2023年の下水道界展望―関連団体トップに聞く 日本下水道施設業協会 会長 木股 昌俊

新春を迎え、謹んで新年のごあいさつを申し上げます。

昨年の日本は、まさしく激動の1年でした。ウクライナ問題をはじめ、円安・物価高騰、新型コロナの継続などが、国際・社会・経済のあらゆる面で大きな影響をもたらし、多くの日本国民が対応に追われたことでしょう。我々の業界に近いところでも、にわかに水道行政の国交省移管の議論が起き、働き方改革の波が如実に広がってきた変化の1年でした。

しかし、我々もまた、この変化に対応していかなければなりません。これまで積み上げて来た経験や考え方に縛られることなく、膨大な手順や書類等をゼロベースで見直し、業務改革によって生産性を大きく回復させる絶好の機会としてとらえ、下水道事業においても仕事の流れを大胆に改革し、DX(デジタルトランスフォーメーション)などあらゆる方法で脱炭素化や効率化を実現していくことは必要不可欠と考えます。

また、大半の先進国がインフラ投資を伸ばしてきたこの20年間、日本では下水道予算が抑制されたため、更新が必要な設備の多くは先送りになり老朽施設が急増しています。耐用年数が土木構造物に比べて短いとされる機械・電気設備では、20年以上前に全国で大量に整備された設備の数々が耐用年数を超過し、さまざまな問題が各地で起こっています。下水処理は365日止めることができないため、仮設の設備などで運転を続けながら旧設備を撤去し、新しい設備を搬入・据付調整するなど、改築工事や更新工事は新設工事より高度な技術と大きなコストが必要となります。

一方、国内では2050年カーボンニュートラルが宣言され、地球温暖化対策推進法も改正されました。欧州では再生可能エネルギー拡大等に大胆な投資、制度改正が行われ、新産業を育成して世界をリードしています。脱炭素社会の実現に向け国内でもすでに取り組みは始まっています。下水道において一度汚した水をきれいにするには大きなエネルギーを必要としますが、民間企業のたゆまぬ技術開発の積み重ねにより、設備更新で大幅な省エネ化が可能になっています。加えて、バイオガス発電から石炭代替燃料・水素製造まで、下水道を活用したカーボンフリーの再生エネルギーなどを作り出す仕組みも進んでいます。また、輸入に頼るリンの回収や汚泥の堆肥化などから、地域の農産物を「じゅんかん育ち」としてアピールする試みも広がっており、国を挙げての汚泥肥料利用の動きも始まりました。我々の役割は、カーボンニュートラルに資する新技術の開発です。そうした技術メニューを取り揃え、それが遅れている改築更新事業の推進につながり、カーボンニュートラルも進むという形にしていかねばなりません。

今年の干支はウサギです。激動の1年をウサギのように飛び越え、ウサギのように敏捷に対応し、ウサギのように繁栄する年にしていかなければなりません。時代の変化や技術の進化に対応し、わが国の下水道事業を持続可能なものとするために、公正な競争の下、仕組みを変え、大胆な発想で脱炭素とスピードアップを皆で切磋琢磨して進めていくことが大切です。

世界の激変にも下水道事業を安定して持続でき、脱炭素社会を実現する明日の日本づくりに我々も微力ながら貢献していく所存です。

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日本下水道施設業協会会長 木股昌俊