東風西風(2025年9月17日)
三菱商事は8月27日、秋田・千葉県沖3海域の洋上風力発電事業について資材や人件費の高騰で撤退すると発表した。同29日には環境・経済産業両省が検討してきた太陽光パネルのリサイクル義務化を政府が断念。9月7日、石破茂首相は日米関税交渉が節目を迎えたため先送りにしてきた先の参院選大敗の責任を引き受け退陣すると決めた。――「断念」。この複雑な言葉は日本古来の美学が「貫徹」の潔さを好む時、あるいは一つの失敗を意味した。ただ試みを抱いた人々は失敗の壁を乗り越えることで事績を刻んだ。壁の高さは挑戦の大きさを意味した▼事業撤退で各地に響いた悲鳴は低音にとてつもなく大きな期待をたたえていた。同社・中西勝也社長「我々の計画は断念したが後継の事業者にデータを共有する。脱炭素社会の実現に向け責務を全うする」。リサイクル義務化は同時的に全国で巻き起こっていた太陽光発電を巡る問題と絡まり生活者の関心を呼び寄せた。約1年の短期の執政で地方創生や防災庁設立などに実りの多い種をまいた。石破氏「まだやり遂げなければならないことがある」。火は消えない▼道のりは一つではなくこれまでの歩みが無になることも決してない。断念は試みの先端で確かな到達点を記している。(潤)