エネルギーコンサルタント・越智文雄の「持論・時論・自論」+ 特別鼎談「最新の国際情勢と国内の課題」 (4)
最終回
越智 根室から最短3.7kmしか離れていない北方領土でロシア軍が毎年大演習を行う。この演習の仮想敵は日本以外にはあり得ず、日本がロシアが占有する北方領土を占めてくることを防衛するか、もしくはロシアが北海道に上陸、侵略する訓練を行っているのです。
射程距離内にある泊原子力発電所にミサイル一発を命中させれば北海道の半分と東北に人が住めなくなるのですから、歴代政府がこの問題に目も耳も塞いでいることが信じられません。尖閣問題のある沖縄では、ミサイル戦に備えてシェルターを作り、島民全てが九州、山口に避難する計画も現実に立てられています。
堤 外務省や防衛省は何をやってるんでしょう。見ていても見えない、聞こえていても聞こえない、自分たちの手に負えないことが起きるとツボの中に頭を突っ込むダチョウを思い出しますね。
先日元外交官の山上信吾さんと討論番組でご一緒したんですが、「外務省が日本を守らなくなった、劣化した」と嘆いておられました。国はもう地方を守ってくれません。北海道も、多くの土地や貴重な地元企業が買われ、実質的に経済界が侵食されつつあることに心配の声が上がっている自治体の一つです。国をあてにせず、地方議員や経済界が、地元を守らなくてはなりません。
越智 今、私が手がけている最も日本の役に立つと思われるエネルギー問題は、照明の2027年問題と空調の自然冷媒化です。WEB番組「堤未果のアンダーワールド」で大きな反響があったそうですが、中国の資源戦略によりあと2年半で日本中の照明をLED化せざるを得ず、それに間に合わなければ停電するしかない。ただし、これを達成できれば蛍光管3億本で発電所10基分の省エネが実現する。
また、世界では普及が始まっている空調の冷媒ガスを自然冷媒に変える動きは、照明の比ではない莫大な省エネと脱炭素をもたらします。何よりこれほど高騰している電気料金負担を半減することができる現実的な方策です。物価高対策にも数兆円規模の波及効果を持ち、消費税減税とは別の次元で国民生活を楽にします。もともと民生用の照明と空調は日本の主要な省エネルギー政策の柱でした。なぜこれを政府は産業界にも、経済界も国民にも知らせようとしないのか。
堤 東日本大震災の後も、日本のエネルギー政策の中枢には原子力再稼働がずっとありますね。先日スペインで起きた大停電は、中国寄りの政権が省エネと脱炭素政策として再エネ比率を7割超まで引き上げたことによるもので、揺り戻しのように原子力回帰の声が上がっています。問題が多い原子力に戻りたくない人は頭を抱えていますが、第3の選択肢という発想に注目すべき時でしょう。そもそも、高い電気料金を払えずに熱中症で亡くなる人が毎年増えている日本で、クーラーの電気料金が半分になる方法を国民に知らせないこと自体、罪ですよ。
越智 世界では熾烈な資源外交、経済戦争が行われているのに、日本だけはローカル課題の原子力再稼働が最優先されています。原子力が必要になれば原子力は動きます。それに忖度して日本のお家芸のはずの省エネルギーが、エネルギー基本計画に盛り込まれていないのですから政治と官僚とメディアには失望せざるを得ません。
川田 私は国政に入った時から脱原発の立場ですが、同時に太陽光パネルや風力発電など、薔薇色の報道をされ続けている再エネの持つ問題にも取り組んできました。再エネは原材料を中国に依存せざるを得ないという有事のときの懸念もあります。日本は技術大国なのですから、エネルギーに関してもできるだけ有事に強い第3の道を模索するべきでしょう。LEDに変えること、空調の冷媒ガスを自然冷媒に変えることなど、いま越智さんが仰ったようなことは、多くの国会議員も知りません。エネルギー外交について目先の利権ではなく国益を見据えて、政府はもっと真剣に取り組む必要があります。
堤 一つ朗報は、コロナ禍で主要メディアが偏った報道を繰り返すことへの失望が広がった結果、国内外で本当は何が起きているのか、情報を自分の手で取りにいく日本人が急激に増えていることです。私の会員制WEB番組「堤未果のアンダーワールド」にも、コロナ禍で5万人以上が登録しました。今日の鼎談に出たようなお話は本当に貴重です。今後も日本と世界の最新情勢や、日本の素晴らしいものを守るための情報をしっかり発信していくので、注目してください。 (次回は、6月16日配信予定)