環境福祉学講座(198) 環境福祉からウェルビーイングを見る(13) 第6次環境基本計画が目指すウェルビーイング
第6次環境基本計画のウェルビーイング
2024年5月に策定された第6次環境基本計画の最上位の目的として、「環境の保全を通じて、現在及び将来の国民一人一人の生活の質、幸福度、ウェルビーイング、経済厚生の向上」としている。ウェルビーイングを目的として掲げたことは、環境政策の今後のあるべき方向として高く評価できる。
しかし、目的としてウェルビーイング以外に3つの事項を列挙しているが、内容が重なり、同じ意味をさまざまな角度から表現したに過ぎない。第6次環境基本計画の目的を国民に明確に訴えることを妨げている。4つの目的を列挙したのは、計画策定過程で出されたさまざまな意見に配慮したためか、あるいはウェルビーイングでは分かりにくかったのではと推測している。
これは第6次環境基本計画全般にわたることだが、たくさんの意見や考えを取り入れようと努めたために表現が複雑になり、国民に分かりにくくしている。むしろウェルビーイングに絞ってシンプルに表現した方が良かっただろう。
計画は目的、ビジョン、方針、政策展開の構成になっている。これらの関係性が読む人の理解を困難にする。「新たな成長」「国民の本質的ニーズ」「政府、市場、市場の共進化」という概念も国民に容易に理解できない。「ネイチャー・ポジティブ」「Eco‐DRR」「地上資源」という専門用語も難解だ。
環境基本計画は行政官や学者だけでなく、国民、企業、団体の理解と協力が必須だが、これらの分かりにくさは妨げになる。
このような難点を感じるものの、第6次環境基本計画は、ウェルビーイングの概念を中核に置いたことは画期的である。ウェルビーイングを市場的価値と非市場的価値に分けて説明している。前者には賃金、GDP、金融資産等、後者には健康、快適さ、主観的幸福感等があるとし、双方を引き上げていくことを目指している。ともすればウェルビーイングでは後者だけが強調されるが、両者とも重要である。
問題はこれらに対して環境面がどのように影響を与えるかである。計画ではこの点に力が入れられている。本欄でも述べてきたように環境と福祉がウェルビーイングの中核なので、計画で具体的に記述されていることは、環境活動実践者にとって参考になる。
計画は「ストック重視」がウェルビーイングを向上させると述べる。中でも自然資本が人類の存続や生活の基盤であるので、健全な自然界の物質循環が維持されることや環境負荷の総量を削減することが必要である。さらに良好な環境を維持するため自然資本の充実が指摘されている。
ウェルビーイングを実感する
第6次環境基本計画はウェルビーイングを中心に据えられたが、ウェルビーイングそのものが分かりにくいという批判を受ける。これに応える一番効果的な方法は、人々がウェルビーイングを実感することである。
私は、人口減少が続いている日本で人口が増加している市町村は、ウェルビーイングが高いことが大きな理由という仮説を立てている。25年の国勢調査速報が発表されているが、26年6月20日付の日経新聞は、前回の20年調査に比べ26市町村の人口が減少から増加に転じたと報じている。
その中で増加率が第1位の北海道南幌町は7・8%の増加率である。札幌の通勤圏であるが、安価に住宅を購入できる優位性がある。しかし、前回の国勢調査では減少していたから、前述の日経紙は、町が18年に子育て世代の住宅新築に最大200万円の補助制度を設けたほか、中学生までの子どもがいる家庭に1人年間10キロのコメを配布するなどの政策が効果を挙げたと述べている。これは福祉的な側面である。
一方、環境面はどうだろうか。平坦な広々とした地形で、四季の風景の美しさを誇る同町が居住希望者に好まれたのではないか。町では「みどり野ゼロカーボンヴィレッジ」プロジェクトを推進し、持続可能な自然共生型のまちづくりを目指している。ウェルビーイングの面からも人口増加を説明できる。
第2位の熊本県西原村は隣接する菊陽町に半導体メーカーのTSMCが立地した影響が大きい。絶好のチャンスを逃さまいと、子育て世代に住宅援助費助成をしている。環境面では「水と緑とひかりの村」というキャッチフレーズを使っており、豊かな自然が移住者を引き寄せている。
第3位の愛知県高浜市は名古屋市のベッドタウンの役割を果たしているが、自然環境に優れ、コンパクトな町で利便性が高いことが人口増加の大きな理由である。
このようにウェルビーイングが高いと人口増加となり、自治体は発展する。これらの自治体の住民はウェルビーイングの意味を実感していることだろう。
恩賜財団済生会理事長 炭谷茂