SX時代の企業経営―ポストSDGsを探る―(27) 「宇宙の視座からSXを考える」―スカパーJSATが示す新たな社会基盤―

月の裏側への挑戦と地球社会の閉塞感

ホルムズ海峡をめぐる緊張や、世界各地で続く不安定な情勢の中で、若干影が薄かった感もあるが、米国が久しぶりに打ち出した宇宙開発計画、月の裏側まで到達したチャレンジは、人類史にとって重要な一歩だったのではないかと思う。

近年の世界は、どちらかといえば「守り」の空気が強い。物価高、エネルギー不安、食料問題、地政学リスク、気候変動、人口減少…。社会全体に閉塞感が漂い、日々の生活維持そのものに関心が集中している。そうした時代に、宇宙という壮大なテーマは、どこか現実離れしたものに映るかもしれない。

しかし逆に言えば、こういう時代だからこそ、人類が長期的視野を失わないことも重要ではないか。目先の課題への対応だけでなく、文明全体としてどこへ向かうのかという視点も必要になる。

サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)とは、単なる環境対応や脱炭素化ではない。持続可能性を念頭に置きながら、社会そのものの構造をどう変革していくかという問いである。その意味で、宇宙事業は実は極めて象徴的な存在である。

宇宙開発は、単なるロマンや国家威信の話では終わらない。通信、気象、防災、農業、海洋監視、安全保障、エネルギーなど、地上社会の持続可能性と密接につながっている。宇宙を語ることは、実は地球社会の未来を語ることでもある。

かつてSDGsは、環境問題や社会課題への対応として整理されることが多かった。しかし現在は、その意味が少し変わりつつあるように思う。「社会そのものをどう維持するか」「不安定化する世界の中で、どう安心を支えるか」という方向へと重心が移っている。その意味でも、宇宙というテーマは、SX時代の重要な視点を与えてくれる。

宇宙と地上社会をつなぐ企業

宇宙というと、ロケットや探査機、あるいは月面基地のような華やかなイメージが先行する。しかし現実には、宇宙インフラは極めて地上的で、日常社会に密着した存在になりつつある。

そうした視点から見ると、日本企業の中でも興味深い存在がスカパーJSATである。同社は一般には多チャンネル放送の印象が強いが、日本最大級の衛星通信事業者でもあり、宇宙と地上社会をつなぐ独特のポジションを築いてきた。

拙著『ビヨンドSDGsと経営』でも、「スカパーJSATが拓く新しい地平――宇宙の視座」として紹介した。 同社の特徴は、「宇宙事業」と「メディア事業」という、一見すると異質な二つの事業を持ちながら、その接点を模索してきた点にある。衛星通信という社会インフラと、情報・文化を伝えるメディア。その両方を持つ企業は、世界的にも決して多くない。

SDGsが広がり始めた頃、多くの企業は、自社の活動をどの目標に結び付けるかに苦労していた。同社は比較的早い段階から、事業活動をSDGsターゲットレベルで整理し、自社の存在意義を「見える化」していた点でも特徴的である。

単なる理念ではなく、事業そのものを社会課題とどう接続するか。その視点は、ビヨンドSDGs時代にも重要性を増している。

近年は災害対応、海洋分野、航空、離島通信など、衛星通信の重要性が再認識されている。地上インフラが被災しても、宇宙から広域を支えることができる。特に日本のような災害多発国では、その役割は極めて大きい。

さらに、地政学リスクの高まりから、「安全保障としての通信インフラ」という側面も強くなっている。宇宙産業は、単なる成長産業ではなく、社会を支える基盤産業としての意味を持ち始めているのである。

〝つながり続ける力〟が社会を支える

社会を見ていると、「つながり続けること」自体が、大きな価値になっていることを感じる。

災害時でも通信が維持されること。離島や山間部でも情報が届くこと。物流や交通が止まっても、最低限の社会機能が維持されること。こうした「当たり前」が、実は極めて重要な社会基盤であることが、改めて認識され始めている。

SDGsというと、再生可能エネルギーや環境技術などが注目されがちである。しかし実際には、「社会が止まらないこと」「孤立しないこと」「安心して暮らせること」もまた、持続可能性の核心部分である。

その意味で、宇宙インフラの価値は今後さらに高まるだろう。宇宙は未来の夢というより、むしろ地上社会を支える〝縁の下の力持ち〟へと変化している。

拙著では、スカパーJSATについて、「宇宙とメディアを統合した世界でも稀なモデル」であり、「宇宙と文化を統合し、安心やつながりといったウェルビーイングを実装した」と整理した。 近年はSDGsに対する〝疲れ〟や形式化への批判も出ている。しかし、本来問われるべきなのは、「社会をどう維持するか」「人々の安心をどう支えるか」という視点ではないだろうか。

月の裏側を目指す宇宙開発は、華やかなニュースとして消費されがちである。しかしその背後では、「地上社会をどう支えるか」という、より現実的な問いが存在している。宇宙を見上げる時代は、同時に、地上社会を支える仕組みを問い直す時代でもあるのかもしれない。

 千葉商科大学客員教授 経営コンサルタント 笹谷秀光

SX時代の企業経営―ポストSDGsを探る―(27) 千葉商科大学客員教授 経営コンサルタント 笹谷秀光 「宇宙の視座からSXを考える」―スカパーJSATが示す新たな社会基盤―_千葉商科大学客員教授/経営コンサルタント 笹谷 秀光
千葉商科大学客員教授/経営コンサルタント 笹谷 秀光=クリックで拡大=
SX時代の企業経営―ポストSDGsを探る―(27) 千葉商科大学客員教授 経営コンサルタント 笹谷秀光 「宇宙の視座からSXを考える」―スカパーJSATが示す新たな社会基盤―_
=クリックで拡大=

おすすめ記事 recommend