私たちが望む都市(36) 都市農業のすすめ(2)

持続可能な都市には都市農業が必要だという。その理由はいくつかある。

一つは、都市の食料の補完的供給である。いったい食料は、私たちにどのくらい提供されているのか。例えば、800万人が暮らすニューヨーク市の場合、日に3日分の新鮮な食料が供給されているというが、この「3日分」という数字が、今日の多くの都市で平均的な数値である。これが、多いのか少ないのかは、一般家庭で想像すると分かりやすい。つまり、平素ならば日に日に積もる余裕ある備蓄量となり得るが、ひとたび気候災害などの自然災害が起こり、供給網が分断されれば、たやすく食料不足に陥る数値なのである。そのため都市は、何らかの崩壊に備えて、流通システムを多様化する必要性にとらわれている。

上述のニューヨークでは、道路だけでなく鉄道や水上輸送を含む新しい輸送インフラを整備した。これにより、新しい生産地とつながって選択肢を増やしつつハンツポイントのような大型商用トラックが行き交う輸送地区の負荷を減らすことになり、CO2の排出抑制にもなった。一方で、都市部や都市近郊での農業(都市農業)の生産を増加させ、ファーマーズマーケットや日曜市、協同組合のような地域に根ざした社会ネットワークを構築し、それに必要な社会インフラを整備して地産地消の食品小売りの形態を強化した。

都市農業の強化は都市の災害からのレジリエンスを強化し、社会発展や経済発展につながる。雇用機会を創出し、地域の経済活動の活性化に寄与するが、併せて地域の地権、借地権、環境保護に対する意識などを認識させ、地域に対する責任も増加させるだろう。また、イギリスやドイツ、オーストリアなどのヨーロッパでは、都市農業が、異なる文化や背景を持ったさまざまな年齢層の人々を社会に統合させるきっかけになることが分かっており、都市農業が推進される背景にはそんな事情もある。実際、こうした国々は、難民や移民と一緒に農業現場やコミュニティガーデンで働く機会が設けられている。

しかし、都市農業は商用のものだけをそう呼ぶわけではない。家庭菜園、コミュニティガーデンのような形態の方が多いだろう。この自分たちで消費する作物を育てることは、都市の貧困層が新鮮で栄養価の高い食品を手に入れる絶好の機会となる。アクセスの不平等を解消し、よりバラエティーに富んだ食生活が約束され、金銭の節約にもつながる。また、作業は運動でもあり、他の住民とのつながりもできるかもしれない。それらは相対的にそれまでの生活スタイルを見直すことをさせるだろう。

都市部(都市とその周辺)は世界の天然資源消費の75%を占めるが、面積は地球の地表のわずか2~3%にすぎない。そしてそれが世界の廃棄物の50%以上を生み出している。

国連環境計画がそう報告してから10年が経つが、その後コロナ禍もあり、都市農業の重要性は増した。次回は、そうした趨勢が生み出した新しい都市農業の形態について述べよう。

ランドスケープアーキテクト(ASLA)小出兼久研究室代表 小出 兼久

都市の生産緑地は食料安全保障として失えないものであり、コロナ禍を経て近隣の供給地の重要性は増している
都市の生産緑地は食料安全保障として失えないものであり、コロナ禍を経て近隣の供給地の重要性は増している