東風西風とうふうせいふう

海中での写真撮影に夢中になり、「ガンガゼ」というウニの一種に触れてしまって痛い目に遭ったことがある。20㌢もの棘(とげ)を持つ強者で、ウエットスーツの上からでも有毒の棘を皮膚まで刺してくる。20本以上の棘が刺さった腿は数日間腫れ、痛みが治まった後も棘と強い痒みは長く残った▼ガンガゼは雑食で生命力が強く、大量繁殖して周囲の海藻を芽まで食べ尽くし、いわゆる「磯焼け」の一因となる。ダイバーのみならず、ブルーカーボン生態系や多様な海洋生物の餌となる海藻類にとっても天敵だ▼その憎きガンガゼを食用に育て直し、地域特産物に仕立てたのが愛媛県愛南町(まさに刺された当地)だ。地元農産物のブロッコリーを餌にすると、苦みやえぐみ・臭みが消え、さらに地元産のかんきつ類を与えると独特の風味も加わったという▼「ウニッコリー」などと、まるでポケモンの一員のような名をもらい、地元の観光施設や飲食店で海鮮丼の主役として人気を博しているそうだ。海の嫌われ者の姿を知る者には、にわかに信じがたい▼だが、ぜひ訪ねて食べてみよう。餌のブロッコリーは、出荷時に切り落とされる茎や規格外品。かんきつ類も同様で食品廃棄物の活用だ。仇討ちと同時に食品ロス対策にも貢献。美味い話である。(孝)