東風西風とうふうせいふう

梅雨に入り本格的な雨の季節がやってきた。毎年この河川等の出水期の前には、全国各地で国や自治体、地域の水防団等による水防訓練が実施されている。初めてその大規模演習を目の前で見学して、感動と決意を覚えた▼「集合」との号令に行動する時の機敏さ、班ごとの一体感。「イチ、ニ、イチ、ニ」の掛け声を上げて移動する部隊も多く、一人ひとりのまなざしと動作から緊張感がひしと伝わる。まるで軍隊のようだ。東欧の惨状が頭をかすめたが、演習が始まると他のことは全て頭から消えた▼土のうを使って水の流入を防ぐ最も基本的な対策「積み土のう工」、堤防斜面の洗堀(削れ)を防ぐ「張布工」、堤防等の漏水対策の「月の輪工」に「釜段工」などと、伝統技法が次々、鮮やかに示される。見事だ。先の掛け声や一糸乱れぬ行動にも合点がいく。こんな技能はチーム一丸にならないとできない▼土のうに代わる製品や便利を謳う防災製品が次々に開発されてはいるが、最も確実で有効なのは先人たちの知恵だそうで、この国がいかに水害に見舞われ、苦労してきたかが計り知れる▼気象庁の3カ月予報では、降水量はどの地方も「ほぼ平年並」とあるが、それはあくまで平均値で、怖いのは線状降水帯による集中豪雨。心して備えたい。(孝)