三菱重工と電力4社、革新軽水炉を開発 政府の政策転換が契機、30年代実用化へ

三菱重工業は9月29日、安全性を高めた120万㌔ワット級の革新軽水炉を関西電力、北海道電力、四国電力、九州電力と共同開発すると発表した。経済産業省が同22日から総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会で原発政策の転換について本格的な議論を開始したことに呼応した。リプレース(建て替え)や新増設プラントの有力候補となる。2030年代半ばの実用化を目指す。同29日に開かれた同調査会の基本政策分科会でも次世代革新炉の開発を既存原発の廃炉に合わせて、早期に開始すべきだとの意見が相次いだ。関電美浜原発のリプレースなどが候補に上がっている。

★炉心溶融事故も想定

三菱重工の革新軽水炉は、既存の加圧水型軽水炉(PWR)の技術をベースに、自然災害やテロへの対策を講じて信頼性を高める。建屋を岩盤に埋め込み耐震性を向上させるほか、建屋の水密化などで津波耐性も強化。大型航空機の衝突に耐えられるよう格納容器の外部遮蔽壁を強化する。破損の確率を既存炉の100分の1未満に減らせるという。サイバーセキュリティーも高度化する。特定重大事故等対処施設(特重施設)の機能も備えた設計となっている。

東日本大震災後の東京電力福島第1原発事故の教訓を生かし、仮に炉心溶融が起きた場合でも核燃料が外部に漏れないよう原子炉容器の下に備えた「コアキャッチャー」で受け止め、溶融デブリを格納容器内で確実に冷却できるようにする。

一方、再生可能エネルギーと共存するため運用性能も向上させる。既存の大型原発は、頻繁な出力変更を想定していない。出力を半分に落としたり、元に戻したりするには約1時間かかるケースもあり、より機動的に出力を抑制できるようになる。風力や太陽光といった再エネの活用は天候や時間帯によって発電量にばらつきがある。こうした弱点を補うことができるという。

ベースロード電源としての役割に加え、出力調整によって系統安定化にも貢献できる。余剰電力と、主蒸気の一部を抽気して熱源に利用し、次世代エネルギーの水素製造を視野に入れる。

三菱重工と電力4社は基本設計を開始する。要素技術の実証やプラント・システムで共通の部分を設計する。具体的に建設地点が決まれば個別に詳細設計を行う。

★深刻な技術継承問題

原発のリプレースや新増設の検討は岸田文雄首相が8月の第2回グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議で指示した。背景には、昨年来、高騰するエネルギー価格の抑制が政策課題となっていることや、2月からのロシアのウクライナ侵略でエネルギー危機に襲われたことがある。脱炭素へ向けて原発の有効性を認識していることもある。

経産省はこれまで次世代革新炉として、革新軽水炉のほか▽小型モジュール炉=出力が30万㌔ワット以下。設備の大半を工場で生産し、工期や建設費を削減▽高温ガス炉=炉内温度が高くエネルギー効率が高い。水素も量産できる▽高速炉=使用済み核燃料を使い、高速の中性子で核燃料を効率的に燃やす。核のごみも少ない――の計4タイプを挙げてきた。

このうち革新軽水炉は安全性の面で最も実用化に近いとされる。既存原発と基本構造が近く、既存軽水炉をもとに福島第1原発事故後に定められた新規制基準に対応する。しかし他の次世代炉は規制の面が壁になる。小型モジュール炉の場合は、コンパクトな設計にするために既存軽水炉と異なる構造で、それに見合う規制が新たに必要になる。

このため、経産省は原子力小委員会の下に設置した作業部会で7月下旬、安全性を高めた革新炉として、各国が建設する革新軽水炉の開発を「最優先に取り組む」とし、2030年代の運転開始を示した。

経産省が既存の技術を基にした革新軽水炉の開発を急ぐのは、残された時間が少ないという事情がある。運転開始から30年以上経過する原発は、国内にある運転可能なベースの33基のうち17基を占める。事故後改正された原子炉等規制法で定められた運転期間は原則40年間で、1回に限り60年までの延長は認められているものの、2040年以降は急減する見通しだ。

さらに原発の技術継承が難しくなっている側面もある。日本電機工業会の調査によると、プラントメーカーにおける建設経験者は、21年度までの9年間で約4割減少。21年度時点で建設経験者の年齢層(約1700人)は、51歳以上の比率が約半分を占めるという。某ゼネコンは「わが国の国産化率90%を支える技術には、新設業務でしか継承できない技術がある」と訴える。供給網の維持にも支障が出始めている。PWRの蒸気発生器を提供してきた川崎重工業は、11年の震災を機に原子力部門の人員が1割減ったことも響き、21年に撤退した。

★「矢印が逆だ」と批判

29日の基本政策分科会でも、革新軽水炉を念頭に次世代革新炉の開発を急ぐべきだとの声が相次いだ。例えば、橘川武郎委員(国際大学副学長)は、関西電力美浜原発3号機のリプレースなど具体的な議論を求めた。

「そういう話をここで議論しないと間に合わない。原子力小委は原発の運転期間延長の議論を先行しているが、まずは次世代革新炉に関する計画を明確にすべきだ。基本政策分科会は小委からの報告を受ける場となっているが、矢印が逆だ」と批判。まずは分科会がリプレース・新増設に向けた詳細を示すべきだと訴えた。