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宇宙から見る気候危機(27)

人と人とのつながりの意外さに驚かされることがある。この例もそうだ。ノーベル化学賞を受賞し、人間がCO2を出し続ければやがて地球の気温を上昇させると予測したスウェーデンのスバンテ・アレニウス(1859~1927年)。そして強力な気候変動対策を世界に求める同国の環境活動家グレタ・トゥーンベリさん(19)。なんと2人は親戚なのだ。

CO2に着目したアレニウス

グレタの父親の俳優スバンテ・トゥーンベリがアレニウスと親戚関係にある。アレニウスは電解質が水中でイオンに解離しているとする電離説を提唱した業績で1903年にノーベル賞受賞。その後、生命の起源にも関心を示し、生命の種が宇宙に広く存在しているとする「パンスペルミア説」を唱えた。専門の物理化学だけでなく、温暖化から宇宙、生命までの幅広い分野を研究対象にした学者だ。

18世紀後半に英国で起こった産業革命は欧米に広がり、世界の大気中のCO2濃度は19世紀半ばごろから急増し始めた。この事実を知るはずもないアレニウスだが、1896年に温室効果ガスのCO2によって地球の大気が暖められることを計算で示し、人類がCO2を出し続ければ、やがて気温を上昇させると予測した論文を発表した。

アレニウスは気温上昇を否定的に捉えず、地球上で繰り返される氷期、間氷期のうち次の氷期の到来を食い止めるかも知れないと肯定的に考えた。グレタと母親のオペラ歌手マレーナ・エルンマンの共著『グレタたったひとりのストライキ』は、この論文について「アレニウスの計算では、大気中の二酸化炭素割合が現在の数値になるには2000年かかるはずだった。もちろん彼は、後世の人々が化石燃料漬けになるとは考えたくなかったのだろう」と書いた。

現代のジャンヌ・ダルクに

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2018年10月、「1・5℃特別報告書」を発表した。産業革命前から21世紀末までの気温上昇が2℃と1・5℃では我々の生活や環境への影響が随分違うことが示され、関心を集めた。それより前の同年8月、当時15歳のグレタはスウェーデン政府の気候変動対策は不十分だとして学校ストライキを始めた。

グレタの座り込む姿がSNSで世界中に拡散され、メディアの取材も殺到した。こうして特別報告書と時期を合わせるようにグレタの行動は世界中に知られ、気候変動問題のジャンヌ・ダルク的存在となった。その後も金曜日に「未来のための金曜日」(FFF)と名付けて国会議事堂前に立った。19年9月20日は160カ国以上で若者ら計400万人以上がデモに参加し、気候変動対策を訴えた。

「科学の重視を」と訴える

数日後に米ニューヨークで開かれた気候変動サミットでのグレタの演説も科学重視を強調し、「科学は30年以上にわたって極めて明白だった。あなたたちは私たちを見捨てている」「人々は困窮し、生態系は崩壊している。それでもあなたたちはお金と永続的な経済成長というおとぎ話を語っている」と参加者たちに迫った。世界の科学者たちは拍手喝采し、米タイム誌は19年の「今年の人」に選んだ。

グレタの主張の特徴は「科学者の声を聞き、科学に基づいて団結し行動してほしい」「科学が危機感を伝えてきたのに、政策を決める権力者が見て見ぬふりを続けてきた」などと科学や科学者を前面に出すことだ。SNSでも発信を続けるグレタは環境問題への関心の高まりは評価しつつ、「世界のCO2排出量はほとんど減らないなど、成果は上がっていない」と言う。

CO2による温暖化を解明したアレニウスと科学重視を訴えるグレタ。2人はやはりどこか通じている。世界の若者が熱烈に支持する半面、反感や批判にもさらされる彼女の素顔に迫るドキュメンタリー映画『グレタひとりぼっちの挑戦』が世界で公開された。来年1月3日には20歳に。気候危機が深刻化する中で一層注目されるだろう。

 科学・環境ジャーナリスト 横山裕道

21年7月に初めてコロナワクチン接種を受けたグレタさん(本人ツイッター画像)とアレニウス(Wikipediaから)
21年7月に初めてコロナワクチン接種を受けたグレタさん(本人ツイッター画像)とアレニウス(Wikipediaから)