街路樹ものがたり(44) 王室の倫敦:葬列を見送る樹々

エリザベス2世英国女王が9月8日に崩御し、弔いの儀式が世界中に報じられました。50年前から計画されたという壮麗な貴族文化に染まる倫敦に酔いました。

棺を運ぶ王立軍隊の葬列が、バッキンガム宮殿前のザ・マルを通る様は息を飲みました。ザ・マルはプラタナスの大木が並ぶ大通りで、ユニオンジャックや軍服やお馬さんが際立ちます。

女王の父、ジョージ6世が国王になるまでを描いた映画が2010年の『英国王のスピーチ』です。兄のエドワード8世は国王になったものの、2度の婚姻歴がある米国人女性と結婚しようとして大反発を受けます。映画でも、女性がきてバルモラル城周辺の樹々が伐り倒されたことへの嫌悪感が描かれます。

英国貴族を描いた映画『ダウントンアビー』の2作目が最近日本公開されました。10年に英国のテレビドラマとして放映し大ヒット、翌年アメリカでも大ブームとなり、日本でも14年からNHKで全シーズン放映されました。

架空の貴族一家がイングランド北東部の豪華な城で多くの使用人と暮らす日々を描きます。撮影場所のハイクレア・カッスルの敷地には見事な大木があり、日本では見られない剪定されていない大きな樹冠、どっしりとした幹が大地と一体になっています。大木が城の威厳に自然美を添えます。

映画終盤で、伝統的貴族社会を体現する伯爵の母が亡くなり、一同が城から葬列を組み、ガラス張りのクラシックカーで白薔薇のリースを飾った棺を運びます。偶然にも、女王の葬儀と重なるシーンとなりました。

英国と植物の歴史的関わりは、庭園や植物園など一方ならぬ深いものがあります。それらが現代の動物保護や高い環境意識に通じるのでしょうか。

先週、日本橋の図書館にいくと「英国」「ロンドン」「女王」「王室」を題にした書籍が全て貸し出されていました。なんという影響力でしょう! 一連の見聞に、本質的な魅力を感じた人は多いことでしょう。

一般社団法人 街路樹を守る会 代表(共立女子大学他 非常勤講師)愛 みち子

一般社団法人街路樹を守る会代表(共立女子大学他 非常勤講師) 愛みち子
一般社団法人街路樹を守る会代表(共立女子大学他 非常勤講師) 愛みち子
ザ・マルをいく英女王の葬列。沿道のプラタナス並木が重要(2022年9月14日、NHKテレビの中継画像より)
ザ・マルをいく英女王の葬列。沿道のプラタナス並木が重要(2022年9月14日、NHKテレビの中継画像より)
ハイクレア・カッスルと敷地内の大木。イングランド南部のハンプシャーにある
ハイクレア・カッスルと敷地内の大木。イングランド南部のハンプシャーにある