宇宙から見る気候危機(287) 人類の宇宙移住はあるのか 地球脱出を視野に入れる時代に

人類は宇宙にあこがれ続けてきた。天文学が発展し、天動説から地動説へという大転換もあった。1950年代に入ると電波天文学が脚光を浴びるようになった。米国のフランク・ドレイクが宇宙人との交信を目指してSETI(地球外知的生命探査)を手掛けたのは60年のこと。まだ成果はないが、いつ「第2の地球」から待望の電波が届くか分からない。

人類が宇宙空間に住む時代

人類の宇宙進出も少しずつ進む。旧ソ連のガガーリンが初めて宇宙を飛行し、「地球は青かった」の言葉を残したのは61年。米国が後に続き、69年には人類が月着陸を果たした。宇宙での長期滞在を可能にしたのは、ソ連が71年に完成させた宇宙ステーションのサリュートだ。同国のミール、米国のスカイラブなどが続き、米国主体の国際宇宙ステーション(ISS)には2000年以降、常時数人の宇宙飛行士が滞在している。人類が宇宙空間に住む時代が実現したと言ってもいい。

今後、我々は宇宙とどうかかわっていくのか。宇宙飛行士の若田光一さんは、19年8月27日付毎日新聞朝刊で「ISSへの参加には年間300億円以上の費用をかけていますが、そこまで国が費用をかけ、人自らが行く意味はどこにありますか」という問いに当時宇宙航空研究開発機構(JAXA)理事として次のように答えている。

民間だけではできない、人類の活動領域の拡大や人類共通の知見の獲得に貢献することです。私は、有人宇宙探査の究極の意義は「人類存続のための危機管理」だと考えます。太陽系はいつか滅亡します。小惑星などの衝突による大規模な環境変化があるかもしれません。地球環境を守りながらも、人類が生き延びる技術的な準備をしておくことが必要です――。

「人類存続の危機管理」

人類存続の危機管理というのだ。6600万年前に巨大隕石がメキシコのユカタン半島に落下した時は恐竜の絶滅が起き、哺乳類は生き延びて人類出現のきっかけとなった。現在、同じような事態が起こることが前もって分かれば、人類は地球脱出を図らざるを得ないだろう。天体の衝突でなくても、気候危機が高じて北極や南極周辺にも人間が居住できる地域がなくなれば、そうしたことは一層現実味を増してくるに違いない。

SETIの一つで太陽系近くの恒星などを対象に進行中のブレークスルー・リッスン計画に加わった英国の著名な物理学者スティーブン・ホーキング(18年死去)は、気候変動や資源枯渇の問題を抱える地球から人類が出ていくことを真剣に考え、火星に早く大規模なコミュニティーを築くべきだと語っていた。

懸念つきまとう宇宙移住

だが、他の天体への移住はそう簡単ではない。月や火星への基地建設は膨大な予算と危険を伴う。ましてや一般の人の地球外移住となると、夢やロマンの話ではない。太陽系では地球以外のどこも、「南極やエベレスト山頂よりも厳しい環境が待っている」という指摘がある。

別の問題もある。地球で温暖化を抑制できないようでは、仮に火星移住を果たしてもそこでまた気候危機を招いてしまいかねない。地球が最適な条件だったから生命や人類が誕生し、現代文明に行き着いたことを考えれば、安易に地球脱出を図るべきではないだろう。

宇宙開発は軍拡競争と密接に結び付く。米国がソ連による1957年のスプートニク1号打ち上げにショックを受けたのは、その科学的成果に対してではない。核兵器を積んだ弾道ミサイルの発射で米国が多大な被害を受ける可能性があるからだった。今や米国、ロシアに加えて中国が宇宙大国になり、米国による月面基地建設も軍事的側面を抜きには語れない。

宇宙でも超大国の対立が続くのは好ましくない。人類の地球脱出を視野に入れることは必要だとしても、地球上の戦争・紛争をなくし、目の前にある気候危機の解消に各国が協力して取り組むことが先決だろう。

 科学・環境ジャーナリスト 横山 裕道

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5度目の宇宙飛行を果たし、ISSで22年10月に記者会見する若田光一さん(59)=NHKテレビから