ガソリン補助そのまま延長、温暖化対策と矛盾 電気・ガス高騰対策は地方創生臨時交付金で

政府は9日、物価・賃金・生活対策本部(本部長・岸田文雄首相)を首相官邸で開き、住民税非課税の低所得世帯への5万円の給付金やガソリン価格の高騰を抑える補助金の延長などを正式決定した。9月上旬にも新型コロナ対策と合わせ3兆円台半ばを予備費から支出する予定だ。ガソリン補助金の上限引き下げも一時検討されたが、最終的には現状維持へ方針転換した。温暖化対策と矛盾する。電気・ガスの補助金制度も検討されたが、自治体の判断で生活困窮者への給付金などに使われる地方創生臨時交付金の増額で対応することになった。バラマキ批判もある。

★5万円の給付金

電気、ガス料金や食料品の値上げで特に影響の大きい住民税非課税世帯を対象に「電力・ガス・食料品等価格高騰緊急支援給付金」を新設し、1世帯当たり5万円を支給する。全世帯の約4分の1に当たる約1600万世帯を想定。総額で9千億円程度を見込む。

5万円給付は、特別区を含む市町村から対象者にプッシュ型で通知する。低所得者の電力・ガス、食料などの価格高騰相当分は毎月約5千円とされる。その6カ月分を十分に上回る金額として、予備費から各低所得世帯に5万円を支給する。

5万円という金額については、松野博一官房長官は9日の記者会見で「低所得世帯の電力、ガス、食料品などの価格高騰による影響を十分に上回る金額」と説明。低所得世帯に給付先を絞った形だが、給付対象は全世帯の4分の1に当たる約1600万世帯に及ぶ。

住民税非課税世帯の約7割は高齢者世帯だ。だが、高齢者には収入が少なくても多くの資産を持つ人もいる。所得だけで線引きすると、国民の不公平感も高まりかねない。今回の給付金にバラマキの懸念があるのは、日本では所得や資産を細かく把握することができないからだ。支援が要る人を見極めて迅速に給付する仕組みが必要だ。マイナンバーに口座情報をひも付け、行政機関が収入や金融資産の情報を把握できるようにすべきだが、政府の取り組みは鈍いままだ。給付金の課題は新型コロナウイルス禍でも露呈している。

なお政府では一時、補助金で価格の上昇を抑えるガソリン補助金のような仕組みを電気やガス料金に取り入れる案が浮上した。だが、導入には時間がかかるとして、案がまとまらないまま、最終的にはこれまでも繰り返されてきた「給付金」で決着した。

食糧品の価格抑制では、10月の改定で2割ほどの上昇を見込んでいた輸入小麦の価格を10月以降も据え置くほか、飼料価格の高騰による畜産農家の負担も抑える。

地方自治体が自ら使い道を決められる地方創生臨時交付金には6千億円規模の交付金「電力・ガス・食料品等価格高騰重点支援地方交付金」を創設し、都道府県や市町村に交付する。自治体が地域の実情に応じて判断し、商品券などの消費下支え、省エネ家電買い替え支援、中小企業のエネルギー対策費などに充てられる。

今回の交付金創設については、次のような指摘もある。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係をめぐって支持率が落ち込んでいる岸田政権としては、来春に統一地方選挙を控える中、ガソリン補助金の延長や地方創生交付金に6千億円の交付金を新たに設けるなど、地方に配慮した政策で支持をつなぎとめたいという思惑がにじむという。

★バラマキ批判も

9月末で期限が切れるガソリン、軽油、灯油などへのいわゆる「ガソリン補助金」は年末まで延長する。

ガソリン価格を1㍑168円程度に抑えるため、ENEOSなどの石油元売り会社に1㍑当たり上限35円を補助する仕組みなどを維持する。3カ月の延長にかかる費用は1兆3千億円程度で、補助金を出し始めた1月からの合計は3・2兆円となる見通しだ。

補助制度はガソリンなど燃料油の価格上昇を一時的に緩和する対策として、1月下旬に上限5円で始まった。ウクライナ危機で原油価格が高騰し、これまでに2回、補助の上限を引き上げ、期間も延長してきた。現在はレギュラーガソリンの全国平均価格が1㍑当たり168円を上回る場合、35円を上限に補助金を支給している。上限を超えた場合は半額を出す仕組みだ。原油価格は高止まりし、毎月約3千億円を投じている。9月までに1兆8822億円の予算が計上され、今回1・3兆円程度が積み増される。予算額は計3・2兆円に膨らむ。

政府は一時、補助の上限額を11月に30円、12月に25円へと5円ずつ段階的に引き下げ、補助金制度を縮小する方向で検討していた。しかし、世界的なインフレが一向に収まる気配がない中、官邸内で「これから物価高騰対策をしようという時に、上限を引き下げるのは矛盾したメッセージを与えかねない」と異論が上がり、上限引き下げ案は最終的に撤回された。

足元で進行中の急速な円安も撤回を後押しした。与党からも「手じまいさせる局面ではない」との声が出ていた。

しかし、補助金は市場メカニズムをゆがめ、バラマキ政策との批判も根強い。そもそも市場で取り引きされる価格に政府が介入する異例の政策だった。足元では電気代やガス代の値上げが進んでおり、ガソリンや灯油といった燃料だけに着目した補助を続ける説得力が薄れつつあるからだ。

「ガソリン補助金」で燃料価格を抑え続ければ、省エネの取り組みが遅れ、地球温暖化防止に逆行するのも問題だ。