東京特別区におけるカーボンニュートラルの取り組み~廃棄物分野を交えて~ ジャーナリスト・環境カウンセラー 崎田 裕子

はじめに

2021年11月のCOP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)で、「世界の平均気温上昇を産業革命前から1・5℃以内に抑えるため、30年に世界のCO2排出量を10年比45%削減し、50年頃にゼロにする」と、世界各国が共有した。近年、台風の大型化や集中豪雨、熱中症被害が顕著になった日本でも、気候変動対策はもはや他人事ではない。

東京23区の「特別区長会調査研究機構」(以下、機構)でも、「ゼロカーボンシティ特別区」に向けた調査研究が21~22年に実施されたが、そこから見えてきた現状と課題、今後の方向性を、廃棄物分野を含めて紹介する。

「ゼロカーボンシティ特別区」に向けた取り組み調査研究の狙い

東京都は大都市の責務として、19年12月に「ゼロエミッション東京戦略」を策定し、政府も20年10月に「50年カーボンニュートラルをめざす」と宣言した。この動きは全国に広がり、環境省資料によると934自治体(23年3月31日時点)が「50年までにCO2排出実質ゼロ」を表明している。

約1千万人の人口を抱える東京特別区でも取り組みの深化が急務となっており、23区で最初にゼロカーボン宣言をした葛飾区の「ゼロカーボンシティ特別区」に向けた取り組み調査研究提案が、機構の21年度テーマに採択された。なおこの機構は、特別区に関わる課題の調査研究機関として、特別区長会が18年に設置した。

この調査研究への各区の関心は高く、葛飾区を軸に13区の職員と東京二十三区清掃一部事務組合、特別区協議会から研究員が参加し、東京都環境局からもオブザーバーを迎えた。23区の連携で相乗効果を挙げられる分野と具体策の検討を進めたが、特に連携が期待される4分野を深掘りするため22年度に継続研究を行ったので、詳細は機構HPを確認いただきたい。なお筆者は「葛飾区環境基本計画策定委員会」会長を務めた縁で研究チームリーダーとなり、サブリーダーには副会長の藤野純一・地球環境戦略研究機関(IGES)上席研究員に務めていただいた。

特別区のCO2排出は減少してきたが、家庭・業務・廃棄物部門は増加傾向にある

オール東京62市町村共同事業「みどり東京・温暖化防止プロジェクト」が公表する部門別CO2排出量などを参考に、東京都(市町村と特別区合計)と特別区のCO2排出の現状をみると、18年度東京都の排出量は5698万8千トンCO2で、特別区からはその75%、4分の3の4275万9千トンCO2排出されている。

東京特別区におけるカーボンニュートラルの取り組み~廃棄物分野を交えて~ 「ゼロカーボンシティ特別区」に向けた取組み調査研究チームリーダー、ジャーナリスト・環境カウンセラー  崎田 裕子_図1 2018 年度の特別区の部門別CO2 排出量構成比の比較
図1 2018 年度の特別区の部門別CO2 排出量構成比の比較

特別区の00年以降の推移は微増・微減を繰り返してきたが、12年度以降は減少傾向にある。けれど部門別にみると、産業部門や運輸部門のCO2排出は減少しているのに対し、家庭部門・業務部門と、廃棄物部門は、増加傾向を示している。

各区の排出量の実績値は人口規模や事業構造などによって違うが、図1「2018年度の特別区の部門・分野別CO2排出量構成比の比較」をみるとそれぞれの特徴は見えてくる。また、特別区の平均した分野別排出割合をみると、産業部門5・6%、家庭部門30・3%、業務部門44・7%、運輸部門16・2%、廃棄物部門3・3%となり、近年増加傾向の家庭部門と業務部門、廃棄物部門の合計が78・3%に上っている。各区の特徴の違いを超えて、全ての区に削減努力の真剣さが求められている。

現状の温暖化対策の延長では50年カーボンニュートラル実現は難しい

次に、50年までの部門別の将来推計結果をまとめると、図2のようになる。

あるべき姿の目標を掲げるバックキャスト方式の推計では、特別区が図2の②となるが、この場合は30年カーボンハーフ、50年カーボンゼロを条件に設定している。ただし、その際も50年CO2排出量を厳密にゼロにするのは難しく、エネルギー起源排出量を00年度比95%削減し、排出する5%分のCO2は森林地域とのカーボンオフセットや特別区内の樹木による吸収、CO2の分離・回収、地下貯留、再利用のCCUSなどで相殺することを想定している。

一方、これまでの推移を踏まえた将来推計、フォアキャスト方式では、特別区が図2の①となる。この推計では、30年推計値は00年比11・0%減、50年推計値で00年比22・8%減にしかならず、これまでの対策の延長では30年カーボンハーフや50年カーボンゼロなどの削減目標には遠く及ばないことが分かる。

このフォアキャスト方式の将来推計では、産業部門、運輸部門だけでなく、業務部門、家庭部門のCO2排出量は減少傾向となるが、廃棄物部門だけは増加傾向のままになる課題が浮かび上がってきた。特別区の一般廃棄物量は06年度以降減少しているが、一般廃棄物回収量当たりのエネルギー消費量が、06年度以降増減を繰り返しながら今後も増加傾向を示しているのだ。理由として、廃プラスチックのサーマルリサイクル実施が考えられ、プラスチックのリデュース・リユースを徹底して焼却からの早期脱却が求められている。

東京特別区におけるカーボンニュートラルの取り組み~廃棄物分野を交えて~ 「ゼロカーボンシティ特別区」に向けた取組み調査研究チームリーダー、ジャーナリスト・環境カウンセラー  崎田 裕子_図2 特別区のCO2 排出量の将来推計結果
図2 特別区のCO2 排出量の将来推計結果

