良い時間につながりたい情報にアクセスできるというのは大きいですね。
鈴木 SNSやホームページで個々の情報は発信されていますが、意外と地域のまとまった情報が取れるものがないので、そうした情報を集約して、お金を出して応援する時もどこに使われるかわからない募金などではなく、誰のどんな活動に使われているか明確に分かる仕組みになっているのがZENの特徴です。まずは西条市でプラットフォームを構築して、それを他地域にも広げて行けば、同様の悩みを持つ人たちが地域を超えてコミュニケーションを取り、連携していくことも可能になります。そうしたコミュニティを作っていくのが目標です。
――ZENの収益構造は。
鈴木 スポンサーから資金を集めていろいろな団体に分配する際に、手数料を徴収していてそれが資金源となっています。将来的には企業が自社の社員向けに、地域貢献等の意識を高めるためのプログラムとして使ってもらうことも想定しています。社員が自社のお金を地域のためにどう使うかということを、ZENを活用して自分たちで決めることで、地域とのつながりを意識してもらえたらと考えています。社会貢献の意識が高い社員はそうでない社員に比べパフォーマンスも高いと言われているので、ZENを活用して社会貢献意識の高い組織づくりを目指すことを企業に提案していきたいです。
――山中さんの今後の目標等は。
山中 メンマチョProjectでは、売り上げ1億円を実現するのが目標です。愛媛だけで達成するのではなく、まずは愛媛で2000〜3000万円くらいのビジネスモデルを作り上げ、仲間を募って同様のプロジェクトを同じように竹林保全に悩んでいる地域、全国5カ所くらいで展開できたらと考えています。また、メンマ以外の竹を活用した取り組みとしては、地域内の施設と連携して食品残渣に竹を粉砕しパウダー状にしたものを混ぜて堆肥化する試みを行っています。竹は発酵に有利な構造なので、早く堆肥化できるということで現在実験中です。もう一つはJクレジットの関連で、竹を炭化させCO₂を吸着させて埋めることでカーボンニュートラルを実現させるという取り組みで、農家さんと、大学や企業などと連携して実験して行きたいと考えています。
>若い世代、訴求力のある人に環境カウンセラーを目指してほしい
――高瀬さんの今後の展望は。
高瀬 私はカレー屋をやりつつ農業に関わる取り組みを進めたいです。一つの職業・一つの枠にとらわれず、農をやってみたい人や環境に関心を持つ人とのつながりになれたら、と思っています。そうした人々が集い、出会う場としてお店を続けて行きたいです。最近では地元の農家の方々と協力してますます地産地消に励んでいます。穫れ過ぎてしまった旬の野菜や規格外の野菜も、カレーにするにはもってこいです。手間暇かけて育てられた素材を無駄にしないよう、料理に活かし、冷凍商材としてショッピングサイトで販売もしています。すでに東京、大阪など大都市の人に多く買ってもらっていて、西条市の魅力を全国の人に知ってもらう一つのきっかけになれば良いと思っています。環境カウンセラーにも興味があり挑戦しています。
――山口さんは環境カウンセラーの登録を受けているが。
山口 私は廃棄物処理業を行う中で環境カウンセラーは一つのステータスになるのではないかと思いました。同業ですでに登録を受けている女性経営者から勧められたこともあって挑戦し、認定を受けることができました。登録を受けたことでいろいろな人とのつながりが広がったので、挑戦して良かったと思っています。廃棄物、食品ロスなどに関心を持って活動されているということで、高瀬さんもぜひ取得してほしいです。今環境カウンセラーも高齢化が進んでいるので、若い人たちに多く取得してほしいと思っています。また、資格を持っているだけという人も中にはいるので、しっかりと活動して、訴求力のある人に環境カウンセラーになってほしいです。
――ごみ問題、環境問題について思うことは。
山口 生活する中で必ずごみは出てきますし、どんな産業でもごみと関係のないところはありません。多くの環境問題にごみは関わっていて、私は今各地で多発している気象災害にもつながっていると思っています。ですから私の会社では廃棄物の資源循環を目指すだけでなく防災にも力を入れています。BCP(事業継続計画)をいち早く策定し、内閣府が推進するレジリエンス認証を取得しました。まだ日本で300社程度しか認定を受けておらず、当社が第1号となった廃棄物業界でも多くの企業に認証取得してもらい、さまざまな業界と一緒に課題解決を加速させたいです。
高瀬 ごみは暮らしを営む全ての人に関わることで、私自身はごみ問題に取り組むのがとても楽しいです。多くの人に楽しく興味を持ってもらうような試みをしていければと考えています。例えば私のお店や市民の方の家庭から出た野菜くずに、山中さんが取り組んでいる竹パウダーを混ぜて堆肥作りを行い、その状況をみんなで観察するというようなことを考えるとワクワクします。