東風西風 とうふうせいふう

「香魚」とも表記されるアユ。食べるとキュウリや若草のような独特の香りがする。川魚らしくないこの香りが、アユを初夏の代表的な味覚とする理由の一つだろう▼この香りのもととなるのが、アユが主食としている川底の苔(藻類)だとされる。山形県鶴岡市は、下水処理水を使って藻類を繁殖し、それをエサとしてアユを育てる研究に取り組んでいる▼2019年度から下水処理場内に養殖のための池を設置。アユの生育を阻害するアンモニア態窒素を低減するための水質環境を整備。池の中の藻類や藻類以外の人工エサの量、池の水温、養殖したアユに含まれる重金属の含有量など、さまざまな調査、実験を重ねた▼こうした試行錯誤の結果、天然ものにひけをとらない香りと風味のある養殖アユを育てることに成功した。市は、次のステップとして、藻類で育てたアユの商品化を目指しており、このほど愛称の募集も始めた▼下水汚泥の肥料化に始まり、消化ガス発電事業、下水処理水を使った飼料用米の栽培、そしてアユの養殖。こうした鶴岡市の取り組みは、地域の資源を最大限に活用した持続可能な循環型社会づくりのヒントになる。ウクライナ危機で資源・エネルギー価格が高騰する今こそ、こうした取り組みを各地で広げたい。(宜)