「ゼロカーボンシティ特別区」実現に向けた今後の方向性

50年「ゼロカーボンシティ」実現は、現在の取り組みの継続では達成できない状況が明白であり、各自治体の取り組みを強化するだけでなく、23区が連携して相乗効果を挙げることも必要となる。この連携とは23区間だけでなく、役所内部の部門連携や、他のステークホルダーとの連携、特に産業・事業者や金融、市民、そして森林資源豊かな自治体との連携も重要となる。

具体的項目として「連携施策に関するロードマップ」に挙げたのは以下の通り。

▽産業部門「最新技術動向の把握と事業者への情報提供」「循環資源の有効利用に向けた業界団体等との連携」

▽業務部門・家庭部門「建物のZEB・ZEH化に向けた業界団体との意見交換、23区共通の枠組みの検討」「再エネ電力調達における連携、共同購入」

▽運輸部門「乗用車、貨物車、バス等のZEV化推進に向けた業界団体との意見交換」「充電設備・水素ステーションなどのフィールド提供」

▽廃棄物部門「2Rビジネスの促進」「23区が連携した分別・リサイクルの促進」「清掃工場等におけるCCUS導入に向けた検討」

▽吸収関係・その他「23区が連携した森林整備の取組による吸収量の確保」「23区が連携した教育機関への啓発活動の推進」

実現に向けて図3「連携基盤のイメージ」を想定し、22年度は特に早期に取り組むべき4分野として「再エネ電力利用の推進」「中小企業の脱炭素化への支援」「建物・住宅のZEB・ZEH普及の推進」「森林整備の取組みによる吸収量の確保・効果の把握」の調査研究を進め、具体策を提示した。

廃棄物処理分野の脱炭素化に向けて

調査研究では廃棄物分野の深堀りにまで至らなかったが、脱炭素に向けたプラスチック対応や食品ロス削減、循環経済の実現、将来に向けたCCUSの研究など、重要な時期を迎えている。そのため、東京二十三区清掃一部事務組合が新たな調査研究テーマとして「特別区におけるCO2の地産地消に向けて~清掃工場のCO2分離・活用と23区の役割?」を機構に提案し、23年度に研究を進めていることは意義深い。

東京二十三区清掃一部事務組合資料によれば、特別区には21の清掃工場があり、建て替え中を除き20工場が稼働している。新たな建設計画はないが、老朽化した工場の建て替えや延命化を計画しており、建て替えには準備から工事完了まで約10年を要する。

清掃工場の耐用年数は25年から30年で、延命化整備をすると40年活用できる。ということは、新設から15年から20年ほどの時点で今後の延命化や建て替えの検討を始めることになるが、現在稼働中の20工場で一番古い施設は稼働後28年で、20年以上の施設は11ある。将来に向けたCO2の分離・回収、利用あるいは貯蔵まで含むCCUSの検討は早すぎる状況ではない。

具体的事例として横浜市の鶴見工場がある。筆者は横浜市の廃棄物減量化・資源化等推進審議会(大迫政浩会長)の委員として「SDGsの達成・脱炭素社会の実現に向けた廃棄物施策」検討に参加している。

横浜市の5つの焼却工場のうち1カ所休止しているが、稼働中の鶴見工場では22年からCCUの実証試験を始めている。一般廃棄物焼却工場の排ガスからCO2を分離・回収し、利活用するもので、焼却設備設置企業とCO2分離回収企業、そして近隣に工場のあるガス事業者と横浜市の4社が連携。分離回収したCO2を精製し、水素と反応させてメタンガスを生成するメタネーション等のCO2変換利用を進める他、産業ガス等の直接利用も検討している。

この工場は京浜工業地帯の臨海部に立地し、近隣には多くの事業所がある。市はこの地域特性を生かし、廃棄物焼却熱や電気の利用だけでなく、将来に向けて資源としてCO2利活用を進め、廃棄物焼却工場を中心にしたエネルギーの循環利用を実現し、「2050ゼロカーボンヨコハマ」に貢献するとしている。

特別区でのCCS、CCUSに関する調査研究も始まっている。廃棄物収集車の燃料電池活用など新しい動向にもアンテナを高くすると共に、事業者との連携の可能性など柔軟に考え、新鮮な発想で「ゼロカーボンシティ特別区」への挑戦を願っている。

おわりに

「ゼロカーボンシティ特別区」の実現は、野球でいえば全員野球といえるが、機は大いに熟している。

21年の研究開始当初は、「ゼロカーボンシティ宣言」をしているのは4区だけだったが、この2年でほとんどの区が宣言した。地域特性を認め合い、できるところから力を合わせ、希望ある未来を次世代につなげようではないか。

東京特別区におけるカーボンニュートラルの取り組み~廃棄物分野を交えて~ 「ゼロカーボンシティ特別区」に向けた取組み調査研究チームリーダー、ジャーナリスト・環境カウンセラー  崎田 裕子_「ゼロカーボンシティ特別区」に向けた取組み調査研究チームリーダー、ジャーナリスト・環境カウンセラー 崎田 裕子
「ゼロカーボンシティ特別区」に向けた取組み調査研究チームリーダー、ジャーナリスト・環境カウンセラー 崎田 裕子
東京特別区におけるカーボンニュートラルの取り組み~廃棄物分野を交えて~ 「ゼロカーボンシティ特別区」に向けた取組み調査研究チームリーダー、ジャーナリスト・環境カウンセラー  崎田 裕子_図3 連携基盤のイメージ
図3 連携基盤のイメージ