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寄稿 ◎ 環境システム計測制御学会名誉会員 中里 卓治 第7回JSWA/EWA/WEF特別会議に参加して

はじめに

JSWA(日本下水道協会)とEWA(欧州水協会)、WEF(米国水環境連盟)が主催する第7回特別会議が先月15~16日の2日間、仙台市で開かれました。この会議は、日米欧の下水道関係者が技術的・行政的な課題とその解決策について意見交換する場として、原則3年に1度開催されています。筆者は「レジリエンス」というテーマに興味をもち、聴講しましたが、期待通り国内外の下水道レジリエンスの現状を幅広く知ることができました。以下、海外勢を中心にいくつかの発表内容を紹介します。

エネルギー自立を目指して

まず、印象的だったのは「下水処理場をエネルギー基地にしよう!構想でなく、現実に!」という長い題名のドイツ、エムッシャー川・リッペ川流域管理組合のトルスティン・フレーマン教授によるボットロプ下水処理場の発表でした。

この下水処理場はドイツ西部に位置して処理人口130万人とドイツでは最大級です。汚泥処理は周辺の施設の分も含めて400万人分を処理しています。この下水処理場は、これまでに日本では何回かエネルギー自立の下水処理場として報道されていますが、今回はその詳細報告になりました。

そもそも下水処理場の創エネが消費エネルギーを上回るというのは驚きですが、ここでは2010年から準備を始めて20年にはエネルギー自立の目的を達成したそうです。その内訳は、焼却炉廃熱発電用蒸気タービンとコジェネレーションプラントおよび水処理施設の高効率化を目指した更新工事と運転改善で10年間に20%の省エネを進めたことが中心でした。さらに太陽光発電、風力発電を新設しました。

また、日本では考えられていないことですが、脱水汚泥の太陽熱乾燥施設を建設しました。これは、汚泥焼却の省エネを促進するものですが、全敷地の4分の1ほどを使って温室風の施設を建設して脱水汚泥を天日乾燥するものです。脱水汚泥の表面が乾燥するとエレクトリック・モールと名付けられたロボットで自動的にうね返しします。

下水処理場のエネルギー自立のためには、徹底した省エネと周辺から汚泥を大量に集める努力が必要でした。また、脱水汚泥の天日乾燥は目から鱗、というのが筆者の印象でした。このようなエネルギー自立が下水処理場のレジリエンス強化に貢献します。

EPAのレジリエンス

2つ目の注目発表事例は「米国上下水道事業における災害レジリエンス向上策」を発表した米国環境保護庁(EPA)のデビット・ゴールドブルーム氏です。

EPAのレジリエンスの定義は、「上下水道施設においてサービス途絶をさまたげる自然災害やテロ、事故に備えて被害を緩和し、迅速に対応し、サステナブルに復旧すること」とされています。そして、レジリエンスへのアプローチでは、準備(Preparedness)と応急復旧(Response)、本復旧(Recovery)、減災(Mitigation)の4つの手法が基本になります。

準備段階ではリスクを想定することや計画立案、訓練の実施などで、上下水道のレジリエンスを強化することが大切です。リスクは「脅威の大きさ」と「好ましくないことの影響度」、「脆弱性」の3つの積で表せますが、EPAはこのリスクを金額に換算できるアプリを開発して提供しています。このアプリを使うと金額ベースのリスクアセスメントが簡単にできるそうです。また、気候変動やサイバー攻撃に対する上下水道のアセスメントについても支援しているそうです。

次に、発災直後の断水や下水の流下阻害に対応する応急復旧です。このとき、米国では被災した事業体に隣接する事業体が相互に支援する制度があり、可搬式排水ポンプや発電機、高圧洗浄車、がれき撤去班、水質検査班などを派遣するそうです。このルールは、事業体の費用縮小や対応時間の短縮効果が期待できます。この段階では、EPAのアプリOn-The-GoをダウンロードしておくとスマホでEPAが提供する最新の災害情報やチェックリストが利用できるそうです。

本復旧段階では膨大な費用が必要になります。このため、事業体は連邦政府などからの補助金を求めることになりますが、各部門にまたがる複雑な補助金の整理のためにEPAはホームページに上下水道事業体のための連邦政府補助金のページを用意しています。

最後は減災です。事業体は減災を目的として被害が発生する前に措置したり、被害を低減したりしてサービス再開時期を早めます。復旧時にも、次の災害に備えた減災措置をすることもあるそうです。米国緊急事態管理庁(FEMA)の分析によると、減災の費用は被害額の6分の1で済むそうです。

このようにEPAではアプリやホームページを使った支援が一般化しているようで、日本でも見習いたいところです。

ハイブリッド・センサー

3番目の注目発表事例は「多目的センサーを用いた水管理における危機探知」を発表したノルウェー生命科学大学のハルシャ・ラツナウィーラ氏です。

人為的および自然災害による事故で上下水道の機能が損なわれることがありますが、最近ではサイバー攻撃も増えてきました。これらの被害を減らすには、従来のオフライン計器では不十分でpHや温度、電気伝導度、流量などの物理的センサーによるオンライン化で早期警戒システムを構築することが有効です。

水セクターのデジタル化は進展していますが、センサーも進化していて浮遊性固形物濃度(SS)を計るのに光学的に濁度を測定すると時間もコストも軽減します。物理的センサーと仮想的なセンサーを組み合わせたハイブリッド・センサーは低コストで高信頼性であり、大量のセンサーを自由に使い、ビッグデータのツールとしても有用です。従来のCOD計や窒素・リン計をハイブリッド・センサーに置きかえることによって水域の消毒副産物や微生物指標の解析にも応用できそうです。

この発表はリモートでしたが斬新な話題でした。発表を聴いた印象としては、センサーのスマート化、ネットワーク化が下水道のDX(デジタルトランスフォーメーション)につながり、下水処理を変える可能性がある、ということでした。日本のメーカーもこの分野では頑張ってほしいと思います。

おわりに

特別会議では複数の海外の発表者から下水道の「デジタルツイン」などDXに関わるコンセプトを述べていたのが印象的でした。日本の下水道界は、まだまだ新たに取り組むべき課題が多い、というメッセージを受け止めた2日間でした。

環境システム計測制御学会名誉会員 中里卓治
環境システム計測制御学会名誉会員 中里卓治
仙台国際センターでの特別会議
仙台国際センターでの特別会議