フーマ26kankyo_850150_2026

環境福祉学講座(191) 環境福祉からウェルビーイングを見る(11) インクルーシブ社会がウェルビーイングを推進

ウェルビーイング実現の方策

前回まで述べてきたように2月8日、富山県立イタイイタイ病資料館で開催された「イタイイタイ病を考える県民フォーラム」で、「ウェルビーイングのまちづくりを目指して」と題して講演を行ったが、この時の内容を基礎にして本稿を執筆している。講演ではイタイイタイ病の被害を教訓にして、地域社会でウェルビーイングを実現するための方策について述べた。

ウェルビーイングを具体化するために3項目の方策を話した。第1項目と第2項目は前回述べたが、全体像を把握してもらうため、重複を避けながらこれについて若干述べることにする。

第1は、優れた環境の創生である。イタイイタイ病は、環境に筆舌を尽くしがたいほどの被害を与えた。環境の重要性を誰よりも知っているのは、被害地域の住民である。そこで、被害を回復だけにとどまらず、他の地域の模範になるように優れた環境を創生して欲しいと訴えた。

19世紀後半にイギリスでのナショナルトラストの創設者の一人であるオクタヴィア・ヒルは、環境が健康の基盤であると考え、国民に優れた環境を提供することに力を尽くし、成功した。このイタイイタイ病被害地においても、同様の挑戦を期待したい。すでにその萌芽を見ることができる。

第2は、環境活動や環境産業の振興である。公害被害地の経験を生かして住民が参加する環境活動を活発化する。環境学習や自然保全活動、リサイクル活動などたくさんの活動が考えられる。

私は、「富山県ホタルの会」という民間の有志の集まりの顧問を仰せつかっている。きっかけとして、中学生の時の理科の教師であった水上哲夫先生が、県内の自然環境の悪化によるホタルの減少を憂え、生前、ホタルの保護、繁殖活動に熱心に取り組まれた。  

この活動の効果が実を結び、姿を消していたホタルが県内の各地で復活するようになった。これが評価され、環境大臣賞を受賞されている。

この活動を広く持続的に続けるために、賛同者を集めて「富山県ホタルの会」を結成された。私は専門家でないが、先生の思いを支援するため、顧問に就いた。今でも先生の遺志を継いで同会の活動は続いている。このような活動が被害地でもたくさん行われれば嬉しいと思う。

ちなみに、宮本輝の芥川賞受賞作である「蛍川」は、クライマックスに蛍が乱舞する切ない小説であるが、モデルになった川は富山市中心市街地を流れる「いたち川」である。

環境産業の振興は、環境を向上させるとともに、雇用や富をもたらすことができる。前回は、アメリカのチャタヌーガ市、イギリスのヘイ・オン・ワイ、オーストリアのギュシングと外国の例を挙げたが、日本にも成功例は多い。人類史上最悪の公害被害地である水俣市では、環境モデル都市づくりを宣言し、1998年(平成10年)には日本の環境首都の認定を受けている。

水俣市では市民に22種類に廃棄物を分離するように求めている。これは市民にとって相当の負担になっていると推察するが、市民は協力的である。高齢者に対しては近隣の人が助けているが、住民のつながりの醸成に役立っているだろう。22に分けられた廃棄物はリサイクル産業に回される。

私が関係している栃木県小山市の障害者就労施設パステルでは、桑の木を1千本以上植えている。桑の葉を採取して乾燥させ、お茶、パン、うどんの原料として販売し、好調である。繭づくりにも進出し、製作された繭は、業界では高い品質との評価を得ている。

桑の木は成長が早く、自然の回復には効果的である。次々に育つ葉を採取して利用することは、地球温暖化に貢献する。

この事業は、イタイイタイ病被害地に近い富山市八尾町の福祉施設「フォレスト」の事業をモデルにしたものであるので、きっと同種の試みはこの地でも検討に値するだろう。

インクルーシブ社会の形成へ

第3は、インクルーシブ社会の形成に向けた行動である。イタイイタイ病は発生当時から厳しい偏見・差別を受けた。原因が分からず風土病とか業病とか呼ばれた時代に私は、富山県で小学生時代を過ごした。「あの地域に近づくな」のような大人の言葉が耳に入ってきた。

今日ではこのようなことは少なくなったと思うが、時々「イタイイタイ病の真相は〇〇だ」という言説が飛び交う。

近年、経済・社会構造の変化や情報社会の進展等により、社会的排除や孤立化が激しくなった。公害被害者だけでなく、障害者、難病患者、認知症高齢者など多数の人が排除され、孤立化している。

この問題を解決するためには、人と人との結び付きを強化し、インクルーシブ社会を形成することである。このためには前述の水俣市のように、環境関係の活動は効果的である。これによって人々は、ウェルビーイングを実感することができるだろう。

 恩賜財団済生会理事長 炭谷 茂

環境福祉学講座(191) 恩賜財団済生会理事長 炭谷 茂 環境福祉からウェルビーイングを見る(11) インクルーシブ社会がウェルビーイングを推進_恩賜財団済生会理事長 炭谷 茂
恩賜財団済生会理事長 炭谷 茂=クリックで拡大=

おすすめ記事 recommend